第61話 次も頼む
ルゥラ討伐から戻った翌朝、リグレットは冒険者ギルドで依頼の報告を終え、CランクとDランクの掲示板をざっと見た。
帰ってきても、増えてないなー。リールさんのところなら、仕事あったりしないかな。
受け取った銀貨五枚の報酬と保証金を巾着にしまい、冒険者ギルドを出た。
通りには商業ギルドへ荷車を持ち込む運び手が続き、その間を抜けてリール商会へ向かう。商業ギルドの前では、荷車の手配票を持った商人が、見覚えのある小盾の男を引き留めていた。
「今日は頼めないのか。前にルミナシアまで行ってもらったときは助かったんだが」
「北へ荷車を出す商人に、先に護衛を頼まれちまった。身体ぁ一つしかねえよ」
インチキ親父だ。
リグレットが荷車の脇を通り過ぎようとすると、ゲリオンが手を上げた。
「おう、姉ちゃん。今日は何受けた」
「何も。ルゥラ狩りから戻ってきたのに、近場の護衛がまだないんだよね。リールさんのところに聞きに行こうと思って」
「なら、ちょうどいい」
ちょうどいい? リグレットが二人を見比べると、ゲリオンは商人にこちらを示した。
「なぁ、今日の南便、こいつに頼んでみろ」
「あんたの知り合いか」
「ああ、前に一緒に仕事をした」
商人はリグレットが背負う弓を見たが、すぐには頷かなかった。
「南便って、どこまで?」
「南の農場だ。金具と釘を届けて、空の荷車で帰る。夕方までには戻れる」
その条件なら助かっちゃうな。リグレットはギルドカードを商人に見せた。
「私、リグレット。Cランクだよ」
「Cランクなのは分かったが、俺が荷物を預けたことのある相手はゲリオンだ」
えー、そこ? こっちはCランクなのに、Dランクのインチキ親父の方がいいわけだ。
でも、自分も初めての客から後払いの仕事を頼まれたら、金を受け取るまで安心できないか。
「怪我人を連れてダンジョンを出たとき、俺は運ぶ方で両手が塞がってた。こいつが前を見てくれたんだ」
ゲリオンはこちらを見ず、商人に話を続けた。
「魔物を追わずに、怪我人と一緒に帰ったことがある。荷車を置いて勝手にどっか行くような奴じゃねえよ」
商人は荷車に積んだ箱を指した。
「それを、俺の荷物でもやってくれるか」
「大丈夫大丈夫、南の農場なら道も知ってるし。で、報酬は?」
「前と同じ銀貨八枚でどうだ」
「帰り着いてから全部?」
「そうしてもらうつもりだった」
「んー、ギルドを通さずに依頼受けるのは初めてだし、半分は先にほしいなー」
商人はゲリオンに何か言ってほしそうだったが、ゲリオンは肩にかけた小盾の紐を直すだけで、口を挟まなかった。
「……四枚先に払う。残りは無事に戻ったらだ」
「うん、それで受ける」
商人は財布から銀貨を出してリグレットに渡した。受け取った硬貨をしまうと、荷車の脇で待っていた御者が声を上げた。
「もう出していいか。次の荷物が待ってるんだ」
「こっちも決まった。南へ頼む」
ゲリオンは北便の荷車が待つ方へ歩き出した。
「姉ちゃん。帰るまでが仕事だぞ」
「大丈夫だって。前にインチキ親父に教わったし」
「誰がインチキ親父だ」
商人が御者の隣に乗るのを待ち、リグレットも南門へ向かう荷車に並んだ。ゲリオンの小盾は、人と荷車の間に見えなくなった。
* * *
南門を出ると、石畳を打っていた車輪の音が、乾いた土の上では鈍くなった。道は広いところと、荷車同士がすれ違えないところが交互に続く。リグレットは荷車の速さに合わせ、茂みが近い側を歩いた。
農場に着く手前で、前から空の荷車が二台続けて来た。御者は先へ進もうとしたが、二台目が道の中央へ寄り、すれ違う場所がなくなった。
「あそこで待とう」
少し手前の道幅があるところをリグレットが示すと、御者は荷車を端へ寄せた。商人も降りて、向こうの二台が通るまで箱の側に立った。一台目の車輪が轍を踏み、土がこちらへ散る。二台目が抜けるころには、商人の靴もリグレットの裾も白くなっていた。
「止めてよかったな。あそこで行き違ってたら、箱の角をぶつけてた」
商人は靴の土を落とし、また御者の隣へ上がった。農場では金具と釘を下ろし、荷物を受け取った農場の男が、空いた荷台を見て商人を呼び止めた。
「帰りの荷車が空くなら、麦を三袋買わないか」
「値次第だな」
農場の男が袋を開き、商人は麦を確かめて値を言った。二人の話がまとまると、御者が荷台を指した。
「帰りの運び賃は別だぞ」
「ああ、払う」
商人が袋を載せるよう頼み、さっきまで箱があった場所へ、今度は麦袋が重なった。
「あれ、帰りは空だって言ってたよね」
「今、麦を買うことにしたんだ。道は変わらんよ」
「道は同じでも、守る荷物が増えたでしょ。護衛の分も増やしてよ」
「……銀貨二枚足す。麦を俺の店まで運んだら払う」
「うん。店はどこ?」
「南門から入って、商業ギルドへ行く前の角だ」
店へ寄ってから仕事が終わる。農場の男が三つ目の袋を載せるのを待って、リグレットは御者と帰り道へ出た。麦が載ったぶん荷車の速度は落ちたが、日が傾く前に南門をくぐった。
商人の店で袋を下ろすと、御者は空になった荷車を通りへ出した。
「麦も、店まで運んだよ」
「見りゃ分かる。金具も向こうで受け取ってもらえた」
商人は約束していた銀貨四枚に、農場で決めた二枚を重ねて渡した。リグレットが受け取ると、男は次の荷物について話し出した。
なにこれ、普通の相場よりも高いし、ルゥラ討伐より全然楽で稼ぎいいじゃん。
「三日後も南へ出す。次も、あんたに頼めるか」
「帰りは空?」
「……それはまだ分からん」
「だったら、出る前に教えてね。三日後の朝、ここでいい?」
「ああ。リグレット、朝の鐘が鳴る前に来てくれ」
「うん。じゃあ、また三日後」




