表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
65/113

色失き世界と幸せの在り処(2)

 ――神様みたいな人だった。


 もしも神様がいるのなら。もしかしたら、この人にそっくりなんじゃないかなって、こっそり思ってた。

 その目にはいつも人の痛みや苦しみばかりが見えていて、いつも無力を嘆いてばかり。

 本当の意味で平等な優しさを持つ人は、この人みたいにいつも傷ついて、迷い苦しんでいるのだろうって、彼を見て思った。

 彼はいつからかモモちゃんのことしか見なくなっちゃったけど、根っこのところは昔から何も変わっていなくて。

 一度その苦しみに気づいてしまったら、誰にだって救いの手を差し伸べようとした。彼にとって特別であっても、特別でなくても。

 それはきっと平等で、本物のヒーローだと思った。



 彼のお葬式で、モモちゃんが泣いていた。すごく、すごく泣いていた。このまま彼の後を追ってしまいそうなくらい、その顔は悲しみに染まっていた。

 きっと私やメメちゃんも、同じような顔をしていた。

 お葬式には彼の両親もいた。二人とも、棺の中の冷たい薫ちゃんに何度も謝っていた。

 涙を流して後悔したところで、もう彼は恨み言さえ返してはくれないのに。


 トモちゃんに彼の死の理由を聞いて、思わず笑ってしまった。彼らしいって、心から思った。涙が止まらなかった。

 何度も何度も、トモちゃんは私たちに謝った。彼女は何にも悪くないのに、まるで自分の方が死ぬべきだったみたいな顔をして。罰を背負うみたいに、擦りむいた傷をそのままにして。


 結局、彼は最後の最後まで、誰かの為に生きていた。最後まで、私のヒーローだった。

 それが凄く誇らしくて、同時に凄く悲しかった。


 悲しみばかりの彼の人生で、私はその苦しみを少しでも癒してあげられたかな?

 私の想いを、彼は少しでも受け取ってくれたかな?


 あのクリスマスの夜。彼が私たちに何を告げようとしていたのかも、彼がどういう選択をしたのかも、今となってはもう何も分からない。それでも、


「生きていようよ。薫ちゃんの分まで」

「っっ……こんな、残酷な世界で、ですか……っ?」


 夕陽を背にして立つメメちゃんの目が、悲し気に揺れた。ザザーンという波音は彼女があと一歩踏み出せば、彼と同じところに行けるのだと伝えて来る。

 悲しみの色に染まった彼女の世界は、この青い海さえ闇に包まれて見えているのだろう。

 メメちゃんはすべて話してくれた。僅かに陰った瞳で、病気のことや薫ちゃんとの約束のことを。

 ごめんなさいって、何度も謝られた。自分の方がずっと辛いはずなのに、嘘を吐いていてごめんねって。病気を理由に彼の隣にいられることに引け目を感じていたんだって。

 一緒にいることが増えた二人を見て、何も思わなかったわけじゃない。

 でも理由を聞いて納得した。彼なら、メメちゃんの病気のことを知ったら、嫌われたって助けようとしてくれる。……分かるよそれくらい。そういうところが、大好きだったから。

 すべてを諦めたような目で謝るメメちゃんを見ながら、私は彼女のことを何にも知らなかったんだって気づいた。


「……だったら、一緒に死のうよ?」

「――ッ! ……え? な、なにを言って」


 目を見開いて、心底分からないって顔で私を見ていた。

 薫ちゃんがいなくなって、私もメメちゃんと同じことを考えた。もうこんな世界に未練なんてないやって。こんな理不尽……耐えられないよ……って。

 でも、モモちゃんがいた。メメちゃんもいた。私もこの子たちも、彼がいない世界でなんて生きていけない。それでも、この子たちには幸せになってほしいって思う。


 ……不思議だよね?


 自分も同じ気持ちのくせに、モモちゃんやメメちゃんが同じ選択をすると思ったら、どうしても止めずにはいられなかった。知らないうちに、薫ちゃんが繋いでくれた私たちの不思議な姉妹関係が、私の未練になっていた。

 だから決めた。薫ちゃんの残したものは、私が引き継ごうって。


「メメちゃんが今ここで死ぬのなら、私も一緒に死ぬ。でもメメちゃんが生きようって思うなら、いつか死んじゃうその時まで、一緒に生きていようよ」


 ――この残酷な世界で。


「っ……っっ……で、ですがっ、私はもうほとんど視界が真っ暗で。明日何も見えなくなってもおかしくはっ」

「いいよ。いいよべつに、見えていてもいなくても。薫ちゃんはあなたの幸せを望んでいた。そしてきっと、私やモモちゃんの幸せも望んでくれていた」


 この痛みは、一人じゃ超えられないかもしれない。一人だったら、投げ出してしまっていたと思う。

 だけど、


「薫ちゃんを幸せにしてあげることは出来なかったかもしれないけど、その分まで、私がメメちゃんを幸せにするよ。だから、メメちゃんが私を幸せにしてよ」

「っ……あ、ああ…っ…」


 泣いているメメちゃんに、私は言った。

 彼の望んでた幸せがどんな形か分からないけど、それでも生きていれば、いつか見えて来ると思うから。


 いつか悲しみばかりのこの世界を、幸せの色で満たして――……


「一緒に、幸せになろうよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ