第67話 半分を出す人
数日後、冒険者ギルド支部の入口には、農場主の荷車が止まっていた。受付の前で職員と話していた男は、階段を下りてきたレヴィンを見つけると、帽子を取って近づいてきた。
「まだいらしたのか。帰る前に会えてよかった」
「また、魔物が出ましたか?」
「いや、礼を言いに来た。東の牧草畑も刈れるようになったよ。あの二人に会わせてもらって、助かった」
牛を出せずにいたときには、保証金を負担する話を聞いて依頼書を突き返しかけた男だった。今日は、牧草を運ぶための荷車まで用意している。
「東の畑も、あの方たちに?」
「ああ。次も頼めるか聞いたら、行くと言ってくれてな。報酬は商業ギルドで預かってもらった」
「こちらへ依頼を出さずに、ですか」
「もう知ってる相手だ。金と条件を決めれば頼めるだろう。ここでは、二人で受けられるかを確かめてもらった」
男は受付の職員にも礼を言い、荷車に戻っていった。通りから御者を呼ぶ声が届き、ほどなく車輪が動き始めた。
先月、クリストフには、一度会わせれば次から直接頼めると話した。今度は自分が会わせた二人に、農場主が声をかけていた。畑の魔物は倒され、報酬も払われたが、その金はここの受付を通らなかった。
* * *
王都へ戻ったレヴィンは、セレスティーヌに面会を求めた。約束した日の午後、本部の執務室へ案内された彼女が席に着くと、廊下では職員が、保証金を預けに来た冒険者を別の窓口へ呼んでいた。
「討伐の受注条件を変えられたそうですね」
「ええ。実際に受けてくださる方も出ましたよ。今日は、その先でご協力をお願いしたくて」
レヴィンは、今回条件を変えた討伐の依頼書を机に置いた。
「受けられる方が増えても、保証金を用意できずに残る依頼があります。依頼主にも負担をお願いしていますが、報酬とは別に金を預けていただく話ですからね。ブーケ家にも、支援を引き受けていただけませんか」
「保証金でしたら、すでに出しております」
「どちらへ?」
「リール商会の事業へ。一件ごとに、商会が出す保証金の半分を、ブーケ家で負担しています」
半分。
商館では、リールが自分で金を出す相手を決めると話していた。その事業へ、ギルドの出資者が金を入れていたのか。
「それは、先に伺っておきたかったですね。オレも商会へ支援の確約をお願いしましたが、断られましてね」
セレスティーヌは依頼書を読み、机に戻した。
「それで、わたくしから約束させてほしいというお話ですか」
「共同で出していらっしゃるなら、商会だけにお願いする話ではありませんよね。今月の上限を決めて、その範囲では、中央から案内する方への支援を約束していただきたいんです。受注条件を満たし、自分たちの分も用意できている方です。二人の動き方も受付で確認してから案内します」
「案内された方には、必ず出すという約束ですね」
「ええ。それが分かれば、職員も依頼人に出発の話をできます」
「誰に出すかは、リールさんが決めます。その条件で始めた事業です」
「ブーケ家が半分を出していても?」
「わたくしが出してほしいと申し上げても、あの方が断れば、この事業では出しません」
依頼書を読む間にも、金額を尋ねられなかった。足りない分をいくら頼めるかという話に進むには、まず商会と決めた条件を変えてもらわなければならない。
「出さないという判断にも、ブーケ家は口を出さないんですか」
「断った理由も受け取っています」
「その理由を、ブーケ家でもお確かめになる?」
「はい。何を準備できず、どこで話が止まったのか。わたくしは、それも知りたくて組みました」
ああ、断った理由まで欲しかったのか。
商会の返事を変えてもらうために会った相手が、その判断を受け取るために金を出していた。半分を負担していると聞いたときより、頼みにくくなった。
「こちらの受注条件も、ご存じですよね。何も、資格のない方を送り出してほしいとはお願いしていません」
「存じています。ですが、受付で準備まで確かめていただいても、その方へご自身の金を出すかは、リールさんに決めていただきます。先に必ず出すと約束すれば、そこで断ることはできなくなります」
「商会へ相談に来た方を、そこで止められるように?」
「断った理由をわたくしも受け取り、どこで危険を止められるのかを考え続けたいのです。あの方には誰に出すかを任せ、ご自身にも半分を負担していただいています。受けられる仕事が増えても、帰ってこられなければ、次の仕事はありませんから」
レヴィンは、机の依頼書を自分の方に寄せた。
「帰ってきていただくために、こちらも救助と治療を続ける必要があります。受注条件を変え、治療先も増やしました。それでも保証金で止まる依頼が残る。支援する相手を一人ずつ選んでいただく間も、受付と救助を回す金は要るんですよ」
「その費用を、保証金の事業で補わせたいということですか」
「受注が増えれば、手数料も入ります。王国からは、減った分を補えば済む話にはするなと言われています。ヴェールとも費用を話し、今度はブーケ家にお願いしているんです」
「ギルドを維持するために、ブーケ家が何を負担するか。そのお話は伺います。ですが、その代わりに、リールさんが出さないと決めた方にも出すよう約束することはできません」
「では、今日お願いした形での支援は、引き受けていただけない。ギルドの出資者としても、そのお返事でよろしいんですね」
「はい。共同事業への出資は、今の条件で続けます」
「そのお返事は、王国にも伝えます。ブーケ家にもお願いした結果を、オレからお話ししなければなりませんから」
「お伝えください」
「商会だけの返事としては、扱えなくなりますよ」
「わたくしがお返事したことです」
セレスティーヌは席を立った。レヴィンも立ち上がり、扉まで見送った。
* * *
翌日、レヴィンは王国の担当官に、条件を変えた討伐が動き始めたことを伝えた。担当官は報告書の完了欄を確かめたが、収入の説明まで聞くと、机に戻した。
「討伐はされた。次は直接頼まれた。それで、手数料は戻らないというのか」
「その農場では、そうなりました。最初に会わせたのはオレです」
「受ける者を増やせと言ったのは、こちらだ。そこを責めているんじゃない。ギルドを回す金をどうするか、聞いている」
「そのために、ブーケ家にも保証金の支援をお願いしました」
担当官は続きを待った。レヴィンは、ブーケ家が商会の保証金事業へ半額を出していることと、支援の確約を断られたことを伝えた。
「セレスティーヌ様は、ギルドの維持費については別にお話を伺うとおっしゃっています」
「商人が断ったから、それで終わりという話ではなくなったな」
「ええ。商会に判断を任せる条件も含めて、ブーケ側が選んでいると伺いました」
担当官は報告書を手元に引き寄せた。
「その共同事業については、ブーケ家からも説明してもらう。保証金の支援を求めたときの返答も含めて、こちらで話をする」
「承知しました」
レヴィンは報告書を預け、部屋を出た。持ち帰る鞄には、討伐依頼書が残っていた。




