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有能なお飾りは、ある朝いなくなりました  作者: ねむけもの


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第三章 決定的な出来事

 決意が行動に変わったのは、一通の書類を目にしたからだった。


 マルクスから渡された書類の束を整理していたとき、リディアは誤って一枚の私信を開いてしまった。封が甘かったのか、あるいは最初から封をしていなかったのか。取り出した紙を見て、リディアは手を止めた。


 差出人はコーラ・フィッシャー侯爵令嬢。マルクスが昨秋から親しく交際しているという噂は、社交界の隅で囁かれていた。リディアはそれを、単なる社交上の付き合いだと自分に言い聞かせていた。コーラは美しく社交的で、侯爵家の令嬢だ。マルクスの隣に立つ人間として、格というものを考えれば、リディアよりずっと相応しかった。その事実から目をそらすために、「社交上の付き合い」という言葉を使っていた。


 しかし手紙の内容は、そういった言い訳を許さないものだった。


 愛情のこもった書き出し。二人だけが知る場所への言及。先月の逢瀬への感謝。そして終わり近くに、「リディア嬢との婚約は、いつ終わらせるの」という一文。その筆跡は流麗で、書き慣れた手の文字だった。一度や二度書いた手紙ではない。ずっと、続いていたのだ。


 リディアはその紙を静かに元の束に戻した。手が震えていないことを確認して、続きの整理作業を淡々と終えた。


 驚きはあった。けれど傷心とは少し違う感覚だった。マルクスへの深い愛情を、リディアはいつからか持っていなかったのかもしれない。あるいは、最初から持ったことがなかったのかもしれない。婚約という形式と、役に立てているという実感と、それが入り混じった何かだったような気がする。


 彼女を揺さぶったのは、裏切られた怒りより、別のものだった。


 これだけ尽くしてきて、使い捨てにされるのか。


 その思いは、燃え上がる炎ではなく、静かに凝固する氷のようなものだった。熱くはない。しかし冷たく固く、溶けない。この感覚を、リディアは名前で呼ぶことができなかった。悲しみとも、屈辱とも、少し違う。ただ、どこかに向かって動かなければ、この重さに押しつぶされるという確信だけがあった。


 部屋の窓から外を見た。屋敷の庭が暗い中に広がっている。七年間、朝ごとにこの窓から外を見てきた。夜明け前の空が、いつも一番美しかった。この場所を嫌いではなかった。ただ、この場所が自分のためにある場所でないことを、今夜ようやくはっきりと認識した。


 その夜、リディアは帳面を開いて、計画に具体的な数字を書き込み始めた。


 自分名義の貯蓄がある。婚約期間中にマルクスから渡された「生活費」の残りを、リディアは一切使わずに手元に残していた。自分の仕事で得た実質的な報酬は一切なかったが、父から書類仕事の謝礼として渡された小遣いも、すべて積み立てていた。七年間の几帳面な積み重ねは、数字の上では悪くない額になっていた。


 伝手もある。父の仕事を通じて知り合った商会の代表たち、議会に出入りする法律家、書記官の仕事を長年続けている知人。顔と名前を覚えてもらっている人間は、リディアが思っていたより多かった。


 自分が思っていた以上に、自分はすでに動ける状態にあった。気づいていなかっただけで、準備は七年間の仕事そのものだった。


 必要なのは、踏み出す勇気ではなかった。勇気ならもうある。必要なのは、準備だ。


 リディアは静かに、しかし確実に、次の章へ向けて動き始めた。


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― 新着の感想 ―
コーラ嬢は、伯爵令嬢? 侯爵令嬢? ちょっとだけ気になりました。
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