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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
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プロローグ 『無力な僕と優しいヒーロー』

 ――ああ、今日も。


 今日もどこかで誰かが泣いている。

 鼻水をすすって、嗚咽を漏らして、歯を食いしばって耐えている。

 何に耐えている?

 苦しみに耐えている。

 苦しみと、痛みと。

 そしてそんな感覚が麻痺するほどの耐えがたい恥辱に、耐えている。

 今日も君は耐えている。


 ――ああ、今も。


 今も誰かがそこで泣いている。

 すぐそばで泣いている。僕の目の前で泣いている。

 手を伸ばせば届く距離で、いつも誰かが泣いている。

 左手で涙を拭いながら、右手はいつも伸びている。

 虚空に手を伸ばし、震える声で呼んでいる。

 助け(ヒーロー)を、求めている。



 *



 もしも何でもできる神様がいるのなら、それはどんなに残酷な存在(ヒト)だろう。

 だってこの世界には悲しみや苦しみが溢れているのに、そのすべてが視えているのに、何もしてはくれないのだから。

 もしも神様が無力なら、それはどんなに可哀想(哀れ)存在(ヒト)だろう。

 雨のように幾筋も頬を伝う涙が見えているのに、悲しみを押しつぶすような嗚咽が聞こえているのに、どうすることもできないのだから。

 その涙を拭ってあげることも、幸せを与えてあげることも、何もできないのだから。


 ――だから、これはちょっとしたサプライズであり、そしてほんの少しだけ嫉妬交じりのいじわるだ。


 何もできない僕に代わって、悲しみに立ち向かった――勇敢なヒーロー。

 何も持たない――平凡なヒーロー。

 特別な力なんて何も持たないくせに、それでも最後まで正しく生き抜いた――愚かなヒーロー。

 優しいくせに残酷で、正しいくせに間違い続けて。笑顔を願ったはずなのに、結局最後は涙で終わった、矛盾まみれの――弱いヒーロー。

 優しくて、強くて、正しくて。でも一度だって自分でそれを認めなかった――馬鹿なヒーロー。

 人である弱さと向き合い、無力さに苦しみ、それでも人として生きようとした――誇り高いヒーロー。

 痛みから目を背けず、勇敢にそれに立ち向かい、己を犠牲にしてでも誰かの幸せを願い続けた――

 (痛みから目を背けられず、業に縛られ、逃げられず、身を裂く茨に身を置いても、変わらず誰かの幸せを願い続けた――)

 ――優しいヒーロー。

 最期まで、自らの死を悟った時にさえ誰かの幸せを願った――本物のヒーロー。


 まったく、本当に困った。

 つくづく僕とそっくりで、だからこそ愚かで愛しいバカな人間だ。

 そっくりなくせに、それでも彼は助け続けた。

 そっくりなくせに、それでも僕は何もできない。

 そっくりなくせに、彼には想ってくれる誰かがいた。

 そっくりなのに、僕にはそんな――……


 ……まったく、本当に可笑しな話だ。

 神がただの人間に自分を重ね、……嫉妬して、更には心の底から敬意さえ抱いてしまっているのだから。


 だから、どうか彼にも同じ思いを味わってもらおう。

 見ていることしかできない痛みを、手を伸ばせないことの苦しみを。

 そして見届けてもらおう。

 彼が紡いだ物語がどんな結末を迎えるのかを。

 彼が幸せを願い願われた彼女達が、どんな選択をしたのかを。


『――優しくて不器用な君が、少しだけ僕に似ていたから、かな』


 消えゆく彼に言いながら、僕は初めてできた友人のような存在に、ちょっとしたサプライズを仕掛けるようなワクワクに頬を緩めながら―――そっと願った。


 どうか今度こそ傷つくことなく、彼が幸せになれますように。

 無力な僕だけど、願うことはできた。


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