4話:見回りも立派なお仕事。③
——駐屯所・食堂——
見回り任務を終えた椿と小梅は、駐屯所の食堂へ向かっていた。
「はぁー、お腹すいた……」
小梅がぐったりとした様子で席に座る。
一方の椿は、今日の巡回で見た光景を思い返していた。
(私たちが守ってる町の人たち……想像してたよりも、ずっと近い存在なんだな)
巡回の途中で交わした些細な会話や、住民たちの何気ない笑顔。
それらが、彼女の胸にじんわりと残っている。
そんなことを考えていると、カウンターの向こうから優しい声が聞こえた。
「おつかれさま、二人とも。何か食べる?」
顔を上げると、そこにはエプロン姿の誠吾がいた。
穏やかな微笑みをたたえ、二人を優しく見つめている。
「あ、せいちゃ——じゃなかった。鬼切さん!」
椿は思わず呼びかけそうになり、慌てて言い直す。
その様子を見ていた小梅は、ニヤリと笑った。
「せいちゃんでいいんじゃないの?」
「い、いいの!?」
椿が焦っていると、誠吾はくすっと笑った。
「無理に呼び方を変えなくても大丈夫だよ。昔みたいにせいちゃんでも、僕は気にしないよ」
「そ、そう……?」
椿は頬を少し赤らめながら、小さく頷く。
「それより、今日は見回りだったんでしょ? どうだった?」
誠吾が料理の準備をしながら尋ねる。
小梅はカウンターに突っ伏しながら、だるそうに答えた。
「もー、疲れましたよぉ……思ってたより歩いたし……」
「そっか、おつかれさま」
誠吾は優しく微笑みながら、湯気の立つ味噌汁を用意し、二人の前に置いた。
「とりあえず、温かいものでも飲んで落ち着いて」
「わぁ! ありがとうございます!」
小梅は嬉しそうに湯気の立つ味噌汁をすする。
「……うん、落ち着く~」
「鬼切さん、ありがとう」
椿もゆっくりと味噌汁を口に運ぶ。
出汁の優しい味が、巡回で疲れた体に染み渡るようだった。
「ふふ、やっぱり誠吾さんの料理は落ち着きますねぇ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
誠吾は少し満足そうに微笑む。
——と、そのとき。
「……でも、本当にただの料理人で終わるつもりなの?」
椿がふと呟いた。
「……え?」
誠吾が驚いたように目を向ける。
「せいちゃんの剣、すごく綺麗だった。でも、それなのに戦わないの?」
一昨日の手合わせの際に彼が見せた刃の軌跡を思い出す。
何気なく動かしたその剣筋には、一切の無駄がなかった。
剣を握る手に、迷いもなかった。
「……椿ちゃん、僕はもう戦わないって決めたんだ」
「……本当に?」
椿は真剣な目で誠吾を見つめる。
「私には、そうは思えなかった」
「……」
誠吾は沈黙する。
そして、少し苦笑しながら、ぽつりと呟いた。
「椿ちゃんは、変わらないね」
「え?」
「昔から、まっすぐで、自分がこうだと思ったら一直線だった」
誠吾はそう言いながら、椿の手元の碗を指差した。
「ほら、味噌汁、冷めちゃうよ」
「……っ!」
話を逸らされた。
それが分かった椿は、少し悔しそうに唇を噛む。
「……いつかまた話すよ」
「約束ね?」
「……うん」
誠吾は小さく微笑んだ。
椿はその表情を見つめながら、何かを確かめるように味噌汁を飲み干した。
(せいちゃん……)
彼は本当に剣の道を捨てたのだろうか?
それとも——。
その答えが分かるのは、まだ先のことかもしれない。
——それでも、椿は彼の答えを知りたかった。
「はい、特製おにぎりを作ったよ。お待ちどおさま」
「わーいっ! 誠吾さんの特製だ!」
一方の小梅は、呑気におにぎりを頬張っていた。




