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鉄道英雄伝説 ―鉄オタの異世界鉄道発展記―  作者: 葉山宗次郎
第三部第四章 私鉄

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底辺への疾走

 フィウミチーノからリグニアへ行くのに昭弥が使ったのは普通と宣伝したチェリオ鉄道だった。

 他の鉄道にも勿論乗るつもりだが、標準がどれくらいか調べておいた方が良いと思い選択した。

 そして切符売り場に行き運賃表を見たセバスチャンは


「……」


 固まった。

 運賃表が予め認可された値段より安かったのだ。数日前の悪夢が蘇り、セバスチャンは後退りを始める。


「落ち着けセバスチャン。ここはマーネエラプセ鉄道じゃない」


「……済みません」


 昭弥が声を掛けて正気に戻ったセバスチャンは頭を下げた。


「まあ、分からなくも無いけど」


 酷い私鉄を見た後なので、怯える気持ちは分かる昭弥だが、怯んでいては前に進めない。


「兎に角、調査だ。不味いと思ったら直ぐに下りれば良い」


「はい」


 二人は切符を買ってホームに向かった。

 国鉄と同じで改札を通ってホーム行く。ここまでは問題も無いし、異常は感じない。

 異常を感じる鉄道というのも怖いが、マーネエラプセ鉄道のような鉄道もあり昭弥達は気を抜かなかった。

 ホームに入って行くと青く塗装された電車が昭弥達を迎えた。


「結構、綺麗な列車にしたな」


 昭弥は素直に感心した。

 国鉄の標準直流電車一〇一系の改造型だった。

 全長二五メートル、全幅三.四メートル、全高四.〇メートルの車体に直流モーターを組み込んだ電車だ。電動車二両、付随車二両の四両編成が基本編成だが、基本編成を繋ぐことが可能だ。外観は旧国鉄の一〇一系に似た、と言うよりそのままの三面窓に大きな前照灯。運転窓が傾斜しているか否か以外は完全に似ているが標準軌に合わせて車体は拡大しており新幹線並みの大きさになっている。

 都市近郊において五分か一〇分間隔で運転することを考慮しており、大量調達が可能なように電力は直流にして電気系統を簡略化して製造費を抑え、各所が規格化して大量生産が可能となっている。

 特徴的なのは各部がユニット化されており、自由に改造できる車体だ。

 これにより各社、各方面にあった車両へ改造できる。

 例えば五扉にしてロングシートにすれば通勤型に。三扉にしてクロスシートにすれば近郊急行型に出来る。

 チェリオ鉄道は一扉のクロスシートの特急列車に仕立てていた。


「素早く移動できるようにしているのか」


 停車駅を見ると途中リグニアに停車してから更に近郊の町へ行く路線となっている。

 元々近郊の町とリグニアを結ぶための鉄道であり、自分たちの本線と言っても良い路線だ。

 リグニアを通るのはおかしく無い。


「本数も多そうだ。一時間に一本は特急を出している」


 二時間とか三時間に一本、下手をすれば一日に一本という路線もあるだけに昭弥は感心していた。

 直ぐに発車ベルが鳴り、扉が閉まって発進して行く。

 複数の線路が交差する構内を過ぎると脇に見えるのは架線を支える鉄柱。電車用の架線の上に送電線が更に重ねてある高い物だ。


「加速はそれほど変わらずか。まあ同じモーターを使っているんだから当たり前か」


 モーターは国鉄の物と同じであり、出力も同じだ。ただ車両の重量が増えると重くなり加速が悪くなるくらいだ。

 特急という事もあり、電車は加速してリグニアに向かう。


「……なんか速いな」


 昭弥が窓の外を見ながら呟いた。各社には線路脇にマイルポストを立てるように指導していてポスト間の通過時間を数えることで現在の速度を知ることが出来る。

 更に架線用鉄柱の配置間隔も鉄道省の基準があり、守られている。それを利用して図ることも出来る。


「認可されている速度より速いな」


 五十キロ程度が制限速度の筈だが、七十キロくらい出ている。


「隣も速いですね」


 反対側の窓を見ていたセバスチャンが答える。

 隣を走るヴィミナーレ鉄道の列車が追い抜いていった。それを追いかけるように昭弥達の乗った電車も加速する。

 だがヴィミナーレ鉄道の方が早く抜かれていった。

 リグニア一というスピードは伊達ではないようだ。


「しかし、速いですね。どうやっているんでしょう」


「線形が良いんだ向こうの方が直線的に線路を引いているがこちらは曲がりくねっている」


「それでも速度を出していましたけど」


「スピードを出せる直線だっただけだよ」


 ただ昭弥が気になったのは、自分の乗っている電車が並行区間でスピードを出して競争していたような運転をしていたことだ。


「各社の競争意識がありすぎるように感じる」


 自ら普通と言ったチェリオ鉄道でさえ、この有様。

 運賃表も届け出より安くなっていた。


「これは一波乱ありそうだな」




 昭弥の予感は的中した。

 その後リグニアとその周辺の私鉄を視察、一乗客として乗ってきたが大半が届け出より安い運賃だった。サービスの良いカピトリーノ鉄道はサービス料のため少し高めだったが他は安い。最安値のアヴェンティーノ鉄道は平均の半分くらいで庶民の足になっていたが、ロングシートも無い車両だった。

 しかし全体的に安値での運転である事は間違いなかった。


「赤字になりかねない水準だな」


 鉄道運輸局の一室を臨時の執務室にした昭弥は私鉄の運賃に関する調査報告書と各私鉄から提出された財務諸表を読んで呟いた。

 いずれもリグニアとフィウミチーノ間での営業係数が一〇〇を超えていた。

 営業係数は経費を収入で割って一〇〇を掛けた数字であり鉄道路線運営上、重要な数字になる。

 百を超えれば赤字路線であり廃線も検討した方が良い。国鉄の末期など利用者が少なすぎて三〇〇〇以上の数字を叩き出した路線もあった。

 だが旧帝都の私鉄の場合、利用者はいるのだが運賃が安すぎて収入が低くなっているのが実相だった。


「どうして運賃を安くするんでしょうか?」


「それだけリグニアとフィウミチーノの間が儲かるんだよ自分たちの会社に取り入れようと必死だよ」


 船から降りる客はフィウミチーノが目的地では無く、その先のリグニアが目的地にしている人が多い。遷都してからもリグニアへ向かう人は多く、従って利益も多い。その需要を取り込もうと私鉄各社は凌ぎを削っていた。


「企業努力ですか?」


「いや底辺への疾走だ」


 例えば同じ業界のA社とB社があるとする。

 シェアを拡大しようとA社が値下げをすればB社は更に値下げ、それを見てA社は更に値下げをして、B社も追随する。

 消費者としては良いのだろうし、勝利したA社もしくはB社の売り上げも上がるだろう。だが業界全体の収入、A社とB社を合わせた金額は下がり続けている。

 勿論、値段が安くなったことで需要を喚起できるかもしれないが、成熟した市場で発展の余地がない場合、得られるはずだった収入が値下げによって手に入らなくなる悪手だ。

 最悪、利益や必要経費が得られない可能性が出てくる。

 ふるさと納税で各自治体の間で返礼品競争と同じで、返礼品が豪華になって得られる収入が減るのと、全自治体税収の合算が減っていくようなものだ。

 詳しい資料がリグニア周辺の鉄道会社、ふるさと納税共に無いので断言は出来ないが、得られる筈だった収入をフイにしているはず。


「他社に取られたくないから赤字になってもやっているんだろうな」


「じゃあ何処から赤字を補填しているんですか? 会社全体では赤字にはなっていませんよ」


「自社の独占している路線から得ているんだよ」


 リグニアからフィウミチーノまでは私鉄同士の激烈な競合区間だが、リグニアから先は各都市へ鉄道会社は分岐して行くので競争は激しくない。

 精々国鉄と競合するが国鉄は基本運賃に忠実なので、それより一寸安い値段で乗客を得ることが出来る。そのため相対的にリグニアと各都市の間を独占できるため利益が上がりやすい。

 そこで得た利益でリグニア~フィウミチーノ間の赤字を補填していた。


「他にも電気事業で稼いだ資金を回しているんだろう」


 リグニア周辺の鉄道会社では電車用の発電施設を使って電気事業を行っていた。

 電気事業も帝国で発達しつつある産業の一つで新たな動力源として求められている。

 特に新たな町フィウミチーノには最新鋭の工場、電気を動力源とする産業機械の並ぶ工場が立ち並ぶ町は電気を求めていた。

 そのため鉄道会社は自社で発電し鉄道用を除いた余剰分をフィウミチーノに送って工場に売却し利益を得ていた。

 その電気料金収入も私鉄各社は赤字補填につぎ込んでいた。


「健常じゃないな」


 利益の出ない部門に投資しても儲からない。今は黒字でもいずれ赤字に転落してしまう。


「どうします?」


 セバスチャンに尋ねられて昭弥は答えた。


「まともになるように命じるだけさ」

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