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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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アメ色の世界(4)

「もうっ。何してるのお兄ちゃん! こんな雨のなか傘も差さないで走って帰ってくるなんて、風邪ひきたいって言ってるようなものだよ!」


 びしょ濡れになって帰って来た俺を見て、ぎょっとした顔で急いで風呂を沸かしてくれた桃華は、風呂場のドア越しに俺を叱りつける。


「あー、ちょっと青春したくてな。雨の中を走って帰るってなんかドラマチックだろ?」


 なんちゃって頭皮マッサージを取り入れてシャンプーしながら、適当な軽口を返す。


「ふざけないでっ! ……まったく。それで、今朝渡した傘はどうしたの? 菜月ちゃんに渡した……なら、二人で一緒に帰ってくるはずだし……」


 いや、なぜそうなった場合、俺は菜月と相合傘することになってんだ?


「忘れてたんだよ。……悪いな、せっかく渡してくれたのに」


 もちろん理由はあるのだが、流石にクラスメイトの女子の鞄の中に私物を無断で突っ込んできたなどと実の妹に言うわけにもいかず、適当に言って誤魔化す。とはいえ、せっかく俺のためを思って今朝、傘を渡してくれた桃華には申し訳ないことをした。


「……はあ。そっか。……なら、次からは二本持ってかないとだね!」


 扉越しでも分かる深いため息と、呆れたような声。しかしどうしてか若干声を弾ませながら、桃華は上機嫌に言って去って行った。

 ……女の子を雨なんかに濡らさせるわけにはいかないからな。


『濡らすなら私に任せて!』


 ……ふと頭に浮かんだ幼馴染の最低なドヤ顔が、俺の自尊心を三段ほど下げた。



 **



「ただいま」


 帰宅した私はマンションのドアを開け、小さくつぶやく。


「お帰り、紗月ちゃん。凄い雨だったねえ。傘持ってかなかったみたいだけど、大丈夫だった?」


 あまり大きな声で言ったつもりはなかったけれど、リビングの方から歩いてきた姉さんは優しく迎えてくれた後、心配そうに言って自然な動作で私の荷物を持ってくれる。


「あれ? でも紗月ちゃん、あんまり濡れてないね。というか、その傘どうしたの?」


 一色さんに借りた傘は念のため部屋まで持ってきていた。


「え、ええと。……とっ、友達が貸してくれたんです! その、隣の席の……」


 何と言っていいのか分からず、曖昧に答えてしまう。


「ふーん。……ねねっ、それって男の子?」

「っそ、その話はまた後でいいですかっ。先にお風呂入ってきます!」


 興味深げに聞いてくる姉さんに早口でまくし立てて、私は逃げるようにお風呂場に急いだ。


「……こ、困りました」


 身体を洗い終え、口元までバスタブに浸かった私はこの後どう姉さんに説明しようかと考え、湯船の中でぶくぶくと何とも言えないうなり声を漏らした。



「ええと。こ、この傘はお隣の席の方が貸してくれたんです」


 お風呂を終え、姉さんの作ってくれた夕食を二人で食べる。食べ始めてすぐにさっきの話の続きを促され、私は素直に答えた。


「あら、お友達? こっちにきてすぐだから心配してたけど、もうお友達ができたのね。お姉ちゃん嬉しいわ」

「っ。そ、そうなんです。お友達です!」


 私に友人ができたことに素直に喜んでくれる姉さんを見て、嬉しくなった私は心中で一色さんに謝りつつ全力で肯定する。


「ふふふ――……でも、男の子なんだよね?」


 ピタリと姉さんの笑みが止まり、貼り付けたままの笑みで問われる。


「ね、姉さん?」

「男の子、なんだよね?」


 震える声で恐る恐る姉さんの顔色を伺うが、答えるまで逃がさないという雰囲気を伴った笑みのまま、もう一度同じ質問をされる。


「……は、はい」


 あまりの凄みに、姉さんの瞳の圧力から逃れようと目を逸らし、私は素直に認めてしまう。


「そっか」


 ぽつりとこぼれるように漏らした声に、自分の身が強張るのが分かった。


「で、ですが一色さんはいい人ですし、入学以来ずっとお世話になっていて」


 私は全力で一色さんの株を上げようと言い繕う。


「紗月ちゃんがそう言うなら私はどうこう言うつもりはないけど、でもやっぱり心配なのよ」


 だから、と姉さんは一つ間をあけて続ける。


「今度、その子をうちに連れてきてね」


 ……え?


「は、はいっ⁉ で、ですがそれはっ」

「連れてきてくれるよね?」


 …………。


「……はい」


 にっこりと細められた姉さんの目を見て、私は素直に頷くことしかできなかった。

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