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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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修学旅行 二日目(1)

 この日は京都の文化体験がメインだ。

 八ツ橋づくり体験、陶芸体験、香道(こうどう)体験、友禅染(ゆうぜんぞめ)体験。

 クラス関係なく、この中から事前に各自が選んでいたコースごとのバスに乗り、体験場所へと移動する。


 朝早くからホテルの駐車場に集合させられた俺たちは、点呼と学年主任の簡単な注意事項を聞き流した後、早速それぞれのコースごとに用意されたバスに乗り込んでいく。


「………」


 がやがやと賑やかな車内の中で、俺の座った席の周辺だけ異様な雰囲気を放っていた。

 思いのほか早く乗車してしまったため、バスの真ん中あたりの席に座ってしまったのだが、案の定、その後乗り込んできた誰一人として俺の隣に座らない。それどころか、通路を挟んだ同じ行の席にすら誰も座ろうとしない始末だ。


「あら、あなたもこのコースなのね?」


 次々乗り込んでくる生徒の数に対して不思議なくらい埋まらないこの列の席がだんだん予約席なんじゃないかとすら思えてきたそのとき、そう言って周囲の視線も気にすることなく、当たり前のように俺の隣に近づいて来たのは古谷だ。


「……ねえ、聞こえないの? あなたに話しかけているんだけど」


 とりあえず無視していると、懲りることなく、不服そうな表情で唇を尖らせて、グッと身を乗り出して詰め寄って来る古谷。


「……どういうつもりだ? こんな風に俺に話しかけることがどう周囲に見られるか、分からないわけじゃないだろ?」


 ひそひそと話す周囲の生徒たちを睨みつけた視線をそのまま古谷に向ける。けれど彼女はそんな俺の態度を見て、納得がいったとばかりに頷いた。


「どうして目つきが悪くて髪を赤く染めているくらいでここまで周囲から疎まれるのか、前々から不思議に思っていたけど、納得がいったわ。あなたの態度や行動にも、少なからず原因があるのは間違いないわね」

「何が言いたいのか分からないが、席が埋まらないうちに早く他の席に移動した方がいいぞ」

「そんな心配はいらないし、あなたがどういう人なのか、私はもう知っている。あなたに私の行動に対してとやかく言われる(いわ)れはないわ」

「……そうか」


 そう言われてしまえば、もう俺が何を言ったとしても彼女が自分を曲げることはないのだろうと思えてしまった。古谷の言う通り、俺といることで彼女が被る被害は確実にあったとしても、それを彼女が受け入れている以上、俺がその意志を無理矢理曲げさせていい道理はない。

 俺は隣に菜月や天ノ目以外のクラスメイトがいることに不思議な感覚を覚えつつ、好きにしてくれと伝えるためそっと窓の外に視線を逃がした。



 *



「それにしても意外だったわ。あなたが友禅染に興味があったなんて」


 バスの中、何が面白いのかそう言って微笑を浮かべる古谷。


「それはこっちの台詞だ。お前は菜月たちと八ツ橋づくりに行くと思ってたぞ」


 あの幼馴染は、「どうせなら美味しく食べられるものがいいじゃん!」というあいつらしい理由で八ツ橋づくり体験を選んでいたし、天ノ目も菜月と一緒に八ツ橋づくりに行ったはずだ。


「……まあ、わたしも本当は菜月と同じものを選ぶつもりだったんだけど、よりにもよってお菓子作りなんて選ぶから」


 言いにくそうに視線をさまよわせる古谷。


「八ツ橋、苦手なのか?」


 俺はかなり好きだが、確かにあの匂いが苦手という人も結構いると聞く。


「っ! ……いえ、そうではなくて」


 けれど古谷は首を横に振った後、言おうか言うまいか数舜悩んだ後、「……あなたに嘘を吐きたくはないから」と一言つぶやいて、意を決したように言った。


「私、料理が全くできないの」

「……だから?」

「っ、……菜月の料理の腕は知ってるでしょ?」

「ああ」

「どの体験にするか選んでいるとき、八ツ橋を作って、できたものを交換して食べあいっこしようという話になって」

「あー……なるほど」


 なんとなく、古谷がどうしてこっちを選んだのか分かって来た。


「……つい、強がっちゃって」


 べつに料理が苦手な人など世の中たくさんいるので恥ずかしがる必要もないと思うが、古谷の場合、食べさせあいっこをしたときに、自分の不出来な八ツ橋と菜月の上出来な八ツ橋を交換することに申し訳なさや恥辱を感じたのだろう。


「それで別のものを選んだのか? ……でも、どうして友禅染なんだ? 他にも陶芸体験や香道体験もあっただろ?」


 何を選んでも古谷の自由だが、何故わざわざ友禅染を選んだのかは気になるところだ。


「そ、それは」

「?」

「っ……その、あなたが」

「俺が?」

「っあ、……あなたがいたから」


 ぼそぼそとしぼんでいく声で、確かに言った。


「か、勘違いしないでね。そういう意味ではなくてっ。……菜月や天ノ目さん以外で、あなたの他に知っている人がいなくて」


 真っ赤に色づいた古谷の頬が窓の外に見える紅葉と重なる。何とも()()()()()理由だなと思った。


「そうか。……まあ、俺も知っている奴がいて気が楽になった」


 そんな顔を見ているとこちらも照れくさくなって、俺は外の紅葉に視線を逃がして独り言のように言う。


「……うん」


 小さな小さな声で返した古谷のほっとしたような顔がまるで無邪気な子供の様に見えて、少しだけ菜月の気持ちが分かったような気がした。



 *



「……なかなか上手な出来ね」

「お前は本当に不器用なんだな」

「っう、うるさいわね。これはこういう芸術なのよっ!」

「そうか。たしかに爆発してるもんな」


 完成したTシャツを着た俺たちはお互いに作品の出来を批評する。

 原画がプリントアウトされたTシャツを渡され、そこに自由に色を載せていくという作業だった。初めてなので多少困ったところもあったが、布の上に色を塗っているのだと思えばそこまで難しい内容ではなかった。なかったはずだ。


「……お前、本当に不器用なんだな」

「うっさい……っ!」


 あらためて古谷の作品を眺めながら、俺はこいつが八ツ橋の方に行かないで本当に良かったと思った。


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