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3話:訓練の幕開け



駐屯所・正門前 ――


「はぁ、はぁ……椿ちゃん、何で起こしてくれなかったの~~っ!」


「何度も起こしたよ! それでも小梅が起きなかったんじゃん!」


 駐屯所の門をくぐった瞬間、息を切らしながら小梅が椿に詰め寄る。

 出勤初日、二人はまさかの遅刻ギリギリ。


 その原因は——小梅の寝坊だった。


「まったく、初出勤から遅刻ギリギリとは、なかなか肝が据わっているな」


 駐屯所の入り口に立っていたのは、東雲隊長だった。

 腕を組みながら、呆れたような、それでいてどこか楽しんでいるような表情を浮かべている。


「す、すみませんっ!」


 椿が深々と頭を下げる。

 小梅も申し訳なさそうに後ろで手を合わせていた。


「まぁ、いいさ。初日だしな」


 東雲は肩をすくめる。


「だが、急いで訓練服に着替えて演習場に来い。昨日教えた場所、覚えてるな?」


「はいっ! すぐに向かいます!」


「他の隊員が待ってるから、急げよ」


 東雲が軽く手を振りながら去っていく。


(小梅~~っ!!)


(椿ちゃん、ごめんってば~~っ!)





―― 駐屯所・地下訓練場 ――




 東都第三地区駐屯所は街の中心に位置するため、大規模な訓練場を地上には確保できなかった。

 そのため、訓練場は地下に設けられている。


 広大な空間は分厚い鉄板と特殊合金で覆われており、並の攻撃では破壊できない仕様になっている。

 その中で、すでに数名の隊員たちが整列していた。


「「只今、到着しました!」」


 椿と小梅が息を整えながら駆け込むと、東雲隊長が満足そうに頷く。


「おぉ、思ったより早かったな」


 軽く腕を組みながら、東雲は二人に視線を向ける。


「さて、まずは他の隊員の紹介からしようか。まず、こいつが副隊長の**志島百合しじま ゆり**だ」


 東雲が紹介すると、前に立っていた短髪の女性が一歩前に出る。

 背は高く、鋭い目つきに鍛え上げられた体躯。

 その姿はまさに”精鋭”と呼ぶにふさわしい。


(あれ? この人……司令官の隣にいた人だ)


「藤堂真琴だ。よろしく」


 短く挨拶をすると、真琴はじっと椿と小梅を見つめる。


「君たち、新人にしては悪くない体つきね。しっかり鍛えてきたんでしょ?」


「はい! 一応、学校では剣術を専門にやっていました!」


 椿が胸を張って答えると、真琴は満足そうに頷いた。


「いい返事ね。その意気なら、訓練も乗り切れそうだわ」


「へへっ、褒められちゃったよ、椿ちゃん!」


「小梅、気を抜かないでよ……」


 その様子を見て、東雲が笑いながら補足する。


「志島は尾原司令の秘書も兼ねている。見た目通り、怒らせたら怖いぞ」


「東雲、余計なことを言うな」


 志島はピシリと鋭い視線を送るが、東雲は気にせず次の隊員を紹介する。


「次にこいつ、鳴刀蓮華なりと れんげ


 長めの髪を無造作にかき上げながら、蓮華と呼ばれた女性が前に出る。

 ラフな口調だが、その目には鋭さが宿っていた。


「鳴刀蓮華っす。まぁ、気楽にやろうね」


 軽い調子で挨拶するが、その雰囲気とは裏腹に、彼女の纏う空気は戦士のものだった。


「椿ちゃん、小梅ちゃん……で合ってるよね?」


「はい、桃枝椿です!」


「狛坂小梅です!」


 二人が改めて名乗ると、蓮華はニヤリと笑う。


「ま、新人だからって甘やかすつもりはないからね。お手柔らかにって言いたいところだけど、訓練中は容赦しないよ?」


「望むところです!」


 椿が真剣な眼差しで応じると、蓮華はさらに笑みを深めた。


「気に入った。いいね、そういう根性」


 すると、今度は別の隊員が前に出る。


「蓮華さん、あまり脅したら駄目ですよ」


「この落ち着いた奴は、**嵐山飛鞠あらしやま ひまり**だ」


 すらっとした体格で、穏やかな目をしている。

 蓮華とは対照的に、どこか優しげな雰囲気を持っていた。


「嵐山飛鞠です。以後、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 椿と小梅が揃って頭を下げる。


「ふふ、私と同じぐらいの歳ですので、そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ」


 飛鞠は穏やかに笑いながらも、どこか芯の強さを感じさせた。


「さて、紹介も一通り終わったところで——実戦訓練……に行く前に」


 東雲が話を切り出す。


「君たちは装甲について、どこまで理解している?」


「はい! 装甲とは旧侍たちが使用していた切り札で、“妖刀47工”から展開される**【悪鬼装甲】、それを元に政府が開発した【神威装甲】、さらに【悪鬼装甲】を劣化させた【堕鬼装甲】**の三種類があると習いました!」


「よし、次は狛坂。【悪鬼装甲】、【神威装甲】、【堕鬼装甲】の特徴を説明してみろ」


「えぇっと……【悪鬼装甲】は恨みや憎しみを糧に発動する装甲で、【神威装甲】は特に制限なく誰にでも装着できる……けど、選ばれた者じゃないと死ぬほど酔う。【堕鬼装甲】は、誰でも装着できるけど……」


「惜しいな。【堕鬼装甲】は確かに誰でも装着できるが、その代わり——使用するたびに理性が崩壊する危険な装甲だ」


「うわっ、それはやばい……」


 小梅が顔をしかめる。


「今、問題になっているのは【堕鬼装甲】の流出だ。出所は不明だが、これを無断使用する一般市民が増え、犯罪に利用されるケースが後を絶たない」


「くっ……そんなことが……」


 椿は拳を握る。


「俺たちの役割は、この【堕鬼装甲】を取り締まること、そして**【維剣衆】の壊滅**だ」


(椿ちゃん、【維剣衆】って……?)


(維新の刻で生き残った旧侍たちの集団。【堕鬼装甲】の流通を操っている黒幕って噂もある組織だよ)


「まぁ、【堕鬼装甲】も厄介だが、問題はその裏にいる【維剣衆】だ。奴らは俺たちを侮ってはいない……だからこそ、俺たち装甲隊も、研鑽を積んで強くなる必要がある!」


 東雲が力強く拳を握る。


「正義の名の下に!!」


「東雲隊長、熱く語りすぎだよー!」




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