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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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彼女の心(2)

「……菜月、次あんたの番よ?」


 一限目。隣の人と席をくっつけて行う英語の授業。窓際の席に目をやってまったく別のことを考えていた私に、隣の席のトモちゃん――古谷友美ちゃんが怪訝な表情で言う。


「え……あっ、ごめんごめん。ええと、どこからだっけ?」


 慌てて誤魔化すように言うと、呆れたようにため息を吐かれてしまった。それでも「しょうがないわね」と言いながら教えてくれるのだから、私の親友はすっごく優しい。可愛くて優しくていい匂いで、やっぱり美少女って最高だ。……薫ちゃんには内緒にしてね?


「えへへへ、それじゃあいきますね~」


 教科書の私の担当のジョニーさんの文を読み上げながら、それでも私の意識は学校に遅刻した言い訳を考える教科書のジョニーさんでも外国人教師役のトモちゃんでもなく、窓際の席で向かい合う、二人の友達に向けられていた。



 薫ちゃんの家にメメちゃん――()()()()()が来るようになってから、薫ちゃんの柔らかい表情が増えた。私の勘違いかもしれないけど、これまでモモちゃんや私の前でしか見せなかった素の部分をメメちゃんの前でも見せるようになって、モモちゃんもだけど、薫ちゃんも少しずつ表情が明るくなってきた気がする。

 薫ちゃんが変わっていく姿はずっと見てきた。でも、こんな風に私やモモちゃん以外の人と接している薫ちゃんを見るのは初めてだった。

 別に、それが嫌だってわけじゃない。ただ、今の薫ちゃんを変えたのは私じゃなくて……


「ちょっと菜月? ……あんた、ほんとに大丈夫? さっきから心ここにあらずみたいだけど、どこか具合が悪いなら保健室で休んだほうがいいわよ?」


 いつの間にか教科書を読む声が止まっていた私に、トモちゃんが心配するように言ってくれる。


「ん、……んーん、全然だいじょうぶ! ごめんね、ちょっと考え事してて」


 ぱっと笑顔を作って、「考え事?」と首を傾げる(とっても可愛い!)トモちゃんに、


「どうやったら可愛いトモちゃんと結婚できるのかなって、ずっと考えてたんだ~」


 と、いつもの冗談を言って取り繕う。


「……まったく。心配した私がバカだったわ。……ふふ。あいにく、私はあんたみたいな節操なしは願い下げよ。結婚するなら同じお墓に入るって、昔から決めてるから」


 珍しく、トモちゃんは私の冗談に乗って笑ってくれた。


「うわー。重いよトモちゃん。そういうとこだよ? トモちゃんに恋人出来ないの」

「はっ、はあっ⁉ あんた、人が本気で心配してればっ」

「あははっ、ああもうああもう! ほんとにトモちゃんは可愛いなあ。大丈夫! もしトモちゃんがずっと一人だったら、私が一緒にお墓に入ってあげるから」

「ふざっ、ってかちょっと! なんで私が結婚できないこと前提なのよ! 私は恋人ができないんじゃなくて選んでるだけなの! 将来を約束できるくらいの理想の相手を!」

「ほらあ、それそれ、それだよ。それ、結婚できない人の常套句だよ? まあ、トモちゃんならそのうちそういう人も見つかると思うけど」


 すっかり英語の授業も忘れて話し込む私たち。


「ほんと? ほんとにそう思う? なんだか最近、私もちょっと不安になって来てたんだけど」


 突然不安そうな顔で手をもじもじさせるトモちゃん。うーん可愛い。ちょっといやすっごく重い子だけど、そういうところも含めて最高に可愛い私の親友。


「大丈夫大丈夫、最後には私が残ってる! 私こう見えてすっごい一途だから!」

「それぜんっぜん大丈夫になってないじゃない! 冗談はいいから! ねえっ⁉ ほんとにわたし、素敵な恋人みつかるわよねえ⁉」


 いつものクールな彼女とは違って、食って掛かって来るトモちゃんに両肩を掴んで揺さぶられながら、


「あはは。……べつに、嘘じゃないんだけどなあ」


 今も窓際の席で何かを話している二人に目をやりながら、私はつぶやいていた。



 *



「メメちゃん、一緒にお昼食べない?」


 お昼休み。いつも通り机をくっつけてお弁当箱を取り出したトモちゃんにちょっと待っててと断って、薫ちゃんの隣、お弁当を持ってどこかに行こうとしていたメメちゃんを捕まえて昼食に誘ってみた。


「え? あ、杉原さん。……ええと」


 学校で話したことはあまりなかったため、少し戸惑った様子のメメちゃん。


「あっ、ごめんね。もし先に約束とかあるなら」

「い、いえ、大丈夫です。ちょうど大槻さんたちも部活動の昼練があるそうで、今日は屋上で一人で食べようと思っていましたから」

「そう? それじゃあ、あっちで食べよ。それから……薫ちゃんもねっ!」


 私はそっとメメちゃんの後ろに回り込んでその華奢な背中を私たちの机がある方へと軽く押しながら、そんな私たちの後ろを知らん顔して通り過ぎようとしている薫ちゃんの腕をつかんだ。


「あ? ……どういうつもりだ?」


 相変わらず柄の悪い薫ちゃん。本人にそんな気はないんだけど、生来の目つきの悪さと赤い髪が相まって、昔から知っている私でもちょっと怖い。


「いいじゃんいいじゃん! 薫ちゃんも可愛い女の子に囲まれてお昼食べられた方が嬉しいでしょ?」


 ずずいっと詰め寄って上目遣いに薫ちゃんの目をのぞき込みながら言う。こうすると薫ちゃんは大抵のことは断れない。長い付き合いなので分かっているのだ。


「っ……話を逸らすな。だいたい……学校ではあまり話しかけて来るなと言っただろ?」


 チラチラと周囲に目を向けながら声をすぼめる薫ちゃん。


「大丈夫大丈夫! みんなそこまで薫ちゃんに興味ないよ!」

「っ!……」


 言った瞬間、薫ちゃんの顔から感情が抜け落ちたように表情がなくなった。身体からは力が抜けて、されるがまま無抵抗に私に背中を押されている。


「さ、さすがにそれは酷いんじゃ……」


 そんなショックに打ちひしがれる薫ちゃんを見て、メメちゃんがドン引きしていた。

 相手が美少女なら、軽蔑されるのもご褒美ですね~。


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