6話:吾輩は犬である②
添削後(約2300文字)
―――駐屯所・地下訓練場にて―――
「いやぁ、ついてきちゃったもんは仕方ない……ですよね?」
小梅は、腕を組んで睨む東雲を見上げ、にっこり笑った。
「仕方なくない!」
東雲はため息交じりに怒鳴る。彼の視線の先には、小梅の足元にちょこんと座る茶色い犬。まるで何の問題もないかのように尻尾を振っている。
「どういう経緯でここに犬がいるのか、説明してもらおうか?」
「えっとー、朝道端でうずくまってたのを見つけて、なんかすっごくこっち見てきて……これは放っておけませんよね?」
「だからって駐屯所に連れてくるな!」
「だって、置いてきたら可哀想ですよ!?」
小梅が犬の頭を撫でると、犬は気持ちよさそうに目を細める。
「可哀想とかじゃない! ここは軍の施設だぞ!? 訓練中に犬がうろついてたらどうする!」
「うちの部隊なら華麗に避けるので問題な――」
「そういう問題じゃない!」
東雲は額を押さえ、頭が痛そうにため息をついた。
「名前は?」
「え? まだありませんが?」
「はぁ……」
東雲がさらに深くため息をついた、その時だった。
駐屯所内を通りかかった隊員たちが、一斉に足を止める。
「……可愛い……!」
「なにこの犬、めっちゃ可愛くない?」
「ふわふわ……触っていい?」
瞬く間に犬の周りに人だかりができ、厳格な駐屯所の一角が動物カフェのような雰囲気に包まれる。
東雲はさらに頭を抱えた。
「お前らまで何やってんだ!」
「東雲隊長も触ってみませんか? もふもふですよ?」
小梅が犬を差し出すと、東雲は一瞬手を伸ばしかける。しかし、直前で咳払いをし、手を引っ込めた。
「とにかく、飼うわけにはいかない。すぐに外に連れ出して――」
「でも、ほら見てくださいよ?」
小梅が犬を抱き上げ、つぶらな瞳を東雲に向ける。犬は小さく「くぅん」と鳴いた。
「……」
東雲の眉間にしわが寄る。
「駐屯所で飼うのが無理なら、誰か引き取ってくれる人を探せば?」
蓮華が提案する。
「……それなら」
東雲はしばし考え込み、ため息混じりに言った。
「数日だけだぞ。ちゃんと引き取り先を見つけるまで、という条件付きでなら許可する」
「やった! ありがと、東雲隊長!」
小梅が満面の笑みを浮かべると、犬も嬉しそうに「わん!」と鳴いた。
「はぁ……うちの駐屯所は動物預かり場じゃないんだぞ」
「まぁまぁ、東雲隊長。こういった癒しは大事ですよ」
ため息をつく東雲に、飛鞠が和やかに声をかけた。
――ちなみに、東雲が愛犬家であることが駐屯所内に知れ渡るのは、もう少し先のことである。
―――駐屯所・休憩室―――
「うーん……犬のご飯って何をあげればいいんだろ?」
小梅は腕を組み、腹ペコアピールをする犬を見下ろした。
「そんな目で見つめられても……」
「まぁ、余ったもので良ければ分けてあげるよ」
そこへ誠吾が顔を出す。
「ホントっ!? ありがとう、誠吾くん!」
「ただし、犬が食べても大丈夫なものを選ぶこと。適当なものをあげてお腹を壊したら大変だからね」
「了解です!」
誠吾の案内で食堂の奥へ向かうと、調味料を使っていない湯がいた鶏肉や野菜の切れ端がまとめられていた。
「これなら大丈夫だと思うよ。ほら」
「おぉー、助かります!」
小梅がボウルに入れた鶏肉と野菜を犬の前に置くと、犬は嬉しそうにしっぽを振りながら勢いよく食べ始める。
「すっごい食欲ですねー!」
小梅は満足そうに笑うが、誠吾が苦笑いを浮かべる。
「……さて、昼の問題は解決したけど、夜は?」
「あっ」
小梅は固まった。犬の寝床を用意していなかったのである。
「毛布とかないかなぁ……」
「倉庫に使ってない毛布があったはずだけど」
「それだっ! すぐに取ってくる!」
小梅は勢いよく倉庫へ駆け出し、数分後――
「よし、特製ふかふかベッドの完成!」
丸めた毛布と小さな箱を組み合わせた簡易ベッド。犬は鼻をひくひくさせながら上に乗り、丸まるとすぐに寝息を立て始める。
「うん、これで完璧ですね!」
小梅が満足げに頷いた、その直後――
「狛坂ぁぁぁ!!!」
遠くから響いてくる怒声。
振り向くと、怒りを露わにした東雲の姿があった。
「な、なんですか!? 私、何かしました!?」
「しただろうが!!」
東雲が指差した先――
そこには、駐屯所の入り口付近に設置されたベッド、そしてそれを囲む隊員たちの群れ。犬を保護したという噂はすでに広まり、皆が可愛がりに来ていたのだ。
「お前ら……しっかり仕事をしろ!!」
「いやぁ、これは……その……」
隊員たちが気まずそうに目を逸らしていると、そこへ重々しい足音が響いた――。




