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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第四章 私鉄

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競争

 リグニアに着いた翌日、昭弥は私鉄七社の担当者を招集し最低運賃規定を設けることを伝えこれ以上金額を下げることを禁止する事を通達した。


「各社の財務状況を考慮しての決定である」


 勿論、各社には不満はあったが昭弥の一言で黙らせた。

 特に最安値だったアヴェンティーノ鉄道の反発は特に大きく、席を立とうとした。だがマーネエラプセ鉄道への措置を思い出して渋々飲んだ。

 自前の発電所があるが、発電所を動かす石油や石炭の販売は鉄道省、国鉄の子会社が行っており販売停止となれば致命的だ。

 周辺の木々を切り倒しても絶対に足りない。過去数世紀に及ぶ森林破壊のため、リグニア周辺に碌な森林資源がない。精々数日動かして停止するのがオチだ。

 鉄道事業を続けるために各社共に鉄道省、昭弥の主導する協定にサインして最低運賃を守ることにした。

 なお国鉄は紳士協定により最低運賃より若干高い運賃に設定する事で合意した。


「これで倒産を防ぐ事が出来るだろう」


 禁止をゴリ押ししたが、七社に最低運賃を認めさせた事で昭弥は満足する。


「しかし、民間の会社を維持するために最低運賃を決めるなんて。利用客から文句が来ませんか?」


「まあ、そうなんだけどね」


 セバスチャンが懸念を表明すると昭弥も渋々認めた。


「けど、このまま全滅よりマシだろ」


 果てしない値下げ競争を繰り広げれば、確かに一時的に運賃は安くなり利用者は喜ぶだろう。だが、揃って共倒れになり廃線となれば困るのは利用者だ。

 それを防ぐ為にも今回の協定は必要だった。


「これで少しは上手く行くだろう」


 だが、昭弥が思っているよりも事態の悪化は早かった。




 昭弥自身、利益追求に走る民間企業のバイタリティー、欲というものがえげつないことはマーネエラプセ鉄道でよく知っており、下手をすれば自滅しかねないと分かっていた。

 なので手綱を引いて調整するのが鉄道省の役目だと思っている。

 しかし度が過ぎる規制は活力を削いでしまうと考えており介入は最小限に抑えるように自制していた。

 そのためマーネエラプセ鉄道のような暴走を許した上に、今回も失敗した。

 値下げが封じられたリグニア周辺の私鉄各社は生き残りをかけて、いち早く対応、協定の抜け穴を探し出し実行に移った。

 リグニア~フィウミチーノの旅客は利益が大きくしかも現金が手に入れられる。

 金づるを逃してはならない、まして他社に利益を渡す訳にはいかない、とあの手この手で協定破りを始めた。


「こんなに早くも崩れるとはな」


 一週間後、昭弥は協定後の各社の行動報告を受け取って肩を落とした。

 一応、運賃を下げることはしていない。

 その他の方法で実質的な値下げを行っていた。

 まず、行ったのは車内の内装を豪華にする事だ。板張りの壁や椅子では無く、ソファーを導入する会社が多くなった。

 詰め物をした中にはスプリングを仕込んで座り心地を良くしたシートであり、良く出来ている。

 自社努力に見えるが、改装へ今まで以上に投資しているので事実上の値下げだ。

 クーラーが付くか付かないかで運賃が違う仕組みを取り入れている外国の鉄道会社もあるので、それを同一料金で行っているとすれば値下げだ。

 勿論サービスとをモットーとしているカピトリーノ鉄道は初めから居住性と運賃が高かったが、これは別枠だろう。そして他社のサービス向上によりカピトリーノ鉄道からも旅客が他社へ移ったため競争に巻き込まれる。

 こうして乗り心地をよくして客を定着させようとしたが、各社とも導入して差が無くなった。

 その後行ったのは車内サービス。

 例えば女性車掌や女性添乗員を乗せて案内させる。

 色っぽい女性に案内されると聞いて選ぶ乗客が多く各社ともリグニアの美女を呼び込むようになった。

 しかし、美人は飽きる。また各社とも頭打ちになった。

 ウェルカムドリンクを提供する、サロンカーを付けて喫茶を楽しみながら移動できる、食堂車を付けて食べている間に到着する、などを行ってもやがて頭打ち。

 そこで始めたのが土産キャンペーンだった。

 到着すると乗ってきた乗客に土産をもれなくプレゼントするというのだ。

 一寸した食料品や食器から酒や軽食店メニューの引換券などを乗客に渡している。

 客は自らの金で土産を購入する必要が無いので事実上の値引きだ。

 さらに土産が徐々に豪華になっている。

 ある会社がグラスワイン一杯出していると向こうはデキャンタを出してきて客を奪っていく。ハーフボトルに変更して奪回すると別の私鉄がフルボトルを渡し始めて奪って行く。

 他にも肉や魚や服など、自社の地盤となる地域の特産品を出して土産合戦を続けている。


「あっという間に戻ってしまったな」


 中にはキックバックキャンペーン、切符を回収するとき現金を渡すなどの行為を行う会社も出ている。

 完璧な値引き行為だが、支払時の運賃はそのままなので強く規制できない。

 協定違反では無いので指導が出来ないよう各社は抜け穴を見つけて突いてきていた。

 実際に昭弥が見てきたのだから間違いない。

 客引き合戦が激しすぎ、揉み合っているうちにケンカとなり、巻き添えを食らったほどだ。

 それだけ競合路線の争いが激しい事を証明する出来事であった。

 更にセバスチャンが凶報をもたらしてきた。


「社長、大変です。アヴェンティーノ鉄道が協定を破り、値下げを断行しました」


 かつて最安値だったアヴェンティーノ鉄道はサービス面で劣っていた。

 何しろ最安値を維持するために徹底的にサービスを削っていたため、サービス競争に参入するための手段に乏しく劣勢だった。

 そのため運賃を安くする以外に方法は無く、協定破りを断行した。


「他社の動向は?」


「全社、運賃の値下げへ動いています」


「そうなるよね」


 サービスが良いのは確かに利用者にとっては嬉しい。

 だが、サービスというのは複数受けて見ないと比較できない。国鉄を含めると八社もあるためどれが良いのか判断に迷う。

 しかし運賃ならば安いか高いかで簡単に判断できる。

 利用客への訴求力が非常に高いため各社が使いたがるのも解る。

 だが協定を主導した昭弥の立場上、黙認する訳にはいかない。


「どうしますか?」


「数日後に各社の担当者を集めてくれ。改めて協定を守らせる」




 数日後、リグニア鉄道運輸局の一室にリグニアの私鉄七社の社長が集まった。

 各社共にライバル同士であるため、互いの動きを観察している。

 そこへ呼び出した張本人が扉を開けて入って来た。


「お待たせしました。初めまして鉄道大臣の玉川昭弥です。では早速本題に入りましょう」


 昭弥は自己紹介すると社長達の挨拶を飛ばして直ぐさま本題に入った。

 時間が無いし、七人も挨拶を受けるのは面倒だ。何より相手に主導権を渡したくなかった。


「先日の通達を守らず運賃の値下げを行っているそうですね」


 昭弥の問いに社長達は反論した。


「アヴェンティーノ鉄道が値下げを行ったため対抗処置として行いました」


「待てよ。そもそもそっちがキックバックを行ったからじゃないか」


「利用客の事を考えてのことだ。土産物サービスの一環で何を渡すかは企業の自由だ。そもそも土産物を出して引き寄せるのは下品では」


「美女を列車に乗せて色気で引きつけるよりマシだ。下品すぎやしないか」


「サービス向上のための施策だ。出来ないのはオタクの企業努力が足りないんじゃないか」


「静かに!」


 社長達が口論を始めたので昭弥は怒鳴って黙らせた。


「誰が始めたかは問題ではありません。ほぼ全社が許可無く値下げを行っているのが問題なのです。協定を守れないようなら罰則を適用せざるを得ません」


「し、しかし」


「何より許可の無い運賃値下げなど認める訳にはいきません。法律に明確に反しており、罰則を適用せざるを得ません」


「罰則……」


 先日のマーネエラプセ鉄道の一件を思い出して社長達は青ざめた。

 鉄道省が握る石炭、石油が供給されなくなれば私鉄は干上がるしかない。


「ですが」


「これ以上、法令違反を続けるのであれば免許、営業権の取り消しも検討しています」


 営業権の剥奪は鉄道会社にとって存在意義を否定されるのと同じだ。


「今回は通達してから期間が短かったこともあり周知徹底が不十分だったと考えております。なので再び通達を行い協定を遵守することを鉄道省は求めます」




「何とか認めてくれましたね」


 七社には改めて協定書にサインさせ、その遵守を約束させた。


「石炭や石油を止められたらおしまいでしょうし」


「それもあるだろうけど各社共に限界だったんだよ」


 赤字覚悟どころか確定の経営などしては、資金がドンドン消えて行く。サービスの為に車両の改造や人件費の支出があったところに値下げという収入減行為をやったら、資金は直ぐに底を突く。

 あとは資本が大きい方が生き残る大消耗戦となる。赤字になっても資本の喪失率が少ない方が、あるいは資金調達が出来る企業だけが生き残れる。

 だが生き残れても借金などの不良資産まみれになり青息吐息の状態となる。

 それは各社共に避けたいはずだ。


「けど値下げを自社だけ止める訳にはいかない。抜ければ、その分利用客が他社へ取られてしまう。そうなれば最初に倒産するのは自社だ。だけど値下げは止めたい。誰か止めるように言って欲しかったんだろうよ」


 そこへ昭弥が値下げを止めるように再び協定を持ちかけてきたので、これ幸いと私鉄各社は乗ってきた訳だ。


「しかし国鉄も値下げ合戦に加わっていたとは」


「リグニア鉄道管理局の独断だったよ」


 私鉄同士の値下げ合戦に触発されて利用客獲得競争に出てキックバックを始めていた。

 現地の鉄道管理局の独断であり、昭弥は指示していない。

 最後に各社社長から指摘されて昭弥は初めて知った。そのため突き上げを喰らったが、かならず最低運賃を守らせると約束し納得して貰った。


「組織が巨大になると末端まで管理するのが難しいな」


 そう言って昭弥は疲れた声でぼやく。

 七社もの私鉄が存在できるのは曲がりなりにも利用者が多いからだ。利用者がいなければ鉄道会社は成立しない。その分従業員や職員も必要になるので管理が大変になる。

 私鉄がやれるのなら任せる。

 しかもここは遷都したとはいえ、千年以上の繁栄してきたリグニアであり、商業が発達している。会計や記録、などは正確な上、金融システムが発達しているのでマーネエラプセ鉄道のような現金会計、現金決算など行っていない。

 安心して任せ、監査することが可能だ。

 その点は昭弥も安心している。


「なら、今夜は一つ楽しみませんか? 近くの神殿で大祭があるようですよ」


「人混みがある所はねえ」


「鉄道駅の近くですよ」


「是非行こう」


 セバスチャンの一言で、嫌がっていた昭弥は前言を翻した。 

 鉄オタである昭弥は鉄道が近くにあると言うだけで行く理由になる。

 だが酷い目に遭うこととなる。

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