3話:訓練の幕開け③
椿と小梅が再び前に踏み出した。
装甲の力はまだ完全に馴染んでいない。
しかし、戦闘を通じて少しずつ感覚が研ぎ澄まされていく。
「もう一度、仕掛けるよ!」
椿は【紅陽】の推進力を最大限に活かし、一瞬で蓮華との距離を詰めた。
先ほどの初撃とは違う——今度は、フェイントを交えた高速の三連撃。
「ふぅん……」
蓮華の目がわずかに細まる。
(読まれた!?)
刹那、蓮華がわずかに体をひねり、一撃目をギリギリで回避する。
二撃目——椿は意図的に空振りさせた。
続く三撃目が本命。蓮華の回避行動を読んで、左下から斜めに斬り上げる!
「よしっ——」
勝負あった——そう思った瞬間、蓮華の口元に笑みが浮かんだ。
「悪くない。でも……まだ甘いね」
次の瞬間、蓮華の足が床を蹴る。
通常の動きよりも圧倒的に速いスピードで、彼女は僅かに後方へと跳んでいた。
(しまった……!)
僅か数センチ——その差が決定的だった。
椿の木刀は蓮華に届かず、逆に蓮華の槍がカウンターとして刺し込まれる。
「くっ!」
椿は反射的に木刀を横に構え、防御の体勢を取る。
ガキィンッ!!
だが、防御を押しきられ頭部に鈍い金属音が鳴る。に
威力を最小限に抑えて椿はなんとか耐えた。
「おおっと、しっかり受けるじゃないか」
「……当たり前です。負ける気はありません!」
椿は歯を食いしばりながら、押し返そうと力を込める。
「いいね、その気概。でも……それだけじゃ勝てないよ」
蓮華の足元が一瞬、滑るように動く。
(——まずい!!)
防御の姿勢を解いて回避するべきか、それとも迎え撃つか——。
一瞬の判断が勝敗を分ける。
―――――
一方、小梅も飛鞠との戦闘を続けていた。
「はぁっ!」
小梅は機動力を活かして飛鞠の側面を取る。
【青葉】の軽やかさを最大限に活かし、速攻を仕掛ける。
しかし——
「いいですね。でも、もう少し速度を上げられますよ」
飛鞠がわずかに微笑みながら、木刀を振るう。
その軌道は——まるで小梅の動きを読んでいたかのようだった。
「えっ——!?」
バシィンッ!!
小梅の肩に軽い衝撃が走る。
「くっ……!」
攻撃を避けたつもりだったが、飛鞠の木刀が見事に小梅の動きを封じる形になった。
「焦らなくても大丈夫ですよ。まだ装甲の動きに完全に慣れていないのですから」
飛鞠の優しい声が響く。
だが、その背後にあるのは確かな実力。
(やっぱり……まだ、装甲を完璧には使いこなせてない……)
小梅は悔しさを噛み締める。
——このままじゃ、駄目だ。
まだ、装甲の力を半分も引き出せていない気がする。
小梅は深く息を吸い、もう一度構え直す。
「……負けたくないんです!」
その声に、飛鞠がわずかに目を細めた。
「ならば——もう一度来てください」
小梅は再び、飛鞠へと飛び込んだ。
椿と小梅は、まだ蓮華と飛鞠に一歩及ばない。
だが、確実に戦いの中で何かを掴みつつあった。
(私は……まだこの装甲を使いこなせていない!)
(このまま終わるわけにはいかない!!)
椿と小梅は依然として蓮華と飛鞠に押されていた。
しかし、二人は確実に戦いの中で何かを掴みつつあった。
それに対して蓮華の槍が再び椿の肩口を狙って振り下ろされる。
(このままじゃ……防戦一方だ!)
椿はとっさに神威装甲【紅陽】の推進システムを作動させた。
紅陽の機動力を利用し、瞬時に後方へと跳ぶ。
ガキィンッ!!
蓮華の槍は空を切り、床に打ち付けられる。
「お、今のはいいねぇ」
蓮華の口元に興味深げな笑みが浮かぶ。
(今の回避、無意識に装甲と連携できてた……!)
椿は気づいた。
この装甲は”ただの防具”ではない。
剣士としての技を増幅し、直感的に動きを補助する存在なのだと。
「なら……もっと試してみるよ!」
椿は紅陽の力を活かし、再び蓮華へと突進する。
今度は単純な斬撃ではない。フェイントを織り交ぜ、翻るように舞う。
「さっきよりはマシになったね。でも——」
蓮華は軽やかに回避しながら言う。
しかし、椿の攻撃は確実に速度を増していた。
ヒュンッ!
次の瞬間——椿の刀が蓮華の腕にかすった。
「……やるじゃん」
蓮華がニヤリと笑う。
一方、小梅も飛鞠との戦闘で気づき始めていた。
「はぁっ!」
再び小梅は横薙ぎの斬撃を繰り出す。
だが、飛鞠は最小限の動きでそれを避け、間合いを詰める。
「まだ焦りが見えますね」
その瞬間——飛鞠の木刀が鋭く振り下ろされる。
(——くる!)
だが、小梅は先ほどとは違った。
直感が、装甲の力と同調する。
「……っ!」
小梅は装甲の補助を活かし、最小限の動きで飛鞠の一撃を回避。
さらに——その回避動作を利用して反撃へ転じた!
「これならどうですか!」
小梅は木刀を素早く振り抜く。
バシィンッ!!
飛鞠はギリギリでそれを受け止めたが、わずかに体勢を崩す。
「おお……?」
飛鞠の目がわずかに驚きの色を帯びる。
(できた……!)
小梅は確信した。
この装甲は、“正しい剣の動き”をすればするほど、それを補助してくれる。
無理に頼るのではなく、あくまで剣士としての自分を活かすための武装なのだ。
「……いいですね。ようやく馴染んできましたね」
飛鞠が微笑む。
「じゃあ、次は——もう少し本気を出します」
「えっ……?」
蓮華と飛鞠が目配せを交わす。
「そろそろ本気でいくよ」
「……え?」
次の瞬間——
二人の姿が、一瞬で消えた。
「——ッ!?」
椿と小梅の背筋が凍る。
蓮華と飛鞠は、今までとは桁違いの速度で動き始めていた。
「さぁ、ここからが本番だよ、新人ちゃんたち?」
蓮華の木刀が、音速の如く椿を襲う。
「っ……!!」
小梅も飛鞠の猛攻に晒される。
(まだ終わらない……!!)




