隣人の役目(2)
「さ~っつきちゃ~ん」
少し早めに家を出て、天ノ目の部屋のインターホンを押す。
「は~あ~い!」
「やっ、やめてください二人とも。何で毎朝それをするんですか!」
一週間続けてもまったく飽きずにつきあってくれる美華さんと、一週間繰り返しても同じように照れてくれる天ノ目。癖になりそうだ。
「おはよう薫くん。いつもありがと。紗月ちゃんのこと、よろしくね」
いつものように大丈夫ですと抵抗する天ノ目から鞄を奪い取っていた俺に、美華さんが言う。それを聞いて天ノ目がちょっと恥ずかしそうに「お、お願いします」と声をすぼめて言った。
「いえ、これは恩返しですから」
言うと、美華さんはニッコリと笑って。
「いってらっしゃい」
その声に天ノ目と共に「いってきます」と返しながら、もしまだ母と暮らしていたら、こんな気持ちだったのかもしれないと思った。
「そうか。では次回からの席替えでは、また君たちが隣になるように計らおう。……すまないな、一色。いつも君の優しさに甘えてしまって」
放課後。生徒指導室で天ノ目と並んで安桜先生と向かい合う。俺が天ノ目の眼になることを伝えると、先生はそう言って申し訳なさそうに目を伏せた。
「よしてください。俺はただ、恩を返しているだけです。それに先生にだって、返せていない恩はいくらでもありますから」
思ったことをそのまま伝えると、先生はびっくりしたように目をぱちぱちさせて俺を見て、「君は聖人君子か?」とか可笑しなことを言って笑っていた。
**
『今日から俺がお前の眼だ。悪いが拒否権はない』
修学旅行の数日後、久しぶりに桃華ちゃんのことを頼まれた翌日。登校前に突然うちを訪れた彼はそう言って、私の傍にいることを約束した。
それからは、彼は本当に毎日来てくれて、登校から下校まで私の傍にいてくれた。人が多いところでは私の隣に立ってくれて、教室や友人の傍にいるときは、遠くからそっと見守っていてくれる。
私なんかに時間を使わせてしまうのは申し訳ないと何度も断ったけれど、それでも彼は、
『俺がやりたいからやっている。ストーカーみたいなもんだ。本気で嫌なら通報してくれ』
いつもそうやってはぐらかして、決して離れようとはしなかった。
菜月さんには言えなかった。病気のことも、彼との約束のことも。もしすべてを話して、病気だから一緒にいてもらえるなんてずるい。そう思われることが恐かった。
彼女は何も聞かなかった。彼も何も言わなかった。
だんだん見えなくなっていく視界の中で、温かさと一緒に罪悪感が積もった。




