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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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それでも彼は気づかない(2)

「美味しいね」

「そうか」

「そうだよ! 前よりもっと美味しくなったね」

「そうか」

「……うん」


「「………」」


 それきり続かなくなった会話。まるで倦怠期の夫婦みたいだ。

 薫ちゃんの作ってくれたラッキョウ入りのカレーを食べながら、私は大好きな彼にこっそり目をやった。

 薫ちゃんはチーズがたっぷり載ったカレーをモソモソ亀みたいに食べている。それを見ながら、もし私がモモちゃんに頼まれて今日ここに来なかったら、彼はどうしていたんだろうと思った。モモちゃんが世界の中心だった彼は、これから――


 家から出られないモモちゃんを少しでも楽しませてあげたいと料理を覚えて、モモちゃんに教えるために勉強を始めて。モモちゃんの好きなものや苦手なものを必死に研究して。そうやって作ったモモちゃんのためだけのレシピや学習ドリル。モモちゃんの好きな香りの柔軟剤や、モモちゃんがやりたいと言ったゲームソフト。


 もうずっと、この家は薫ちゃんがモモちゃんのために用意したもので溢れている。もうずっと、薫ちゃんの世界はモモちゃんのことで溢れている。

 その世界からモモちゃんが巣立って行った今、この人はこれからどうするのだろう?


 どうやって? 何のために? この人は、生きていけるのだろうか。



「……今日はありがとうな、菜月。おかげで飢えずに済んだ」

「あははっ、大袈裟だなあ。なら私は命の恩人だね。何かそれ相応のものを要求します!」

「急に図々しい奴だな。まあ、いつか返したいとは思ってる」

「っ……そっか」


 この人はもうすぐ死んでしまうんじゃないかってくらい、すっきりした顔をしていた。でも何か細い糸で繋がれていて、それが彼をまだこの世界に留めてくれているんじゃないかって思えた。それが何なのか。分かっているような、分かりたくないような、本当に分からないような気がして。たとえそれがモモちゃんだったとしても。メメちゃんだったとしても。っ……わたしじゃなくても。それでもありがとうって心から思えた。

 この人はどうやったって自分のためだけには生きられない。そんなことはもうずっと前から分かっていた。だから、この人が私を選ぶことはきっとないって、心のどこかでは気づいていた。

 それでも、もうこの気持ちを伝えずにはいられなかった。

 そんな顔しないで欲しかった。

 だって私は――


「だったら、今返してよ」


 だって私は。私の一番は――……


「好きだよ、薫ちゃん。ねえ、私と付き合ってよ?」


 もうずうっと前から、私の世界はあなたで溢れているのだから。


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