表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
105/113

エピローグ 『見届ける者』

 本当に、君は凄いね。

 君の生き方がいろいろな人に痛みを与えて、悲しみを与えて、それでも幸せに導いてしまうんだから。

 間違いだらけの君の生きた証は、ちゃんと受け継がれていたよ。


『そうだろう? 一色薫……いや、』


 ――天ノ目カオル、くん。



 まずは、ごめんね。

 全知全能の救いの存在なんて、この世にはいない。

 君たちがどれだけ願っても、祈っても、それに応えてあげることは僕にはできないんだ。


 僕はすべてを見守る者。

 終わりに始まりを与える者。


 神様というのは、君たちの想像しているような万能の存在なんかじゃない。

 人の終わりに終止符を打ち、また新たな始まりへと導くこと。

 それだけが、僕の存在する意味。

 世界のすべてが視えているのに、終わるまで、手を伸ばせない。

 始まりに導き旅立ちを見届けたら、手を離した瞬間、二度とこの手は届かない。

 悲しみの涙も怒りの嗚咽も、すべて見えている。聞こえている。

 それでも僕は、何もできない。

 それが()だ。

 ……ふふ、似非神様。そんな僕には、ピッタリの呼び名かもね。


 ――ただ、

 どうしても、君だけは特別だった。

 驚いたよ。君が生まれるずっと前から君を知っていた。

 初めて自分を疑ったよ。こんな人間がいるなんて、こんな人生があるなんて、思わなかった。

 でも、幼い君に語り掛けて、本物だって気づいたよ。

 嬉しかった。

 悲しみばかりのこの世界で、涙が溢れるこの世界で、いつだって変わらず、僕の代わりに手を差し伸べてくれるヒーローが現れたから。

 僕が出来ないことを、君はやってのけたから。

 君を見ているとき、僕は救われた気がしたんだ。


 ……でも、僕は知っていた。

 この歪んだ世界では、君の在り方の方が間違いになってしまうことを。

 君の終わりはあまりにも理不尽で、突然で、君の人生は悲しみに溢れていることを。

 結局、君は一度だって、自分の幸せを望むことなく終わってしまうことも、彼女たちの願いに気づかないまま終わってしまうことも、僕は全部知っていた。

 だからこそ、君は本物だったっていう腐った皮肉も、死んでしまうまで気づかなかったから偽善じゃない、なんていうくだらない証明を成し遂げてしまうことも、全部分かっていた。


 何とかしてあげたかった。

 君に気づいてほしかった。

 君に幸せを望んでほしかった。


 だから、初めてだったんだよ?

 あんな機会を作ったのは。初めて人間と話したのは。それから、殴られたのも初めてだった。親父にも……なんてね?


 話してみて、思ったよ。

 君はやっぱり本物だった。ずっと見てきた一色薫そのものだった。

 弱くて、平凡で、不器用で、不愛想で、残酷で。

 強くて、優しくて、あったかくて、カッコ良くて――


 ――……大好きだった。


 君みたいになりたかった。

 君は僕の、憧れだった。


 だからね、思ったよ。

 君のためなら理を捻じ曲げても構わない。本当に僕に力があったなら、君に力もお金も名声も、君は望まないだろうけど、やり直しだってさせてあげたさ。


 でもごめんね。

 僕にはそんなこと出来ないから。

 僕にできるのは死んだ人を終わりに導き、また新たな始まりを与えること。

 君たちと同じように、誰かの幸せをそっと祈ること。

 それだけなんだ。


『俺は平凡で構わない。金も人気も力も、特別なものは何もいらない。次の人生もいらない。っ……それでもっ。それでも俺は、あいつらと笑って過ごせる日常が欲しい……っ』


 でもね、あの時君は選ばなかった。求めなかった。


 ――次の人生もいらない。


 始まりを求めない。

 終わりがあれば始まりがある。始まりがあるから終わりがある。

 けれど、

 始まりが無ければ終わりはない。

 だから初めて、()()が生まれたんだよ。


 ご都合主義だと思うかい?

 でも、僕はそれでもいいよ。

 それでもいいから、君に幸せになってほしいよ。

 だって物語(人生)はハッピーエンドで終わってこそ、生きる意味があるんじゃないか。


 君がまた終わりを迎えるまで、どのくらいだろう。

 君のことだから、また同じように誰かを庇って――……

 なんて、あるかもしれない。

 寿命いっぱい生きたとしても、せいぜい十年と少しくらいかな。

 こんなことならカメさんにでもしておけば良かったと、少し思うよ。

 まあ、君にはそっちの方があってるかな。


 それでも、見届ける時間はあるだろう。君を愛し愛された彼女たちが紡ぐ、愛おしい日々を。

 不器用な君でも十年もあれば、望めるかもしれない。自分自身の幸せを。

 ……出来るだろうか?

 古谷友美を超える不器用の君が。

 それは少し心配だ。

 だから祈っているよ。何度だって、君のためなら祈り続けるよ。


 ――ああ、

 もし、もう一度会うことがあったら、今度はもっと優しく声をかけられるだろうか。


「久しぶり」


 から、始めてみようか。

 僕にできるかな?

 何にもできないこの僕に、君達みたいな関わりが。

 できるといいな。

 まあ、お互い様かな。不器用な君も無力な僕も、そういう意味ではそう変わらない。


 でも、僕は信じているよ。

 次会うときは涙はなしだ。悲しみの雨は、もううんざりだ。

 だからどうか笑っていてよ。


 君の幸せが僕の幸せ。

 だって――


 僕は見守る者。

 そして本物のヒーローの、友人候補なのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ