色失き世界と幸せの在り処(1)
「ううっ…なんで…っ…なんで…っ!」
涙があふれて止まらなかった。感情のはけ口が分からなくて、がむしゃらに本を破いていく。
何年も読み込んだその本はよれよれで、少し力を込めるとすぐに破れた。
「なんで…っ…なんで…っ! うううっ…なんでっ!」
胸が痛くてたまらなかった。悲しくて涙が止まらなかった。
「何でですかっ……いっしきさん……っ」
呼んでも返ってこない名前に胸の痛みは増し、その痛みが、もう隣に彼がいないのだと伝えてくる。
『――美しいものは、誰とみても美しい。あなたとみても、一人でみても、変わらないから美しいのよ』
「っ……これは」
ふと、破きかけたページの一節が目に入った。
月影症とそっくりな病を患った主人公。彼の恋人はいつも口癖のようにそう言って、彼を冷たく突き放す。けれど、
『……だから私がいなくなっても、きっとあなたの世界は美しいもので溢れているわ』
彼が眼に不治の病を患っていたように、彼女もまた心臓に大病を患っていた。
それを隠して、主人公が完全に光を失うまでの三年間、彼を慕いながらも冷たくあしらい続けた。彼を支えてくれる誰かを必死に探しながら。
「っ…これじゃ、まるで同じじゃないですか……っ」
何度も何度も読み返してきた。母の面影を追いながら。いつか文字すら読めなくなっても、これだけは覚えていられるように。
彼が光を失った後、彼女は黙って彼の元を離れる。光を失った彼が自分の死を知った時、もう生きていけないと分かっていたから。愛想が尽きたと手紙を書いて、親友に彼を託した。
主人公は後から彼女の本心を知って葛藤し苦しみ、けれど最後には、彼女と見た景色をいつまでも覚えて行こうと決意する。生きていれば、記憶の中では、彼女はいつも笑っていてくれるのだからと。
同じだ。今の私は、彼と同じ。……でも、
私はずっと、罰を背負っている。
幼い私のわがままで両親は亡くなって、私のせいで、姉さんは未来を歪めることになってしまった。
この病気は、きっとその罰だと思った。だから受け入れることができた。奪ってばかりの私には、相応しい罰だと。それでもいつか姉さんに恩返しできるように、生きていこうと思えた。
……けれど、彼だけは。彼の死だけは、どうしても。私には……っ。
『天ノ目』
目を閉じて、真っ暗な視界の中で、彼が私を呼んでいた。
『ごめんな、天ノ目』
『ありがとうな、天ノ目』
『今日から俺が――』
――紗月ちゃん?
目を開けると、姉さんが心配そうに私を見ていた。いつも心配ばかりかけてしまう。
私がすべて悪いのに。この人から、すべてを奪ってしまったのに。
「すみません、姉さん」
何も返せなかったけれど、心から幸せを願っています。
彼を失ったこの世界で生きていくなんて、私にはできません。
*
一色さん。
一緒に月光浴、楽しかったですね。月にうさぎさん、とてもロマンチックです。
月のない夜も。
暗く滲んだ夕焼けも。
人でいっぱいの修学旅行も。
雨でずぶ濡れになったあの時だって。
あなたと見れば、どんなものでも美しかった。
心から、あなたのことが大好きでした。




