遊園地(5)
一色さんたちを先に見送って、その次のゴンドラに菜月さんと乗り込んだ。
「いててて。まったく、薫ちゃんもトモちゃんもひどいよね? 特に薫ちゃん! 女の子相手に容赦なくデコピンするなんて」
二人にデコピンされたおでこをさすりながら、プンプンと怒って見せる菜月さん。
そんな彼女にどう答えるのが正解なのか分からず、私は「あはは……」と躊躇い交じりに笑って返した。
「そういえば、こうやって二人きりで話すのは初めてだよね? 薫ちゃんの家にいるときはモモちゃんと三人だし、学校では薫ちゃんもメメちゃんも、全然かまってくれないもんねえ」
ゴンドラが観覧車の四分の一を過ぎた辺りで、冗談交じりに言いながら、ちょっとだけ拗ねたように頬を膨らませて見せる菜月さん。
「す、すみません。学校ではその、少し勝手が違って」
「ふふ、ウソウソ、冗談だよ。薫ちゃんはあんなだし、メメちゃんも、メメちゃんなりの関わり方があるもんね。だからごめんね? この前はあんな風に強引に誘っちゃって」
冗談の延長線上のなんでもないことのような調子で言われて、けれどその目は言葉とは裏腹に真っすぐで、きっと彼女の本心なのだとすぐに分かった。
「いえ、私はぜんぜん。むしろ今日は初めてのことばかりで、凄く楽しかったです」
彼女の言う通り二人きりになるのは初めてで少し緊張していたけれど、どんなときも変わらない彼女のおかげで、素直に笑顔を返すことができた。
思えば一色さんの家でも学校の教室でも、彼女はいつだって同じように接してくれた。気安い口調と馴れ馴れしい態度。しかしその奥に深い気遣いを潜ませて、どんなときも変わらない、いつも通りの日常を演じてくれる。だから私も、そしてきっと一色さんや桃華ちゃんも、その優しい空間で安心して笑うことができた。
……ああ、分かった。
きっと彼女だ。ずっとその隣で、彼を支え続けて来たのは。
彼女がいつも変わらず笑っていてくれるから、彼は今日まで頑張ってこられたのだ。
そういう人の存在がどれだけ心強いか、私は知っている。
「フンフン、なんだかそんな顔でそういうこと言われると、すっごくいけないことしてるような……って、これ以上は薫ちゃんが怖いからやめとこう。……あっ、見て見てメメちゃん。薫ちゃんたちのゴンドラ、なんかすっごい揺れてるよ!」
「わっ、ほんとだすごく揺れてますね。ていうか、あれ大丈夫なんですか?」
「ムムム……たぶん観覧車ではしゃぐモモちゃんが可愛すぎて、それにテンションの上がった薫ちゃんの頭のネジが外れて……って感じかな。それでやっぱり、トモちゃんにめちゃくちゃ怒られてるし」
「あはは……」
菜月さんの解説を聞きながら、古谷さんと桃華ちゃんに正座させられている一色さんを何とも言えない思いで眺めていると、きっと菜月さんの言った通りのことがあのゴンドラの中で起こっていたんだろうなと思えてしまった。
これだけ離れていても分かるくらい、二人の間には一緒に過ごした時間があって、その分だけ強い繋がりがあるのだろう。
そんなことを考えていたから、ふと胸に抱いた仄暗い思いが口から零れ出てしまった。
「……あなたはずっと見てきたんですね」
言った瞬間、はっと我に返って、口元を隠すように一色さんたちの乗ったゴンドラから視線を逸らす。そして逃がした先で目が合った彼女の目が、何故か今にも泣き出しそうなくらいクシャリと揺らいでいて。その目を見ていると、不思議と私も心が痛んだ。
それでも彼女はいつもと変わらない笑顔を作って。明るくて楽しくて、ずっと聞いていたくなるその声で、続けた。
「うん、そうだよ。ずっと見てきた。ずっとずっと、初めて出会ったあの日から、一度だって逸らしたことはないよ」
「っ……」
何でそんなことを言うのか分からなかった。
けれど本当は分かっていた。いつか彼女の口から聞くことになるだろうことは。
ただそれが今日だっただけで、それでも私は、ずっと耳を塞いでいたかった。




