4話:見回りも立派なお仕事。②
―― 作戦会議室――
「では、改めて説明しますね」
朝食を終えた後、椿と小梅は駐屯所の作戦室に集められていた。
目の前には大きな地図が広がり、東雲隊長と飛鞠が説明をしている。
「今日の任務は市街地の巡回だ。昨日話したとおり、この地区では最近【堕鬼装甲】の密売や無許可使用が問題になっている」
東雲が地図上の数カ所を指し示す。
赤くマークされた場所が、特に警戒が必要なエリアのようだった。
「とはいえ、いきなり実戦になる可能性は低い。まずは市街地の構造を覚え、住民との交流を通じてこの町の空気に慣れてもらうことが目的だ」
「なるほど……町の雰囲気を知るのも大切ってことですね」
椿が頷くと、飛鞠が優しく微笑んだ。
「そうですね。守るべきものがどんな場所で、どんな人たちが暮らしているのかを知るのも、装甲隊の大事な仕事だから」
「……そうですね」
椿も納得するように息をついた。
「新人のお二人は私と蓮華と一緒に行動するから、安心してくださいね」
「わぁ、飛鞠さんと一緒なら安心です~!」
小梅が喜ぶ横で、蓮華がニヤリと笑う。
「ま、私は何かが起きることを期待してるけどね?」
「蓮華さん、フラグ立てるのやめてください……!」
「フフッ、まぁ楽しみにしてなよ」
そんなやり取りをしていると、百合が作戦室に入ってきた。
「そろそろ時間よ。準備ができたら出発しなさい」
「了解です!」
―― 東都第三地区・市街地 ――
駐屯所を出た一行は、東都第三地区の繁華街へと足を踏み入れた。
「うわぁ……賑やかですねぇ」
小梅がキョロキョロと周囲を見渡す。
商店街には活気ある店が立ち並び、道行く人々の笑顔が絶えない。
「ここは第三地区の中心的な場所だからな。昼間はこうして賑わってるけど、夜になると雰囲気がガラッと変わる」
蓮華が説明しながら、露店の串焼きをひょいと指さした。
「ほら、せっかくだから一本買っていかない?」
「えぇ!? 仕事中に食べ歩きですか?」
「町の雰囲気を知るのも仕事のうちだろ?」
「うわぁ、適当な理屈つけてますよ、この人……」
「まぁまぁ、せっかくの機会ですし、ちょっとぐらいなら大丈夫だと思いますよ」
飛鞠が微笑みながら言うと、蓮華は満足そうに頷いた。
「じゃあ、買いに行こっか!」
「えぇ……本当に仕事中なのに……」
椿が呆れながらも、結局は付き合うことに。
屋台の店主が串焼きを手渡すと、蓮華が最初にかぶりついた。
「おおっ、うまっ! ここの焼き鳥、めっちゃ香ばしい!」
「本当ですか!? じゃあ、私も!」
小梅も一口かじると、目を輝かせる。
「うっま……!! これ、ご飯欲しくなりますね……!」
「だろ~?」
そんな二人を見ながら、椿も静かに串を手に取る。
(……街の人たちは、こんなふうに日常を過ごしてるんだな)
装甲隊に入る前までは、街を守るという意識は漠然としていた。
だが、こうして町の賑わいを目の当たりにすると、自分たちが守るべきものが明確に感じられる。
(私は、この日常を守るために戦うんだ)
串焼きを一口かじりながら、椿は強くそう思った。
―――――
軽い食事を済ませた後、一行は市場の近くを巡回していた。
その途中、年配の女性が椿たちに声をかけてきた。
「あら、装甲隊の方ね。いつもご苦労さま」
「いえ、私たちはまだ新人で……」
「新人さんでも立派よ。この町を守ってくれてありがとうね」
女性の優しい言葉に、椿と小梅は少し驚く。
「守る、か……」
小梅が小さく呟くと、女性はにこりと微笑んだ。
「ええ。あなたたちが頑張ってくれるから、私たちは安心して暮らせるのよ」
「……私たちが、安心を作ってる……」
椿は、その言葉の意味を噛み締めた。
(私たちの仕事って、こうやって誰かの日常を支えてるんだ……)
「うん、頑張らなくちゃね」
小梅が隣で微笑み、椿も頷く。
「ありがとうございます、おばあさん!」
「ふふ、頑張ってね」
女性と別れた後も、椿と小梅は何度か町の人たちから声をかけられた。
「いつも助かってますよ!」
「ご苦労さま!」
思いのほか、町の人たちの反応は温かかった。
「椿ちゃん、思ってたより装甲隊って町に馴染んでるんだね」
「うん……正直、もっと怖がられるものだと思ってたよ」
椿は、改めてこの仕事の意義を実感していた。
―――――
その後、巡回ルートを無事に終えた椿たちは、駐屯所へと戻ってきた。
「お疲れさま。どうだった?」
東雲が迎えると、椿と小梅は顔を見合わせる。
「……最初は仕事って感じでしたけど、町の人たちと話して、少し意味が分かった気がします」
椿の言葉に、東雲は満足そうに頷いた。
「それが一番大事なことだ」
「うん、今日の巡回は大成功ってことでいいんじゃない?」
蓮華が軽く笑うと、小梅も嬉しそうに頷く。
「ですね!」
こうして、椿と小梅の 初めての見回り任務 は、無事に終了した。
(でも——次は、きっともっと大変な任務が待ってるんだろうな)
そう思いながらも、椿は少しだけ成長した自分を感じていた——。




