エピローグ 『見届ける者』
本当に、君は凄いね。
君の生き方がいろいろな人に痛みを与えて、悲しみを与えて、それでも幸せに導いてしまうんだから。
間違いだらけの君の生きた証は、ちゃんと受け継がれていたよ。
『そうだろう? 一色薫……いや、』
――天ノ目カオル、くん。
まずは、ごめんね。
全知全能の救いの存在なんて、この世にはいない。
君たちがどれだけ願っても、祈っても、それに応えてあげることは僕にはできないんだ。
僕はすべてを見守る者。
終わりに始まりを与える者。
神様というのは、君たちの想像しているような万能の存在なんかじゃない。
人の終わりに終止符を打ち、また新たな始まりへと導くこと。
それだけが、僕の存在する意味。
世界のすべてが視えているのに、終わるまで、手を伸ばせない。
始まりに導き旅立ちを見届けたら、手を離した瞬間、二度とこの手は届かない。
悲しみの涙も怒りの嗚咽も、すべて見えている。聞こえている。
それでも僕は、何もできない。
それが神だ。
……ふふ、似非神様。そんな僕には、ピッタリの呼び名かもね。
――ただ、
どうしても、君だけは特別だった。
驚いたよ。君が生まれるずっと前から君を知っていた。
初めて自分を疑ったよ。こんな人間がいるなんて、こんな人生があるなんて、思わなかった。
でも、幼い君に語り掛けて、本物だって気づいたよ。
嬉しかった。
悲しみばかりのこの世界で、涙が溢れるこの世界で、いつだって変わらず、僕の代わりに手を差し伸べてくれるヒーローが現れたから。
僕が出来ないことを、君はやってのけたから。
君を見ているとき、僕は救われた気がしたんだ。
……でも、僕は知っていた。
この歪んだ世界では、君の在り方の方が間違いになってしまうことを。
君の終わりはあまりにも理不尽で、突然で、君の人生は悲しみに溢れていることを。
結局、君は一度だって、自分の幸せを望むことなく終わってしまうことも、彼女たちの願いに気づかないまま終わってしまうことも、僕は全部知っていた。
だからこそ、君は本物だったっていう腐った皮肉も、死んでしまうまで気づかなかったから偽善じゃない、なんていうくだらない証明を成し遂げてしまうことも、全部分かっていた。
何とかしてあげたかった。
君に気づいてほしかった。
君に幸せを望んでほしかった。
だから、初めてだったんだよ?
あんな機会を作ったのは。初めて人間と話したのは。それから、殴られたのも初めてだった。親父にも……なんてね?
話してみて、思ったよ。
君はやっぱり本物だった。ずっと見てきた一色薫そのものだった。
弱くて、平凡で、不器用で、不愛想で、残酷で。
強くて、優しくて、あったかくて、カッコ良くて――
――……大好きだった。
君みたいになりたかった。
君は僕の、憧れだった。
だからね、思ったよ。
君のためなら理を捻じ曲げても構わない。本当に僕に力があったなら、君に力もお金も名声も、君は望まないだろうけど、やり直しだってさせてあげたさ。
でもごめんね。
僕にはそんなこと出来ないから。
僕にできるのは死んだ人を終わりに導き、また新たな始まりを与えること。
君たちと同じように、誰かの幸せをそっと祈ること。
それだけなんだ。
『俺は平凡で構わない。金も人気も力も、特別なものは何もいらない。次の人生もいらない。っ……それでもっ。それでも俺は、あいつらと笑って過ごせる日常が欲しい……っ』
でもね、あの時君は選ばなかった。求めなかった。
――次の人生もいらない。
始まりを求めない。
終わりがあれば始まりがある。始まりがあるから終わりがある。
けれど、
始まりが無ければ終わりはない。
だから初めて、例外が生まれたんだよ。
ご都合主義だと思うかい?
でも、僕はそれでもいいよ。
それでもいいから、君に幸せになってほしいよ。
だって物語はハッピーエンドで終わってこそ、生きる意味があるんじゃないか。
君がまた終わりを迎えるまで、どのくらいだろう。
君のことだから、また同じように誰かを庇って――……
なんて、あるかもしれない。
寿命いっぱい生きたとしても、せいぜい十年と少しくらいかな。
こんなことならカメさんにでもしておけば良かったと、少し思うよ。
まあ、君にはそっちの方があってるかな。
それでも、見届ける時間はあるだろう。君を愛し愛された彼女たちが紡ぐ、愛おしい日々を。
不器用な君でも十年もあれば、望めるかもしれない。自分自身の幸せを。
……出来るだろうか?
古谷友美を超える不器用の君が。
それは少し心配だ。
だから祈っているよ。何度だって、君のためなら祈り続けるよ。
――ああ、
もし、もう一度会うことがあったら、今度はもっと優しく声をかけられるだろうか。
「久しぶり」
から、始めてみようか。
僕にできるかな?
何にもできないこの僕に、君達みたいな関わりが。
できるといいな。
まあ、お互い様かな。不器用な君も無力な僕も、そういう意味ではそう変わらない。
でも、僕は信じているよ。
次会うときは涙はなしだ。悲しみの雨は、もううんざりだ。
だからどうか笑っていてよ。
君の幸せが僕の幸せ。
だって――
僕は見守る者。
そして本物のヒーローの、友人候補なのだから。




