↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線の商人  作者: カミツキ
三つの道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/84

第26話 荷車札

 翌朝、メルドとシェナが市場へ続く道を歩いていると、一台の荷車が店先で荷を下ろしていた。荷台が空くと、荷運び人は少し先の店へ移り、今度は別の荷を積み始める。


 荷台が空いたところで、シェナが男へ声をかけた。


「この荷車は、普段も仕事で使っているんですか」

「そうだ。運ぶ物はその日で変わるけど、仕事に使うのはこれだよ。荷を下ろした帰りに、別の店の荷を積むこともある」

「先輩、積み荷より荷車の方が続けて確認できます。ただ、道を通った回数までは分かりません」

「回数を数えるために毎回止めれば、荷を止めないために直した道で別の手間が増えます。通った回数は条件にしません」


 さっきまで食料を積んでいた荷車に、今度は別の店の荷が載っている。積み荷は変わっても、仕事に使う荷車は同じだ。


 昔は、遠くから買いに来る人もいたらしい。あの話でも気になったのは、買った物より、それをどう運んでいたのかだった。


 今も同じだ。運ぶ物が変わるたびに中身を確かめる必要はない。けれど、仕事に使う荷車かどうかを毎回人へ聞いていたら、確認のために荷車を止めることになる。


 一度だけ、使う者と荷車を結びつけておけばよい。次からは荷車を見れば分かる。


 * * *


 午後、朝に確認した荷車がリール商会へ荷を届けた。荷を下ろした男がまだ店先にいるところで、メルドは店先の荷車を示した。


「積み荷ではなく、仕事に使う荷車を登録する形で考えています」


 リールも荷車へ目を向けた。


「今度は香油ではなく、荷車なんですね」

「ええ。香油を商品として分ける方法はやめます。その荷車について道路維持費を納めてもらいます」

「要するに、今度は俺たちが払うってことか」

「はい。道路維持の負担そのものは残ります。ただ、食料を積んだ日と香油を積んだ日で扱いを変えることはしません」

「じゃあ、俺がその分を運び賃に乗せたら?」

「王国側で運び賃を決めるつもりはありません」

「食料を運ぶ日も同じなら、運び賃が上がった分は仕入れにも入りますよ」


 負担の置き場所を変えれば、次に動くのは運び賃か。その先まで追わなければ、香油のときと同じになる。


「そこも見ます。運び賃が変わって仕入れ側まで動くなら、荷車だけ見て終わりにはしません」

「同じ荷車なら、積む物が変わっても道路維持費の扱いは変わらない。そこは確定でいいですか」

「はい。積み荷では変えません」

「それなら、香油に付いている道路維持費は?」

「荷車の登録を始める日で終了します。両方から取ることはしません」


 リールはコレットへ、開始日以降は香油の商品代だけを帳簿へ残すよう伝えた。


「登録は、そちらで全部やるんですか」

「いいえ。その実務について、これから商業ギルドへ相談します」


 一台なら、その場で控えられる。けれど、商売に使う荷車を継続して扱うなら、道路を見回りながらでは回らない。受付が要る。


「始める日と場所は、決まり次第知らせます」


 * * *


 商業ギルドの受付でメルドの話を最後まで聞いたチコは、置かれた紙をもう一度見た。


 荷車の登録、札の発行、道路維持費の受付。


 紙に書けば三つで済む。でも、受付の仕事が三つで済むわけがない。


 これ、増えるの三つどころじゃなくない?


「え、待って。登録変わったら直すのもこっちで、札なくした人が来たら受付もこっちっしょ?」

「その扱いも必要になります」

「で、それ全部増やして、やることもそっちで決めんの?」


 チコは隣でノノが見ていた紙も自分の方へ寄せた。


「運送課を新設して、そこで一括して扱う案です」


 運送課。


 名前まで付いている。これでは、もう始めるだけの紙に見える。


「ありえなくね? 仕事増やすのは必要なら分かるよ。でも受付すんのアタシらじゃん。誰が来て、何を見せてもらって、札なくしたらどうすんのかまで、そっちで全部決めて持ってくるのは違くない?」

「登録の対象と、道路維持費の条件はこちらで決めます。ただ、ギルド内の受付手順まで決めるつもりはありません。そこは実際に扱う側の意見を聞きます」


 そこまで決めて持ってきたわけじゃないらしい。


 荷車の条件と取る金額は向こう。誰をどこへ並ばせて、何を見せてもらうかはこっち。


 だったら話は別。


「なら、最初からそう言ってよ。あと運送課は却下」

「名称もですか?」


 名称か。たしかにこれは変えたい。『運送課』っしょ? 口にした時点で固い。

 ないない、ありえない。


「うん、そこから。黒猫屋で」


 ノノは運送課と書かれた部分に印を付けた。


「名称を変えるなら、通知と登録用紙と荷車札の表記は揃えます。あと、登録内容が変わったときと札をなくしたときの手順も、受付開始前に必要です」

「ノノちゃん、そこ大事。でも名前も大事だから」

「名称を軽視しているわけではありません。黒猫屋で確定するなら、その名称で処理します」

「ほら、決まりじゃん」

「名称はギルド側へ任せます。黒猫屋で進めてください」


 チコは運送課と書かれた紙をメルドへ返した。


「仕事の中身はこっちでも詰める。今の受付にそのまま全部足して回るかは、人手見てから。必要ならちゃんと言うから」

「分かりました。登録条件はこちらから文書で出します。受付の手順と必要な人手は、ギルド側で確認してください」


 ノノが返された紙を受け取った。


「では、条件を受け取ってから手順を決めます。開始日はそのあとでお願いします」

「分かりました。登録条件を先に出します」

「黒猫屋。運送課より絶対こっちの方が覚えやすいって」


 * * *


 黒猫屋の受付が始まった日、札を付けた荷車がオルメイの工房へ入ってきた。荷を下ろす横で、湊が車体の札を覗き込む。


「シェナさん、これ何の札ですか?」

「黒猫屋で登録した荷車に付ける札です」

「黒猫屋?」

「商業ギルドで決まった名前です」

「へえ。こっちでも猫ってやっぱり人気なんですね」

「名前を決めたのはチコさんですけど」

「俺のいたところでも人気でしたよ。猫の絵がついた物とか、いっぱい売ってました」


 まただ。聞いていないのに増えていく。


「寝てるだけの動画とかでも、ずっと見てられるんですよ。あ、動画っていうのは……」


 シェナは記録用の紙を出さなかった。


 荷を下ろしたあとも、黒猫屋の札は同じ荷車に付いたままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。