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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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遊園地(4)

 涙目の古谷さんが語ったトラウマものの昔話は、確かに俺を軽蔑するには十分すぎるものだった。

 話し終えた古谷さんは興奮が冷めやらぬ様子で、嗚咽を漏らして涙を拭っていて、菜月がその背中を優しくなでている。


「……一色さん、その話は本当なんですか?」


 気まずい空気の中、天ノ目が口を開いた。


「そう言われてもな。そんなことがあったようななかったような……」


 その程度の揉め事など、俺の人生ではありふれている。中学二年の頃というと、桃華がいじめを受けていることを知らずのうのうと生きていたクズのような時代だ。ちょうどその頃から両親の不仲はより顕著なものになってきて、今思い返せば、桃華もその頃から少しずつ学校を休みがちになっていた。


「あれじゃないかな? ほら、中学の剣道の大会の前に薫ちゃん、不良と揉めたとかで一回、出場停止になっちゃったときあったじゃない? そのとき薫ちゃん強がって、そもそも左腕骨折してて出場できないから意味ないけどな、とか言って笑ってたでしょ?」


 菜月の説明を聞いて、「そういえばそんなこともあったね」と桃華が膝を打つ。


「そんなことあったか?」

「あったよ⁉ 何で自分のことなのに覚えてないの? そのおでこの傷だって、その時ついたんでしょ!」


 いまいちピンとこないでいる俺に、菜月が心底不思議そうな目を向けて来た。というか、何で俺のことなのにお前の方が詳しいんだよ。


「あはは。一色さんらしいですけど、もう少し自分のことにも興味を持ったらどうですか?」


 天ノ目にまで窘められてしまっては、俺も少し自分の行動を自重していこうと思った。


「……トモちゃん。トモちゃんの方からしたら、すっごく悪い人に映ったかもしれないけど。でも薫ちゃんがそんなことをしたのには、きっと理由があるはずだから」

「分かってる! ……分かってる。今日の彼を見ていて、あの日の行動にもきっと意味があったんだろうって思えた。あんたがどうしてそんなに信用しているのかも、少しだけ理解できた」

「古谷……」


 俺を庇おうとする菜月の声を遮って、目の端に涙を溜めた古谷が声を荒げる。

 この時、俺は初めて古谷の目を真っすぐ見た。ずっと『菜月の親友』としてしか見ていなかった彼女を、きちんと古谷友美という一人の人間として見て、そして思い出した。


 あの日、確かに俺は陰湿なナンパから古谷を逃がした。そしてその後、年上の男たち数人と喧嘩をして見事ボコボコにされた挙句、警察沙汰になったおかげで部活の試合は出場停止が確定した。後から聞いた話では、思いきり竹刀で反撃したのがまずかったらしい。


 そんなことをぼんやりと思い出しながら、どう説明したものかと考えていると、


「だから説明して! ちゃんと聞くから。……それでもし、助けてくれたのだとしたら。その、きちんとお礼と、……謝罪をさせてほしいの!」


 その目を見て、確かに菜月の言う通りすごく重たい子だなと思った。同時に、すごく優しい子だなとも思った。

 真っすぐに俺の目を見る古谷はタイプこそ違うけれど、どこか菜月に似ている気がした。だからいつものように諦めるのではなく、きちんと言葉にしなければいけないと思った。

 ゆっくりと思い出し思い出ししながら語る俺を見る古谷の目が、不信感丸出しだった今朝と比べて次第に人馴れした保護犬のように見えてきて。それを眺めながら、もっと早く話し合っていれば……なんて、無意味なことを考えてしまったのは内緒だ。



 **



「最後の観覧車だけど。残念ながら4人乗りみたいだから、私とメメちゃんが二人で乗って、薫ちゃんたちは三人で乗るってことでいい?」


 日が暮れて来て、最後の観覧車の列に並びながら私がそう提案すると、みんな特に反対することなく承諾してくれた。薫ちゃんは基本モモちゃんと一緒なら文句を言わないし、今朝あれだけ薫ちゃんのことを警戒していたトモちゃんも、今ではすっかり飼い主に懐いたワンちゃんみたいに薫ちゃんを信頼しきっている。トモちゃんは懐くまでは警戒心が強いけど、一度懐いてしまえばものすっごくチョロい子だ。……まあ、ちょっと心配ではあるんだけど。


「それじゃあメメちゃん。邪魔者のいない空間で、一緒に愛を語ろうね!」


 苦笑いを浮かべるメメちゃんの代わりに、薫ちゃんとトモちゃんに同時にデコピンされた。

 やっぱり、仲直りしてもらったのは失敗だったかもしれない。


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