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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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遊園地(6)

 何でこんなことを言うのか分かっていないんだろうなって顔をしていた。

 それでも本当は分かっていて、今すぐ耳を塞いで逃げ出したいんだろうなってことも、わざわざこんな逃げ場のない空の上で言わなくても、きっと彼女は逃げないんだろうなってことも、全部分かっていた。

 さっき漏らしたメメちゃんの言葉と嫉妬を孕んだ仄暗い瞳が脳裏をよぎる。


『……あなたはずっと見てきたんですね』


 そうだよ。メメちゃんが薫ちゃんと出会うよりもずっと前から、ずっとずっと見てきたよ。

 そんな優越感を孕んだ醜い感情が胸に浮かんで。それを必死に隠そうとして。それでも思ってしまった事実が消えることはなくて。


 ああ、嫌だなあ。


 結局何も変わっていないのだと分かってしまったことが悲しくて。そんな感情を抱いてしまう自分が恥ずかしくて。

 私はぎゅっと涙をこらえながら、羨ましいくらい綺麗な彼女の目を見つめ返した。


「……ずっと見てきた。笑ってるところも泣いてるところも。……傷ついて、逃げて、それでもそれを選べなくて。誤魔化して、言い訳して、ぜんぶ自分のせいにしてっ。苦しんで、否定して、それでも優しいから、強くなるしかなくて。っ……ぜんぶぜんぶ、私は傍で見てきたの」


 観覧車がてっぺんに差し掛かって、太陽が沈むみたいにゆっくりと落ちていく。


 嫌だなあ。


 こんなの全然いつも通りじゃない。平穏じゃない。彼の安心して過ごせる日常じゃない。

 メメちゃんの悲しそうな顔を見つめながら、私はいつも通りの顔で話せているだろうかと思いながら。それでもきっと違うんだろうなって分かっていて。けれど結局最後まで、私の言葉は止まらなかった。


「でも、今の薫ちゃんを変えたのは私じゃない。ずっと見てきたから。……だから分かる。メメちゃんと出会ってから、だんだん笑顔が増えて来たことも。モモちゃんが変わろうと思えたわけも。……ぜんぶ、メメちゃんと出会ったから」

「そんなこと」

「っ……ごめんね。悔しかったの……っ。メメちゃんと教室の隅で笑ってるときの薫ちゃんを見てると、私といるときより楽しそうだなとか……考えちゃって」


 初めてだったから。あんな風に、私や桃華ちゃん以外の誰かと笑う薫ちゃんを見たことがなかったから。


「ごめんね……っ。私も、薫ちゃんの助けになりたくて。だから今日、強引に連れて来たの。本当は全部嘘だったの。モモちゃんが外の世界に慣れるためとか、トモちゃんと仲直りしてもらうためとか、そういう言い訳ばっかりしてたけど……。本当はただ、私が薫ちゃんのために何かしたかっただけなのっ。……こんなの全然日常じゃないって分かってる。それでも……っ。モモちゃんよりメメちゃんより、薫ちゃんに私を見て欲しかったの」


 そして私は、


「だって大好きだから! ずっとずっと……愛してるからっ」

「っ……!」


 言った。言ってしまった。


 もう何年も胸の中に抱き続けている想いだけれど、人に伝えたのは初めてだった。

 目を見開いて声を詰まらせるメメちゃんに、私は今日どうしても聞きたかった問いを投げかけた。


「ねえ、()()()()()。あなたは――」



 **



「――あなたはどうなの?」


 続いた菜月さんの嗚咽交じりの声は震えていてか細かったけれど、それでもはっきりと違えることなく聞こえた。聞こえてしまった。……聞きたくなかった。

 それを彼女の口から聞くまでもなく、最初から分かっていた。それでも言葉にして聞いてしまうと、耳を塞いでも目を塞いでも逸らすことのできない事実として突きつけられてしまう。

 ふと観覧車の外に目を向けると、夕暮れが近いことを知らせるように水平線の奥に太陽が沈んでいるのが見えた。そしてその太陽のあとを追うように、ゆっくりとゴンドラが下りていく。


「っ……」


 夕暮れを背に私を見つめる彼女の姿があまりにも美しくて、思わず息を呑んだ。

 ブラウン色のよく似合う短髪。今は少し涙で赤くなってしまっているけれど、大きくて可愛らしい、栗色の瞳。女の子らしいオシャレなワンピースで身を包む彼女を見つめながら、外見も内面も、すごく魅力的な子だなとあらためて思った。


 でも、そんな彼女の美しい髪や目の色も、私には薄暗く滲んで見える。

 やがてこの脳裏に焼き付く景色さえ、見られなくなる日が訪れる。

 だから、いつか失う私に、彼女と同じ想いを持って彼と向き合う資格はない。


「一色さんは大切な友人です。他に他意は……ありません」


 夕陽が彼女と重なって影が差す。その影に隠れるようにして言いながら、彼女と目を合わせることはできなかった。


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