第30話 荷台の剣
新しく見つかったダンジョンへ向かう依頼は、冒険者ギルドの掲示板にも並んでいた。
素材の回収や荷運びの護衛、内部へ入る者に必要な物資の運搬など、内容は違っても行き先はどれも同じだった。
掲示板の前では三人組の冒険者が新しいダンジョンの依頼を読んでいたが、しばらくすると隣にあった街道護衛の紙を外して受付へ持っていった。
リールは掲示板に残っていた一枚を受付へ示した。
「この依頼、受付で内容を確認した方はいますか?」
「そうですね、何人かいますが、受注した方はいません」
受付の横では、先ほどの三人が街道護衛の手続きを進めていた。新しいダンジョンの紙は、まだ掲示板に残っている。
「新しいダンジョンへ向かう依頼だけ、受注時の保証金や必要なランクを上げていますか?」
「いいえ。どちらも依頼ごとに違いますが、行き先だけを理由に一律には上げていません」
「受付で確認した方の中には、この依頼を受けられるランクの方もいますか?」
「はい。何人かいますよ」
それなら、掲示板だけを見ても答えは出ない。
商館にはダンジョン方面へ送りたい荷があり、ギルドにも同じ行き先の仕事が残っている。それなのに、帰り先の記録では、そちらへ戻る荷車が少ない。
一体、何が止めてるのよ。
* * *
商館へ戻ったのは、昼を過ぎてからだった。
裏の荷下ろし場では、仕入れ先から届いた箱を男が荷台から下ろしていた。最後の一つを床へ置いたところで、荷台の端に置かれていた剣が見えた。
「テオ?」
呼ばれた男が振り返った。
「おう。久しぶりだな」
「工房に戻ってきたの?」
「いや、今日は荷物だけだ。運ぶ人間が足りないって言うから、一日分の仕事をもらった」
以前、石鹸工房を辞めたときにも持っていた剣だった。あのときは修理を終えたばかりで、テオはそれを腰へ戻して冒険者の仕事へ帰っていった。
なのに今日は、その剣が腰ではなく荷台にある。
「あなた、冒険者へ戻ったんじゃなかったの?」
「戻ったよ。そのあとで、また剣をやったんだ」
「怪我はないの?」
「なんだよ。心配してくれんのか? ちょっと腕をやったけど、もう治ってる」
「そう。ならよかったわ。治療代は?」
「依頼中だったから、そこはギルドが払ったよ」
テオは納品書を差し出した。リールが荷の確認を済ませても、剣だけは荷台の端に残っていた。
「剣の修理は?」
「そっちは自分持ちだ。前の依頼は失敗したから、保証金も戻ってこなかった。だから今は、こいつを直す金を稼いでる」
「新しいダンジョンの話は聞いてる?」
「聞いてる。行きてえから困ってんだよ」
リールは口を閉じた。
怪我は治っている。それなのに、剣は荷台にある。
「別に誰かに払ってくれって言ってるんじゃねえ。剣が直るまで稼ぐ。それだけだ」
「……そう」
「空きがあったら、また声かけてくれ」
「分かったわ」
箱を下ろし終えた荷車が商館を出ていくまで、テオは剣を腰へ戻さず、来たときと同じ荷台の端に載せたままだった。
* * *
オルメイの工房では、修理待ちの道具が作業台に残っていた。
オルメイが潰れた先を確かめているところへ、入口からリールの声がした。
「少しいい?」
「はい。ちょうど終わるところです」
オルメイが道具を作業台へ戻すと、金具が板に当たって乾いた音を立てた。
リールはその音が止んでから奥へ入り、作業台のそばまで来た。
「新しいダンジョンのこと、何か分かったんですか?」
「少しね。テオに会ったわ」
「テオさん?」
「荷運びをしてた。冒険者は辞めてないし、新しいダンジョンにも行きたいって」
「もしかして、また剣が壊れたんですか?」
「ええ。腕も怪我したけど、そっちはもう治ってたわ。剣の修理代を稼ぐために、今は荷運びしてるって」
前は、剣が直ったその日に工房を辞めた。仕込みの途中だったから鐘までは働いたけれど、それが終わるとそのまま冒険者に戻っていった。
今は新しいダンジョンへ行きたいのに、荷運びをしている。
「……行かないんじゃなくて、行けないんですね」
「テオはね。ほかの人まで同じかはまだ分からないわ。治療が終わったあとも、冒険者の依頼を受けていない人がいるか、明日ギルドで見てくる」




