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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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修学旅行 一日目

 ついにこの日が来た。来てしまった。

 修学旅行だ。


 すっぽかす気満々だったが、安桜先生に「来なかったら留年だ」と脅され、菜月に「修学旅行いかなかったら、薫ちゃんの学校の思い出何が残るの?」と呆れられ、天ノ目に「一緒に旅行、楽しみです!」と期待され、そして何より桃華に「お土産たくさん買って来てね。お土産話もだよ!」と頼まれてしまっては、俺に行かないという選択肢は残されていなかった。


「なんだなんだ、元気がないな一色! せっかくの修学旅行なんだ。思いっ切りはめ外していけ!」


 学校から京都まで、観光バスでの四時間移動がスケジュールの大半を占める第一日目の車内。大型バスの最前列、教員の隣しかも補助席という特等席で必死にバス酔いを堪える俺に、安桜先生が殊更(ことさら)大袈裟に言いながら肩を組んで揺らしてくる。


 ……べつにいじめを受けているわけではない。


 席がここだったのは、事前に渡されたバスの希望席を記入していなかった俺が悪いし、家を空ける数日間の桃華のことが心配で昨夜一睡もできなかったのも、俺が悪いと言えば悪い。……けれど、


「俺が今はめ外したら、そのせっかくの修学旅行一日目の思い出がモザイクだらけになりますけど……うぷっ……かまいませんか?」

「そ、そうか。無理せず自分のペースで楽しむといい。……が、がんばってくれ。もうあと二じゅっ……す、数キロでパーキングだ」


 珍しく動揺した様子の安桜先生がそっと俺の肩から腕を上げて、若干距離を取ってそんなことを言う。

 先生、優しい嘘ならちゃんと信じさせてほしい。おかげで余計気分が悪く……。


「だ、だいじょうぶです。俺は人生で一度も、ゲームのリセットボタンを押したことはありませんから……うえっぷ」


 それだけが自慢ですと消え入りそうな儚い声で続けると、むしろ先生の方が泣きそうな顔で「……もう吐いても私は怒らないからな?」と優しく励ましてくれた。

 後ろでカラオケ大会やガイドのお姉さんとのじゃんけん大会で盛り上がるクラスメイトたちとは別の意味で、俺と先生にとってもキラキラの思い出となった。


 ……吐いてないぞ。



 *



 まさかの一日目はバス移動と昼食兼観光を兼ねて京都駅を探索した後、ホテルのチェックイン後解散という杜撰すぎるスケジュールによりあっという間に終了。それでも不満を抱く生徒が少なく各々それなりに楽しんでいたように見えたのは、きっと友人や恋人と一緒に旅行することそのものが、彼ら彼女らにとっては楽しいことだったからだろう。

 俺達の住む街から京都まで遠いと言えば確かに遠いが、新幹線に乗れば二時間もあれば着く。友人と計画を立てて貧乏旅行だって出来ない話ではない。ただ、それでもこの旅行を特別なものへと付加価値を高めているのは、こんな機会でもなければ、普段学校くらいでしか顔を合わせることのない知人他人関係ない百人余りの集団で旅行するような機会は、もう二度と人生では訪れないという事実だ。退屈な学校生活から脱却して訪れたこの非日常は、どんなものであれ思い出になるのかもしれない。


 そんなことを言っている俺も、その杜撰なスケジュールで楽しめた内の一人だ。


 バスの車内は安桜先生が話し相手になってくれたおかげで退屈せずに済んだし、京都駅でも桃華とビデオ通話しながら片っ端からお土産屋さんを周っていたため、最高に楽しい思い出になった。


 ……まあ、ホテルにチェックインしたあとの部屋の空気は気まずいったらなかったが。風呂と飯以外は就寝時間ギリギリまで、ほとんどロビーかホテルの外を徘徊して過ごしていたからな。

 これがあと二日も続くのかと思うと、今すぐ家へ直行したい気分だ。



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