第74話 次の便
加工場へ送り出した二人が帰ってくる日の夕方、港の裏通りには、船から下ろした荷を運ぶ荷車の音が続いていた。リールが食卓から帳簿を片づけていると、戸口でテオの声がした。
「戻ったぞ」
戸を開けると、テオは肩の荷袋を持ち直し、後ろのシェイムが入れるように戸口を空けた。二人が出ていった朝にはなかった塩の跡が、上着の裾に残っている。
「おかえり。怪我はなかった?」
「俺たちも、運び人も無事だ。最後の荷物まで船に載せてきた」
シェイムは鞄から封書を取り出し、リールへ渡した。
「加工場の方が、ギルドに私たちを紹介してくださったんです。これはギルドの方から、リールさんに渡してほしいと」
封書には、ミゼルディアの港町メルカトールにある冒険者ギルドの名が記されていた。
「シャマイラを集めてるんだと。俺たちを雇ってる商会の話も伝わってる。責任者と仕事の相談がしたいってよ」
「護衛の次は、狩りかもしれないのね」
「浜に出るやつなら、場所はシェイムも見てる。どういう依頼か聞いてからだけどな」
リールが封書をコレットへ渡すと、彼女は食卓の端に置き、運ばれてきた煮魚の皿を二人の前へ寄せた。
「食べながら話してよ。今日は四人分、頼んであるから」
「おう。荷物だけ上に置いてくる」
テオが階段を上がり、シェイムも荷袋を抱えて続いた。上から寝室の戸を開ける音が聞こえる間に、リールは空いていた椅子へパンの籠を寄せた。
「明日、向こうへ行く船を聞いてくるわ。二人にも一緒に来てもらう」
「今回の船賃も入れて、値段を出してね」
「ええ。先に計算しましょう」
階段を下りてきたテオは腰に剣を提げておらず、シェイムも荷袋を持たずに食卓についた。リールは二人の皿へ煮汁をよそい、向こうでの仕事の話を聞きながら食べ始めた。
* * *
船でメルカトールへ渡ると、岸壁では、乾燥させた海藻の俵を船へ積む者と、荷車へ移す者が声を掛け合っていた。テオが先に通った道を案内し、リールたちは倉庫の並ぶ通りを抜け、小さな冒険者ギルドに入った。
受付には長い机が一つあり、その脇に、運び出す荷を書いた紙が掛けてあった。職員の男は封書を読むと、テオとシェイムのカードを確かめた。
「加工場からも話は聞いてる。その二人なら、東の浜のシャマイラ狩りを頼める。王都セレティアへ定期的に納める分だ」
男が広げた納品の予定表には、出荷日ごとに引き受けた冒険者の名が入っていた。次の便の欄はほとんど埋まっているが、その次はまだ空きが多い。
「今度の分は、あと二体だ。本体をここへ持ってきてくれ。王都まで運ぶのは、うちで手配する」
「甲羅があるものでも、いいんですか」
シェイムが尋ねると、男は納品物の記録を見せた。
「捕食進化したものも受け取ってる。シャマイラならいい」
リールはテオたちと、男が示した浜の場所を確かめた。加工場の道からも入れる浜で、シェイムは干潮時に岩場まで歩いたという。テオは彼女の説明を聞くと、潮が引いている間に狙うと男へ伝えた。
「今回は、うちの商会で二体分を引き受けます。納品はいつまでですか」
「今度の分は、四日後の朝までだ」
その次の便の欄にも、二体分の空きがあった。
「次の分もうちへ頼めませんか。納品日はいつですか」
「最初の納品日から十日後だ。この二人を、その日にも出せるのか?」
リールは納品日と、島の商人が希望していた護衛の日を照らし合わせた。二人が留守の間に来た商人には、帰還後に日を決めると返している。島の仕事は、二人が戻る日に合わせて話を進めよう。
「テオ、シェイム。その間に、調査を入れたい日はある?」
「島へ戻ったら、一日ほしいな」
「私も、海岸図の続きを書きたいです。次の狩りに出るまでには戻れます」
「分かった。その日は空けておくわ」
リールは予定表を男に返した。
「次の便も、この二人を送ります。まずは二便分、リール商会の名前で」
「それなら助かる。毎回、同じ連中が港にいるとは限らないからな。王都の注文は来てるのに、狩りへ出る人間は、その都度集めてる」
コレットが隣へ置いた紙を読み、リールは二人の給金と船賃、宿代を払っても商会に金が残る値段を決めた。
「一便の二体分で、銀貨二百枚です。半分を仕事に入る前に、残りを納品時にお願いします。次の便も同じ条件です」
「渡す前から、百枚か」
「二人の船賃や、狩りに必要な費用を先に出します。納められなかった分の前金は、商会から返します」
「二便分を、こちらの商会に頼む」
男が受付の奥の職員へ呼びかけた。
「今度の不足分は、もう募集しなくていい」
契約書に署名したリールへ、男は最初の便の前金を渡した。次の前金は、初回の納品時に支払うと約束した。
* * *
最初の納品日の朝、リールがギルドの裏口で待っていると、テオとシェイムが荷車を押してきた。荷台には仕留めたシャマイラが二体載っていた。鮫に似た頭は同じでも、一体は甲羅を背負っていた。
荷車が止まると、奥からギルドの男が顔を出した。シェイムは荷台の端へ杖を立て、職員にシャマイラを示して見せる。リールは、道中の泥で汚れた手を払っているテオへ、濡れた布を差し出した。
「怪我は?」
「ねえよ。運ぶ方がくたびれた」
男は納品物を受け取り、王都へ送る荷のそばへ運ぶよう職員に頼んだ。
「次も、同じ数で頼むぞ」
「約束した日に納めます」
リールとコレットが受付へ戻ると、初回の残りの代金と、次の便の前金が用意されていた。コレットは次の仕事に使う金を分け、残る分をリールの前へ寄せた。
「こっちは、今回終わった分。二人の給金も、今度の船賃も払える」
リールは代金を鞄へ収め、次の納品日の入った契約書を受け取った。王都の名の下に、自分の商会の名がある。脇では受付の男が、仕事を探しに来た冒険者へ、別の荷の護衛を勧めていた。
* * *
島へ戻った翌朝、コレットが食卓で二人の給金を渡していた。テオは受け取った金をしまうと、空になった皿を台所へ運び、シェイムは部屋から持ってきた海岸図を食卓の端へ広げた。
「今日の調査、昼には戻るつもりです」
「急がなくていいわ。今日は、二人に護衛を頼む約束はしていないから」
シェイムが地図を畳む間に、リールは食堂へ返す籠を戸口へ出した。次の給金を払う前にも、二人はメルカトールへ行く。帰ってきて、またここで食べる。その次も雇えるよう、残った代金を家の費用と一緒に置いておきたい。
「リールさん」
コレットが、次の納品日を書いた帳簿を開いていた。
「この二便が終わる頃、二人を雇ってひと月になるよ。その先も、ギルドは頼みたいんでしょ」
「ええ。二人にも続けてもらえるか、帰ってきたら話すわ」
「じゃあ、次の分の値段も計算しておく。家の更新もあるからね」
テオが荷袋を肩に掛け、シェイムも杖を取った。リールは戸を開け、海岸へ向かう二人の背中を見送った。
食卓へ戻ると、コレットの帳簿には二人の給金が並び、その隣には、王都の次の納品日が書かれていた。
リールは同じ日の護衛を頼みたいという商人へ、二人が島に戻る日を知らせ、仕事の日を変えてもらえないかと返事を書いた。




