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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
1章 世界の色は一つでいい
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アメ色の世界(3)

「………はあ」


 教室の窓から外を眺め、未だ激しく振り続ける雨風を見て、自然とため息が漏れる。

 放課後。ホームルームが終わり、周囲の生徒たちが一斉に席を立ち、各々が友人と話し込んだり、一人さっさと帰ったり、それぞれ思い思いの行動をとる騒がしい教室。

 そんなにぎやかな教室で、どうしてか私の周囲には人がいない。


「……それじゃ、気を付けて帰れよ」

「はい、一色さんもお気をつけて」


 騒ぐクラスメイトたちを一瞬、羨ましそうに眺めた彼は、一つ目を閉じ「……さて」と息を吐くようにつぶやいた後。いつの間にか支度していたらしい荷物を肩にかけながら立ち上がると、一瞬わたしに目をやり、一声かけて教室を出て行く。

 すぐに私も挨拶を返したけれど、彼はそれを無視してさっさと行ってしまった。いつものことながら、聞こえているのかいないのか分からない。


 入学以来、教科書を借りたり、何かとお世話になっている彼、一色薫さん。


 始めは挨拶をしても不愛想で、会って早々「俺とあまり関わらない方がいい」などと言われ、少しとっつきにくいと感じたけれど、なんだかんだといいつつ不慣れな土地で戸惑うことの多い私のことを気にかけてくれて、関わるなと言いつつこちらから話しかけると困ったように答えてくれる。

 不器用で言葉選びが下手だけれど、きっと彼はとても優しい人なのだ。それは会って少しの私でも、すぐに分かった。



「ねえねえ、天ノ目さん。あの一色って人に何か酷いこととかされてない? あの人不良って噂だし、あんまり関わんない方がいいよ!」

「そうだよ! 髪とか真っ赤だし、それに何考えてるか分かんないし!」


 一色さんが帰った後。すぐに私の席にやって来た彼女たちは、隣の彼の机に目をやりながら、心配そうに言う。二人ともこの学校に転校して以来よく話しかけてくれるクラスメイトだ。


「あはは……。ですが、一色さんにはお世話になっていますので」


 私が曖昧に笑って言うと、二人は納得がいかないのか不満げな顔をする。


「ふふ、……では私はそろそろ帰りますね。また明日」


 彼と関わるべきでないと忠告してくれる二人をやんわりと遮って、私は窓の外を見ながら挨拶し席を立つ。それを見て、二人もそれぞれ挨拶を返してくれた。



 教室を出て、重たい足取りで玄関へとたどり着いた。

 後ろから来た女子生徒が先に靴を履き替え、傘を手に外に出ていく。私はそれを眺めつつ、ゆっくりと靴を履き替え、もう一度空を眺めてため息を吐いた。

 今朝、学校に着いた後に確認した天気予報では、今日は午前中は晴れ、午後からは曇りだったはずだ。しかし今は雨。それも台風と見紛う程の大雨だ。


「……さて、困りました」


 こんな雨など想定していなかったので、当然ながら傘などない。周囲の生徒達は偶然置き忘れていた傘を見つけて安堵したり喜んだりしているけれど、転校してきたばかりの私には、そんな偶然は望めない。

 とはいえ、いつまでもこうして立ち尽くしているわけにもいかない。


「ふう。……っと、その前に」


 もう一度空を眺め、一つ深呼吸する。けれどすぐにこのままでは荷物が濡れてしまうことに気づき、持っている肩掛けの鞄の中に、ポケットに入れている携帯やハンカチを入れる。


「あれ? これはっ――」


 と、そのついでに軽く乱れていた鞄の中身を整理していると、ふと見慣れないものがあることに気づいた。

 それは薄い紺色の折り畳み傘。


「ですが何故……」


 そう考えて少しして、すぐにその答えに思い至る。


 ……ああ、やっぱり。

 やっぱり彼は、優しい人ですね。


 私はそれを大切に広げると、今もバケツ一杯の墨をぶちまけたように振り続ける雨の中へと歩き出す。

 真っ黒に染まる世界の色が、少しだけ明るくなった気がした。


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