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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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遊園地(1)

 なぜ菜月が教室であんなことを言ったのか。それは俺には分からない。

 ……でも、もうそんなことはどうでもいい。なぜなら、


「お、お兄ちゃん……」


 今日は桃華と行く初めての遊園地だからだ。


 目深に被った帽子の上から更にパーカーのフードを被って完璧に白髪を隠した桃華は、来る途中のバスの中から俺の後ろに隠れていた。


「大丈夫だ、桃華。帽子で髪は見えないし、ここは遊園地だ。みんなおかしな格好をしているし、多少髪の色が違うくらい誰も気にしない」

「う、うん……」

「そう言う薫ちゃんの髪の色も、ここじゃそんなに目立ってないねえ」


 浮かれ帽子やらチュロスやらで完全武装した菜月が茶化してくるが、そんなこともどうどうでもいい。


「遊園地……。私も初めてです!」


 同じく菜月に付き合わされていろいろ購入させられたらしい猫耳姿の天ノ目がキラキラした目でチラチラあっちこっち見ているが、そんなこともどうでもいい。


「……なんで私までこんな格好を」


 なぜかホワイトブリムを被った古谷さんがそんなことを言いながら恨みがましい視線を向けて来るが、そんなことも……いやなんか私服のワンピースがそれっぽいからちょっとメイドさんみたいだな。菜月の趣味か?


 あの日から数日が経った今日。菜月の強引さにそのまま引っ張られて、俺たちは近くの遊園地を訪れていた。桃華を誘うかどうかはギリギリまで迷ったが、本人の意志とここ最近の成長ぶりを考慮し、これも外の世界に慣れるリハビリの一環としてこうして一緒に連れ出した。


「気合い入ってるな、お前ら。……菜月、悪いが桃華がいる以上、俺は何よりも桃華を優先するぞ」

「分かってる分かってる。薫ちゃんのシスコンっぷりは誰よりも私が知ってるし、逆にそうじゃなきゃ薫ちゃんじゃないまであるよ! 心配しなくても、私たちもモモちゃんと楽しい思い出いっぱいつくりたいだけだから。今日は変なこと気にしないで、目いっぱい楽しもうよ!」


 ここ最近様子がおかしい菜月に念のため桃華を巻き込まないよう釘を刺してはみたが、何を企んでいるにせよ、こいつがそんなやつじゃないということは知っている。この前のことがあって少し警戒していたが、もしかしたら今日のこれも、桃華の学校に通うための練習の機会を作ってくれただけなのかもしれない。


「ふふ、そうですね。楽しい思い出にしましょう。桃華ちゃん、まずは何から乗りたいですか?」


 本人が一番楽しみにしているように見えなくもないが、キラキラした目の天ノ目が俺の後ろから桃華をそっと前に出して尋ねる。


「じゃ、じゃあ私、あれ乗りたい」


 来園してすぐに比べれば大分落ち着いてきてはいるが、それでもやはり声も表情も若干硬い。

 夏休みの後半から急激な成長を遂げた桃華は、帽子を被っていれば近所を散歩するくらいは問題なくできるようになった。ただこうして一日中外にいるというのは初めてなので、緊張しているのは仕方ない。

 事前に菜月と天ノ目と相談して、どんな状況でも最低一人は桃華と一緒に行動することになっている。

 まあ、いくつか乗り物に乗っていればそのうち緊張も解けてくるだろう。


「言っとくけど、私はっ」

「トモちゃん。……今日はその話はしない約束でしょ?」

「……っ」


 天ノ目が手を繋いで桃華をメリーゴーランドの列に連れて行ってくれている後ろで、何やら菜月と古谷さんが揉めている。

 先日、何を思ったかのか私も行くと言い出した古谷さんは、桃華のことに深入りしないことと俺たちのことについて口を挟まないことを条件に、菜月に同行を許可された。……こいつら本当は仲悪いのか?

 いや、きっと俺のせいだな。自意識過剰かもしれないが、しかしこういうことにかけての俺の勘は尋常じゃない。百発百中だ。……それはそれでどうなんだというもっともな意見は聞き流す方向で対処するのでご容赦願おう。馬耳東風とはこのように使います。


「ごめんね、薫ちゃん。桃華ちゃんを巻き込むつもりはなかったんだけど」


 古谷さんが俯いて少し俺達から距離をとった隙に、菜月がそっと言ってきた。

 こいつが結局何を考えているのかは分からないが、その表情が本当に悪いと思っている顔だということくらいは、長年幼馴染をやってきたので分かるつもりだ。


「……いや、構わない。むしろ桃華にとってもいい機会になるだろう」


 中村先生の言う『外の人』と関わる機会というのはなかなか作るのが難しい。どんな形であれ古谷さんと関わりを持つことは、桃華にとってもいい経験になるはずだ。


「それに、いい加減自覚しているが、俺はけっこう過保護だからな」


 言うと、すぐに俺の言いたいことを察してくれた菜月が「あははっ」といつもの屈託のない笑みを浮かべた。

 こんな機会でもなければ、桃華を遊園地に連れて来るなんてきっと考えもしなかっただろう。成長の機会を奪っていると分かっていても、それでも可愛い妹に旅なんてさせたくないと思うのが親心もとい兄心だ。


「ふふっ。……さっ、薫ちゃんもトモちゃんも、今日は楽しもうよ!」


 ようやく調子を取り戻してきた菜月が、後ろをトボトボとついて来る古谷さんの手と俺の手を両手につかんで、元気よく走り出した。



 *



「少しお手洗いに行ってきますね」


 メリーゴーランドの後、コーヒーカップ、ジェットコースター、昼食をはさんでお化け屋敷と回った俺たち。次の空中ブランコの前に日陰のベンチで休んでいると、天ノ目が言った。


「大丈夫? ここからトイレまで結構あるよ?」


 始めの頃の緊張はどこへやら。心から遊園地を堪能してご機嫌な様子の桃華が、遊園地のパンフレットの地図を眺めながら言う。


「……俺も少しトイレになった。ついでに飲み物でも買ってこよう。何でもいいか?」

「うんっ、それがいいと思う! 私たちはここで待ってるよ。飲み物はおまかせで」


 すぐに俺の意図を察してくれた桃華が「二人は?」と菜月と古谷さんに目をやる。


「私もなんでも大丈夫だよ。トモちゃんはレモンティーだよね?」

「っ……ん」


 いきなり話を振られて、変な表情で頷く古谷さん。

 今日一日で分かったことだが、もともと不登校になるまでは基本誰とでも分け隔てなく話せた桃華と違い、古谷さんは普通に人見知りみたいだ。


「りょーかい。……いくぞ」

「ふふっ。ありがとうございます、一色さん」


 どいつもこいつも。一緒にいる時間が増えたせいで、何でもかんでも察してしまう。

 素直じゃありませんねーとでも言いたげな視線と緩んだ頬が鬱陶しくて、プイッと顔を背けてさっさと歩きはじめる。

 背中越しにも、三人のニヤケ面がはっきりと分かった。


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