↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線の商人  作者: カミツキ
三章 銀貨開戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/82

第63話 残したいもの

 数日後、王都の冒険者ギルド本部では、依頼書を持った冒険者が受付に並んでいた。報酬を受け取る者と保証金を預ける者の間を抜け、クリストフは階段を上がった。自分の支部でも、以前は朝からあれだけの金が受付を行き来していた。


 案内された部屋では、レヴィンが支部から届いた報告書を机に広げていた。


「ええ、報告は読みましたよ。近場の護衛が減っている、と。で、今日は何を変えてほしいんです?」


 クリストフは、商業ギルドから持ち帰った募集の案内を差し出した。荷車の護衛を探す商人に、仕事を求める冒険者が会えるようにするものだった。


「これを支部の受付で案内したいんです」

「ああ、商業ギルドへ。うちに仕事を探しに来た方を、ですか?」

「うちで受けられる依頼がない者に、向こうでも仕事を探せると知らせます。契約するかどうかは、本人と商人が決める」


 レヴィンは報告書の上に案内を重ねた。


「仕事は見つかるかもしれませんね。で、うちには何が入るんです?」

「紹介料は取りません」

「では、向こうは?」

「契約や支払いを扱えば、その手間賃が入ります」

「ああ、そういうことですか。案内するのはこちら、手間賃を取るのは向こう。向こうにとっては便利でしょうね。その案内をする職員の給料は、うちが払うんですよね?」


 そこまで言われることは、来る前から考えていた。受付を使う以上、支部の仕事になる。商業ギルドから金をもらう話はしていなかった。


「今は、街から冒険者が出ていく方が困ります」

「ええ。仕事がないから、ほかの領へ行く。そこまでは分かりますよ」

「依頼が戻ってから呼び戻せばいい、では間に合わないんです。向こうで客がつけば、もう戻らない。残った者まで装備を売り始めたら、依頼書を貼っても受けられません」

「そこで、働ける場所を教えておくわけですね。うちを使わなくても済む場所を」


 レヴィンの声には、まだ反対とも賛成ともつかない柔らかさがあった。案内に書かれた行き先を読み、報告書の護衛依頼の欄と見比べている。


「いやあ、一度会わせてしまえば、次は商人から直接頼めますね。あなたの受付を通る必要までなくなりませんか?」

「そうなる者もいるでしょうね」

「それは、あなたも困るのでは?」

「困りますよ。俺も、支部の金が増えないことを喜んでるわけじゃありません」


 言い終えると、廊下から別の部屋へ入る職員の声が聞こえた。依頼人が待っているという。こちらの支部では、新しい依頼を待つ冒険者ばかりが増えていた。


「でも、うちに依頼が来るまで食わずに待てとは言えません。外でも働いて、武器を直して、あの街で暮らせるなら、次にうちの仕事を受ける余地は残る」

「ええ、受けてくださればね。そこは、保証していただけるんですか?」

「できません。街を出た者が戻る保証も、ないです」


 レヴィンは案内をクリストフの方へ滑らせた。


「いえいえ、困っている方だけが見るとは限りませんよ。こちらでも仕事を受けられる方が見て、向こうの方がいいと思えば、そちらへ行くでしょう?」


 セレスティーヌには、この募集を支部の受付で案内することも先に私信で知らせていた。


「案内しなくても、直接頼まれている者はいます。知らない者だけ、仕事を見つけられずに残ってるんです」

「ああ、知らなかった方にも教えてあげたい、と」

「働ける者を減らしたくないんです。うちで受ける仕事がないというだけで、冒険者を続けられなくなるのは困る」

「なるほど、なるほど。冒険者を続けていただくために、冒険者ギルドの外で働いていただく。そういうことですか」


 レヴィンはそう言って、机の報告書を閉じた。


「ただ、うちの受付も救助も残しておくんですよね? その間も職員には給料を払う。救助があれば、人も出す。そちらの金は、どこから持ってくるおつもりです?」


 クリストフは、返された案内を取らずに話を続けた。


「商業ギルドからも、こちらへ依頼人を案内してもらいます」

「ああ、向こうで決まった仕事を、こちらへ回してくださる?」

「決まった契約を取り上げるつもりはありません。護衛を探しに来た商人に、こちらで正式な依頼を出す方法も伝えてもらう。商業ギルドの書記には、その話もしました」

「それで、向こうは何と?」

「冒険者ギルドへ頼みたい客まで引き留めるつもりはない、と。ただ、向こうの受付でこちらの依頼書まで書く仕事は受けないそうです」

「ええ、そうでしょうね。自分たちの客を待たせて、うちの書類まで書く理由はありませんから」

「こちらは人を送る。向こうは、うちを使いたい依頼人を送る。では、どちらに頼むかも、その都度選んでいただくんですね?」

「ええ」

「では、商人が、あなたの支部から紹介された冒険者だから安心だと言い始めたら?」

「支部で人を選んで送り出すことはしません。募集を知らせるだけです。俺の推薦が欲しいと言われても、それは引き受けない」

「ええ。あなたは、そう説明する。商人も同じ説明をしてくださるといいですね」

「だから、案内には書きます。契約の相手は商人で、支部が護衛を引き受けるわけじゃないと」

「ええ。その説明にも、うちの職員の時間を使うんですね」

「使います。それを使わずに済ませた結果、人がいなくなるよりはいいと判断しました」


 レヴィンはしばらくクリストフを見ていた。笑みは残っていたが、もう案内の文面には目を落とさなかった。


「分かりました。では、今月いっぱい。まずはそこまでにしましょうか」

「その間は、案内していいんですね」

「ええ、あなたの支部だけで結構です。続けたいのでしたら、月末にまたお話ししましょう」

 クリストフが案内を手に取ると、レヴィンは閉じた報告書の上に指を置いた。

「ただ、そのときに、皆さん食べられるようになりました、と。それだけではオレも困るんです。人が残ったのは分かりました。で、支部は何で回るのか。そちらも聞かせてくださいね」

「分かっています」

「ええ。そこまで分かっていて、オレに認めろとおっしゃる。いやあ、困りましたね」


 クリストフは立ち上がり、案内を鞄にしまった。


 * * *


 街へ戻ると、クリストフは商業ギルドでチコと話を済ませ、その日のうちに受付へ案内を置いた。


 翌朝、職員がそれを見せた相手は、護衛を探していたDランクの男だった。男は仕事の内容を読むと、しばらく受付台に指をついたまま黙っていた。


「ここから来たと言えば、雇ってもらえるのか」

「雇うのは商人だ。会って話してみろ」


 クリストフが受付の奥から声をかけると、男は案内を置いた。


「知らない奴でも会ってくれるのか?」

「その相手を探してる。顔見知りに頼めたなら、募集は出さないだろ」

「……それもそうか」


 男は商業ギルドの受付の場所を聞き、ギルドカードを懐へしまって出ていった。


 後から来たFランクの冒険者には、職員が荷下ろしの募集を教えていた。こちらに残っている採取依頼を見てから、そちらへ行くという。


 夕方、Dランクの男がギルドへ戻ってきた。朝は手ぶらだったのに、今は包んだパンを抱えている。


「明日の南便、頼まれた。朝から商人の倉庫へ行く」

「受けたのか」

「ああ。半分、先に払ってくれたよ。今夜、宿代を払える」


 男はパンの包みを抱え直し、受付に置かれた案内を確かめた。


「ここに来てなきゃ、知らないまま街を出てた。助かったよ、ギルド長」

「帰ってきたら、また寄れ」

「次も向こうで頼まれるかもしれないぞ」

「そのときは、そのときだ。こっちに出た依頼も見ていけ」


 男は笑って帰っていった。


 扉が閉まると、受付の職員が今日の帳簿をクリストフへ渡した。今日の帳簿には報酬を支払った記録があったが、護衛依頼の手数料が入った記録は一件もなかった。


 月末に持っていく報告書に、男のパンだけを書くわけにはいかない。


「ギルド長、明日の案内も、ここに置いておきますか」


 職員の手には、商業ギルドから届いた新しい募集があった。


「そうしてくれ。明日も、仕事を探しに来る奴はいる」


 クリストフは帳簿を閉じ、受付台に残っていた今日の案内を、新しいものに取り替えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。