6話:吾輩は犬である
―――寮にて―――
小梅は目を覚ますと、大きく伸びをした。
「ふわぁ~、よーく寝た!」
カーテンを開けると、朝日が差し込み、すがすがしい気分になる。今日は特に訓練もなく、のんびり過ごせる日だ。
因みにいつもなら椿の方が先に起きているのだが、本日は珍しく小梅の方が先に起きたのである。
「さて、朝ごはんでも食べに行くかな」
勢いよく部屋を飛び出し、駐屯所の食堂へ向かおうとしたその時。
「ん?」
どこからか、小さな鳴き声が聞こえた。
「……犬?」
気になって音のする方へ行ってみると、駐屯所の裏手の茂みの中に、ひとりぼっちの小さな子犬がうずくまっていた。
「おお、こんなところにワンちゃん! どしたの、迷子?」
茶色の毛並みのふわふわした子犬は、小梅を見上げて「くぅん」と鳴いた。
「くぅ~、めっちゃ可愛い!」
思わず抱き上げると、子犬は小梅の顔をペロペロと舐めてきた。
「おっとっと、くすぐったいって!」
嬉しくなって撫でていると、ふと子犬のお腹が「ぐぅ~」と鳴った。
「そっか、お腹すいてるんだね……よし! ご飯食べに行くついでに、なんか持ってきてあげるよ!」
そう言って小梅は子犬を抱えたまま食堂へ向かった。
―――駐屯所・食堂―――
「おっはよー、誠吾くん!」
元気よく食堂に入ると、厨房で作業していた誠吾が顔を上げた。
「おはよう、狛坂さん……って、その犬は?」
「寮の裏で拾った! めっちゃ可愛くない?」
誠吾は軽くため息をついた。
「勝手に動物を持ち込んだら東雲隊長に怒られるよ」
「うぐ……まぁ、そうだけど……」
小梅はしょんぼりした様子で子犬を撫でる。すると、遅れて来た椿が近づいてきた。
「どうしたの?」
「ワンちゃん拾ったんやけど、ご飯あげたくて……誠吾くん、ちょっとだけ余りもんとかない?」
小梅が上目遣いで頼むと、誠吾は呆れたように苦笑した。
「仕方ないな。ちょっと待ってて」
そう言うと、厨房の奥からパンの耳と少しの肉を持ってきた。
「とりあえず、これなら食べても大丈夫だと思うよ」
「おおっ、ありがと!」
小梅が子犬の前にパンを差し出すと、夢中になってかぶりついた。
「ふふっ、よかったねぇ」
子犬の姿に思わず笑みがこぼれる。
「でも、この子どうするの?」
椿の問いに、小梅は少し考えた。
「うーん……このまま飼うわけにはいけないし、飼い主探すしかないなぁ」
しかし、そんな心配をよそに、子犬は小梅の足にじゃれついてくる。
「おわっ、ととっ!」
子犬の勢いにバランスを崩し、小梅は思いっきり転びそうになったーーーが、
「っと、大丈夫?」
椿がとっさに腕を引いてくれた。
「う、うん! 助かった~」
小梅は安堵しつつ、子犬を抱え直した。
「このままやと、ワンちゃんに振り回されそうやな……でも、なんか懐かれてる気がする」
子犬は嬉しそうに小梅の腕の中で尻尾を振っていた。
「とりあえず、駐屯地の人たちに聞いてみようか」
椿の提案に、小梅は大きく頷いた。
「うん! この子の家、ちゃんと見つけてるよ!」
こうして、小梅のドタバタ子犬捜索が始まるのだったーーー。




