第32話 荷運びの続き
翌日の昼前、コレットが何軒かの武具工房を回って商館へ戻ってきた。
「リールさん、聞いてきたよ。やっぱり壊れ方で値段も日数も変わるって。テオの分を知りたいなら、実物を見てもらわないと決まらないね」
「そう。ありがとう」
コレットの報告を紙に書き留めていると、商館裏の荷下ろし場から箱を置く音が続いた。
裏には荷車が止まっている。その荷台から最後の箱を下ろしたのは、テオだった。
「今日も来たのね」
「ああ、空きがあるって聞いたからな」
剣は荷台の端に置かれていた。
「今日の仕事が終わったあと、時間ある?」
「なんだ。また荷か?」
「そっちじゃないわ。その剣、オルメイに見せたいの」
テオが荷台を見る。
「修理代なら俺も聞きに行くつもりだったけど」
「ならちょうどいいわ。剣が直ったら、次に受けたい依頼は決まってる?」
「ああ、新しいダンジョンの素材回収だ。昨日見たときはまだ残ってた」
「保証金も見た?」
「ああ、見たよ」
なら、残っているのは剣の方だ。いくらで直り、いつ戻ってくるのか。それが分からなければ、次の依頼まであといくら必要なのかも決まらない。
「仕事が終わったら、そのままオルメイのところへ行きましょう」
「俺も行くつもりだったって」
「なら話が早いわね」
テオは次の箱を取りに荷台に戻った。
* * *
その日の仕事を終えたあと、リールは剣を持ったテオとオルメイの工房へ向かった。
工房では、湊が作業台の端で道路修繕から戻ってきた道具を分け、シェナがその数を紙に残していた。
リールとテオが入ると、オルメイはテオの剣を見て眉を寄せた。
「なんだテオ、またやったのか」
「ちょっとな。思ってたよりきつくて……直せるか?」
「ここに来る奴らの言い訳は聞き飽きた。先に見せろ」
オルメイは刃を確かめ終えると、修理代と受け取れる日を書いた。
「フン、こんくれぇなら直せる。金はこんだけだ。今日預けるなら、そうだな……この日に取りに来い」
「思ってたくらいだな」
テオの声に驚いた様子はなかった。
リールは書かれた額を見た。
「これを払ったあと、次の保証金まで残るの?」
「いや、残らねえよ」
「どのくらい足りないの?」
「まだ全然だな。剣を受け取ったら、今度はそっちを貯める」
修理代を払えば、剣は戻る。
けれど、剣を受け取る日が冒険者へ戻る日にはならない。
「んだよ、俺の財布まで見る気か?」
「修理代を払ったあと、次の保証金には届かない。そこまで分かれば十分よ」
「別に隠してるわけじゃねえよ。届かねえもんは届かねえ。情けねぇけどな」
作業台の向こうで聞いていた湊が口を挟んだ。
「じゃあ、剣が戻っても、まだ荷運びするんですか?」
「ああ、保証金ができるまではな。石鹸の仕事があればまたそっちでもいいが」
「石鹸工房は人気ですからね。みんな空き待ちって言ってましたよ」
「だろうな。まぁ今は荷運びがある」
「冒険者って仕事で使う道具も、自分で用意するんですか? 仕事を出す人が貸してくれたりはしないんですか?」
テオは一度、自分の剣を見た。
「俺は借り物でダンジョンへ入る気はねえな。重さも握った感じも違うだろ」
「剣だと、そういうのもあるのか……」
「湊、おめぇ自分に合ってない武器にテメェの命預けれんのか?」
オルメイはそう言ったが、湊はすぐには返さなかった。
貸してもらえば済む、というほど簡単ではないらしい。
「預かるぞ」
「ああ。頼む」
テオは空になった鞘を腰に戻した。
「リール。明日も荷運び、空きがあったら回してくれ」
「剣を預けている間の分?」
「それもある。直ったあともだ。保証金の分ができるまではな」
「分かったわ。空きがあるときは声をかける」
テオはオルメイにもう一度受け取りの日を確認してから、工房を出ていった。
湊が道具を奥の棚へ戻しに行ったところで、シェナは作業記録を閉じ、作業記録とは別の紙にも書き足した。
* * *
翌朝、商館の荷下ろし場にテオが来た。
腰に鞘はあるが、剣はない。昨日オルメイへ預けたままだ。
「今日も空きあるか?」
「ええ、昼までに一件あるわ」
「じゃあそれでいい」
テオは今日運ぶ箱を確かめ、荷台に載せ始めた。
昨日まで剣が置かれていた場所にも、商館の荷が積まれていく。




