第68話 続けるために
王都の役所では、廊下を行き来する職員が、扉の脇で待つ者を順に部屋へ呼んでいた。セレスティーヌが案内された先には、王国の担当官とレヴィンがいた。席に着くと、担当官が支部の維持費を記した書類を差し出した。
共同事業と、保証金の支援を確約できない理由について説明を終えると、レヴィンから、農場の次の討伐が直接契約になったことも告げられた。担当官はその話を追わず、給与と救助費の欄を示した。
「こちらの費用については、話を聞くと伺っている」
「はい。この支部で今月末までに必要な追加費用は、ブーケ家で負担いたします。示された額であれば、今日のうちに本部へ届けられます」
「来月も、同じように出せるのか」
「来月の負担額までは、今お約束できません。ですが、今月の給与や救助手配を、次の話がつくまで待たせるつもりもありません」
担当官はレヴィンに尋ねた。
「これで、今月の支部は回せるな」
「ええ。すでに確保している分と合わせれば、受付と救助は続けられます」
「では、今月分はその形で受ける」
セレスティーヌは、手元の書類に記された支部名を確かめた。クリストフには、募集を続けられるという返事も届けたい。
「もう一つ、お願いがあります。支部で商業ギルドの募集を案内することを、今月末まで認めていただけませんか」
レヴィンが鞄から募集案内を出し、担当官へ渡した。
「先月、クリストフさんに認めたものです。期限は月末まで。続けるなら、支部の維持費についてもお話しいただくことになっていました」
「追加負担だけで運営を続けることを、王国が望んでいないのは伺っています。その上で、今月の費用を引き受け、案内の延長をお願いしています」
担当官は案内を読み、机の端に置いた。
「延長は認めない。期限を区切っても、こちらの受付から外の契約へ人を送る仕事は続けさせない」
セレスティーヌはレヴィンに尋ねた。
「直接頼まれた討伐を受けられるか、その確認まで断ることにはなりませんね」
「そちらは続けますよ。資格や受注条件を確かめずに行かれては困りますから。正式な依頼の受付も、救助手配も変えません」
担当官はレヴィンへ指示した。
「支部に伝えてくれ。先月限りの募集案内は、延長しない」
「オレから今日中に出します」
クリストフは、今日も仕事を探しに来る者を迎えているはずだった。
「追加費用については、このまま受けてよいのか」
担当官に問われ、セレスティーヌはすぐには答えられなかった。
今ここで負担を断れば、受付と救助を続ける金を、二人はほかから用意しなければならない。案内の延長を条件に、もう一度交渉できるかもしれなかった。
商業ギルドで会った男は、今日の金が要ると言って護衛を引き受けていた。あの男に待てとは言えず、働ける場所を作るよう頼んだ。そのために今度は、支部の職員への給与を止めるのか。
受付に来る者は、こちらの交渉が済むまで怪我をせずにいてくれるわけでもない。
「はい。今日中に届けます」
「案内の延長は認めない。その上での負担だ」
「そのご判断には賛成できません。ですが、支部で依頼を受けた方の救助まで、待たせる理由にはなりません」
セレスティーヌは費用の書類をレヴィンへ渡した。受け取った彼は、支部へ届ける手配をすると告げた。
「リール商会との事業は、お伝えした条件で続けます」
「それについての返答も、受け取った」
担当官が廊下の職員を呼ぶと、セレスティーヌは共同事業について記した自分の控えを鞄へ収め、席を立った。
* * *
午後、セレスティーヌはギルド本部で、従者が運んできた金を会計の職員へ渡した。入金を済ませてレヴィンの執務室へ入ると、机にはクリストフ宛ての封書が置かれていた。
レヴィンが職員を呼び、封書を渡した。
「支部へ送る金と一緒に頼みます。今日中に出してください」
「承知しました」
職員が退出すると、セレスティーヌは会計から受け取った控えを鞄へしまった。クリストフには、自分からも返事をしなければならない。維持費を用意できたことだけを、先に知らせるわけにはいかなかった。
本部の入口で従者を待っていると、支部へ向かう荷車が通用口から出てきた。レヴィンの封書を受け取った職員も、荷台に乗っていた。
セレスティーヌは荷車が門を出るまで見送り、従者と通りへ歩き出した。




