第34話 何が欲しい
テオの剣を受け取る日、リールは彼とオルメイの工房へ来ていた。湊は作業台の向こうで、いつものように工房の仕事を手伝っている。
今日はシェナはいないのね。
「ほらよ、次も同じように直せるとは限らねえぞ」
オルメイから修理の終わった剣を受け取ると、テオは刃を確かめ、腰の鞘へ収めた。
「ありがとな。好きで壊してるわけじゃねえよ」
作業台の向こうにいた湊が口を挟んだ。
「テオさんはやっぱり剣が似合いますね。格好いいです」
「へへっ、ありがとよ。湊は冒険者とか興味ねえのか?」
「どちらかと言うとありますけど、武器とか持ったことないので俺には……」
「最初は誰だってそうだ。あとは自分がどれだけ踏ん張れるかだ」
「どれだけ踏ん張れるか……テオさん、今度俺も行ってみたいです」
さっきまで剣を褒めていたときより、湊の声は真面目だった。
「はぁ? 何しにだよ。お前、魔物と戦えねえだろ。武器も持ったことのないお前なんか、一瞬でルゥラの餌食だ」
「戦う依頼じゃなくても、採取とか……それに、テオさんの後ろで、絶対に指示通りに動きますから」
テオは湊の必死な目を見て、少しだけ呆れたように息を吐いた。
「ハァ……どうしても行くって言うなら、ギルド見に行って浅い区域の採取依頼が同時に出ている時だけだ。それ以外は、絶対に連れてかねえからな」
「はい! お願いします」
テオは前に示されていた修理代を払った。
「これで剣は戻ったし、あとは保証金だな」
「そうね。じゃあ、見に行きましょう」
二人はそのまま冒険者ギルドへ向かった。
掲示板には、前に外されていた新しいダンジョンの依頼が戻っていた。テオはその中から素材回収の依頼を見つけ、保証金の欄まで読む。
「これだ」
「受けたいのは、これでいいのね」
「ああ。ルゥラの場所も前より分かってるしな」
依頼書を外したテオが受付に持っていくと、職員は登録と依頼内容を確認した。
「受注できます。保証金はこちらです」
示された額を見て、テオが隣のリールを見る。
「で、言ってた実験はどうすんだ?」
「今回は、その保証金を商会から出すわ」
「全部か?」
「今回はね。成功して戻った保証金は商会に返して。失敗して戻らなかった分は、あなたには請求しないわ」
「じゃあ、俺は何も返さなくていいのか?」
さっきまで湊と話していたときの軽さは、その声にはなかった。
「今回はね。その条件で試したいの」
リールが用意した保証金で、受注はそのまま通った。
「出発前に、現在出ている情報は確認しておいてください」
「ああ」
手続きを終えたテオが、腰の剣に手を添えた。
「くーっ、やっと戻れるな」
荷台に剣を置いていたときには出なかった声だった。
「無事に帰ってきたらね」
「おいおい、そこは戻るって言ってくれよ」
「ルゥラの話を聞いたあとで、それは言えないわ」
「ああ、分かってるよ」
テオはルゥラが目撃された場所を職員に聞き直してから、冒険者ギルドを出ていった。
リールも商館に戻ると、コレットが受付で帳簿を開いていた。
「あ、リールさん。おかえり。さっき出した保証金、あれ商会の金なんだよね?」
「ええ」
「テオの奴からは何も取らないの?」
「手数料は取らないわ。成功して戻った保証金を商会へ返してもらうだけよ」
聞き方は軽いのに、コレットはまだ帳簿を閉じなかった。気になっているってことね、わかりやすい。
「テオが次に、依頼へ行く前に困ったら、どこへ来ると思う?」
「……うち?」
「そういう場所が一つ増えたでしょう」
「んー? でも、それって金になってないじゃん」
「ええ、今はね」
「……そこが一番嫌なんだよね。リールさん、金取らないときの方が何か考えてるからさ」
コレットは不満げに帳簿を叩き、商館の奥にいった。それから、リールが夕方までのいくつかの取引を片づけ、商館の灯りを整え終えた頃だった。入口の扉が開き、テオが再び姿を現した。腰には剣があり、手には硬貨の入った袋を持っている。
「リール、終わったぞ」
「おつかれさま。それで、素材は?」
「納めてきた。依頼も終わったぞ」
テオは袋から硬貨を出し、リールの前に置いた。
「保証金も戻った。んで、これは商会の分な」
「確かに受け取ったわ」
「しっかし、あそこのルゥラは多いぞ」
依頼を終えたと話していたときより、声が低かった。
「どの辺り?」
「聞いてた場所だけじゃねえ。素材を探して動いてる間にも何度も出た。あれだけいるとは思わなかった」
「ギルドにはもう報告したの?」
「もう言った。依頼の報告をしたときにな」
次にリールが冒険者ギルドへ寄ったとき、新しいダンジョンの依頼が並ぶ一角に、ルゥラ討伐の依頼が加わっていた。
* * *
ヴェール大聖堂の入り口に、メルドはシェナを連れて立っていた。ちょうど、二人の冒険者が、もう一人を両側から支えて中へ入っていくところだった。
二人の冒険者が、もう一人を両側から支えて入ってくる。支えられている男は片足を地面につけられず、靴の脇まで血が染みていた。
「依頼中の怪我です」
付き添っていた男が声をかけると、大聖堂の者がすぐに出てきた。
「こちらへ。歩けますか?」
「無理だ。途中からずっと肩を貸してる」
「分かりました。そのままで構いません」
三人はそのまま奥へと通されていった。
「受け入れは、早いですね」
少なくとも、運ばれてきた冒険者がここで止まっているわけではない。なら、確認するのは受け入れの後ではない。なぜ最初から、ここへ運ぶことになっているのか。
メルドは近くにいた大聖堂の者へ声をかけた。
「少し確認したいことがあります。冒険者ギルドでは、依頼中に負傷した冒険者はこちらへ運ぶと伺いました。なぜ回復先がヴェール大聖堂に指定されているのでしょう」
「申し訳ありません。運ばれてきた方の受け入れについてでしたらお答えできますが、指定の理由までは私では分かりません」
答えを濁したというより、そこから先を持っていないのか。
「では、その理由を確認できる方はいらっしゃいますか?」
「その話でしたら、私がお聞きしましょう」
奥から聞こえた声に振り返ると、一人の男がこちらに歩いてきた。
「私、エズと申します。ヴェール大聖堂で司祭を務めております」




