プロローグ 『終わりなき痛み』
なぜ、人は生きるのだと思う?
この問いかけに真っすぐに答えられる人は、果たして世の中にどのくらいいるのだろう。
たくさんいるかもしれないし、少ししかいないかもしれない。
例えば、ある人はこう答えるかもしれない。
『私は家族のために生きている。家族のみんなが笑っていてくれれば、それが私の生きる意味だ』
また、ある人はこんな答えを持つかもしれない。
『俺は欲望を満たすために生きている。快楽主義こそが正義だ、ヒャッハー!』
更には、こんな人もいるだろう。
『それを見つけるために、その答えを得るために、私は今を生きています』
どれもが誰かの答えに成り得るし、どれもが誰の答えにもなり得ないかもしれない。
千差万別、人の数だけ答えがあって、明確な正解なんてきっとない。
ただ、誰しもが共通するところは、誰もが誰かの幸せを願っているということだろう。
自分自身の幸せを願う人もいるし、誰か大切な人の幸せを願う人もいる。この世界全ての人々の幸福を……なんて、スケールの大きい人もいるかもしれない。
ここで、もう一つ問いかけたい。
誰かの幸せを願いながら、自分の幸せを望む。そんな器用なことが、誰にでもできるのだろうか?
幸せになってほしかった。
何で?――なんて、考えたこともなかった。
大切な人には幸せになってほしい。
そのためなら、自分ができる限りのことをする。
俺にとって、それは考えるまでもなく、当たり前のことだった。そう思えないことの方が気持ち悪くて、どうしてもそんな考えを受け入れられなかった。
苦しんでいる人に気づいてしまったら、どうしても見て見ぬふりができなかった。
目を逸らす――なんて、一瞬でも考える自分が許せなかった。
苦しんでいたり、痛みを抱えている人がいれば、何とかしてそれを解消しようと手を伸ばす。
俺にとって、それは考えるまでもなく、当たり前のことだった。そこに一瞬でも憐れみや満足感を抱く自分が酷く醜く思えて、否定しなければ吐き気がした。そんな自分を受け入れるなんて、どうしてもできなかった。
俺は多分、どこまで行ってもそういう人間なのだと思う。
弱さばかりの、間違いだらけの、どうしようもない人間だ。
最愛の妹を守れず、ずっと助けてもらった幼馴染を傷つけ続け、残酷な運命を背負う、妹のような友人との約束を守り抜けず、こんな俺と仲良くなってくれたクラスメイトに、拭い難い罪の意識を残してしまった。
俺はそういう人間だ。
あの胡散臭い似非神様のおかげで、みんなの気持ちを知って、幸せを望んでもらえていたことを知って、菜月のようなヒーローに憧れるべきだったと思った。死んで初めてそれに気づいた。
それでも、俺は俺をどうしたって肯定できない。
自分を大切にする。
自分の幸せを望む。
その上で、人の幸せを願う。
俺のような人間には、荷が重い難題だ。
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
とてもじゃないが、答えなんて出ない。
ああ、なんで人は――
……ん?
そういや俺、もう人じゃなかったな。
「ワン!」
……なぜ、犬は生きるのだと思う?




