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5話:Shall we デート?⑥



ーーー駐屯所・寮ーーー


 寮へ戻ると、すでに部屋の明かりがついていた。


 ドアを開けると、ベッドに寝転がりながら雑誌を読んでいる小梅の姿が目に入る。ページをめくる音が静かな室内に響いていた。彼女はちらりとこちらを見やると、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「おかえり、椿ちゃん。……で? どうだったの?」


 何気ない挨拶に見せかけて、すでに話の核心に踏み込んでくるあたり、さすが小梅というべきか。椿は靴を脱ぎながら、警戒心を抱かずにはいられなかった。


「何が?」


「何がって、デートに決まってるでしょ?」


 直球すぎる質問に、椿はわずかに眉をひそめる。


「……別に普通だったけど」


「ふーん、そう?」


 小梅は肘をつきながら、じっと椿を見つめる。明らかに面白がっている表情だ。


「それにしても、ずいぶん遅かったね?」


「色々あったから」


 適当に答えながら外出用の着物を脱ぎ、部屋着に着替える。しかし、小梅はそれで引き下がるような性格ではない。


「……色々? ふーん?」


 興味津々といった顔で、小梅がじりじりと近づいてくる。その仕草が何とも厄介だ。


「椿ちゃんがそんな洒落た着物を着て行くのは初めて見た気がするよ。やっぱり意識してたんじゃないの?」


「そ、そんなことない……!」


 無駄に突っ込まれるのも面倒だと思いながら、椿はそっぽを向いた。しかし、小梅は追撃の手を緩めない。


「今日、愛しのせいちゃんと観覧車に乗ったんでしょ?」


「……うん」


「手とか繋いだ?」


「……別に」


「何か、いい雰囲気になったりした?」


「……」


「おお、図星っぽい?」


 小梅がニヤニヤと笑う。その態度が余計に恥ずかしさを煽る。


「もう、いいでしょ! 疲れてるんだから、寝る!」


 椿は布団を引っ張り、ベッドに倒れ込んだ。顔が少し熱くなっているのを悟られないようにしながら。


「はいはい、おやすみ」


 小梅はクスクスと笑いながら、自分のベッドへ戻っていった。


 しばらくして、部屋の明かりが消える。




ーーーとある場所にてーーー


 一方、その頃。


 名目上は料理人として第三地区駐屯所で働いているため、椿たちが住む寮には住めない。彼が使っているのは、駐屯地の端にある簡素な宿舎だった。そこへ戻る途中、誠吾は足を止めた。


 静かな夜の空気の中、特務隊から支給されている通信機【エコネ】の音が響く。


 エコネとは政府が西洋から取り寄せた持ち運び可能な小型電話機であり、そこそこのお値段はするらしい。


 誠吾はポケットからエコネを取り出し、通話を始めた。


『……本日はいかがでしたか?』


 落ち着いた、だが冷たい声。


「……今日は幼馴染みと遊びに出かけただけ。特変はなし」


『そうですか。【白虎】と恐れられている貴方でも女の子とデートをするのですね?』


 その言葉に、誠吾の目が鋭く光る。


「……見てたのか」


 低い声で問いただすと、相手はくつくつと笑った。


『そんなそんな、たまたまですよ。それに私の任務は第三地区装甲隊の監視。監視中に桃枝椿と貴方が一緒にいるのを見かけただけです』


「お上は趣味の悪いことをするんだね」


 誠吾は静かにため息を吐いた。


『これも平和のため。各地区の装甲隊がしっかり働いているかを確認するため。我欲のために神威装甲を悪用する者がいないかを未然に防ぐため、ね』


「……で? 俺に何を聞きたい?」


『鬼切大佐の任務の進行具合はいかがです?』


「ぼちぼちってとこかな。今のところはね」


『そうですか……我々特務隊は、東都……いや、日本におけるエリートをよりどりみどり集めた隊。将来を担う者が集う隊。昇進願望がなければ、すぐに落ちこぼれてしまいますよ?』


「ご忠告ありがとう、中尉殿。そんなに昇進したければ、しっかりと結果を残さなきゃならないね」


 皮肉混じりの言葉に、通信の相手は何も言わなかったがーーー


(ちっ、徴兵上がりの田舎者が……)


 相手は聞こえない声でボソッと言い、通信が切れる。


 誠吾はエコネをポケットにしまうと、夜空を見上げた。


「聞こえてるよって……今日の星は綺麗だなぁ」


 暗闇の中、無数の星々が光を放っていた。


 まるで、彼の心の中にあるわずかな希望を示すかのように。


 しばらく星を眺めた後、誠吾は静かに宿舎へと戻っていった。






【登場人物紹介】


鬼切おにきり 誠吾せいご

 年齢:17歳

 身長:162cm

 スリーサイズ:—(小柄で細身だが実は筋肉質な体型)

 所属:東都軍・特務隊大佐(表向きは食堂の料理人)

 性格:人当たりが良く、基本的には穏やか。しかし、内に秘めた信念は強く。椿とはまた違った正義感を持っている。

 愛刀・装甲名:【白虎】

 概要:椿の幼馴染み。昔から剣の腕はぐんをぬいており、通っていた道場では敵なしであった。急な引越しにより椿とは離れ離れとなったが、第三地区駐屯所でまさかの再開を果たす。表向きは駐屯所の調理場で働いているが実は特務隊に所属しており、階級も大佐で駐屯所内では尾前司令の次に階級は高い。椿に対しては優しく接しており、彼女の成長を見守っている節がある。特務隊である為、様々な事件に詳しい。

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