彼女の心(1)
「そうですか。桃華ちゃん、外に出られるようになったんですね」
夏休みが終わり、煩わしい日々が舞い戻って来た今日。隣席の天ノ目がそう言って、まるで自分のことのように嬉し気に頬を緩める。家の事情で忙しい日が続いたらしく、天ノ目と顔を合わせるのは桃華がマンションのエレベーターの前で座り込んでしまったあの日以来だ。
いつも通り朝のホームルーム前の少しの時間。誰も天ノ目の周囲にいないことを確認して、俺はここ数日間の桃華の成長について天ノ目に話した。
「ああ、これもお前たちのおかげだ。ありがとう」
「いえ、私は何も。桃華ちゃんと一色さんの頑張った結果です」
素直に礼を言うと、天ノ目はどこか居心地悪そうに視線を逸らして、謙遜したように言う。
「……というか、最近の一色さんは素直すぎて困ります」
もにょもにょと口の端を歪ませながら、ぼそりと言う天ノ目。
言われて気づいた。そういえば最近、天ノ目や菜月に素直に礼を言う機会が増えた。
この前、菜月にも似たようなことを言われたが、俺としてはあまり意識していなかっただけに、そんな風に言われると少し気恥ずかしくもある。
「素直な一色さんは、少し変ですね」
菜月の影響なのか、この頃冗談を言うことが増えて来た天ノ目。
「……うっせ」
俺は気恥ずかしさを誤魔化すように、お得意の頬杖ついて窓の外に視線を逃がした。




