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境界線の商人  作者: カミツキ
三つの道

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第24話 注文書の先

 翌日、香油の仕入れ先から来た商人は、昨日リール商会から届いた注文書を取引台へ置いた。


「注文書を受け取りました。念のため確認したいのですが、香油の数はこれで合っていますか」


 リールは注文書を受け取った。香油の欄は、前回より少ない。昨日、コレットに直させた数のままだ。


「ええ。書き間違いではありません」


「道路維持費が始まってから、香油の売れる数が減っています。前の仕入れ分もまだ残っていますので、今回はこの数でお願いします」

「前と同じだけ入れておくのは難しいですか。こちらも、そのつもりで用意していたものがありますので」


 向こうは、前回と同じ数を基準にもう動いていたらしい。だからといって、その分まで引き取れば、今度は商館の棚に残る。


「売れる数が戻れば、その時点で見直します。ただ、今回はこの数でお願いします」

「分かりました。では、この数で納めます。こちらも次に入れる分は減らしておきます」


 商人が注文書を持って帰ったあとも、香油の棚には前回仕入れた分が残っていた。


 * * *


 午後、シェナは香油をリール商会へ卸している商人のところで、昨日届いた注文書と、今回用意されている品を照らし合わせていた。


「リールさんから届いた注文は、この数で全部ですね」

「そうです。今朝も確認に行きましたが、間違いではありませんでした」


 シェナがその返答を書き留めたところで、外から荷車が一台入ってきた。積まれていたのは、香油を作るための原料だった。


 荷運びをしてきた男が、荷を下ろす前に商人へ声をかけた。


「いつもの分、持ってきたぞ。ここでいいか?」

「悪い、今日は全部は受け取れない。前より少なくしてくれ」

「少なく? 前と同じだけ持ってきたんだが」

「こっちで作る香油を減らすことになったんだ。今までと同じだけ買っても使い切れない」


 下ろされたのは荷の一部だけで、残りは荷台に積まれたままだった。


「次もこのくらいか?」

「まだ分からない。香油の注文が戻れば増やすが、今はこれ以上買えない」

「なら、次は積む前に聞く。持って帰るのは二度手間だからな」

「すまん、そうしてくれ」


 受け取った原料の分だけ代金が支払われた。


 道路維持費が付くのは、客へ売る香油だけだ。荷台に残った原料には付いていない。


 それでも、この男が受け取る金は減った。


 シェナは香油商人が残した買い取りの記録と、実際に受け取った量を確かめた。


「今回、受け取らなかった分も記録に残せますか」

「ああ。前なら買っていた分まで分けて書けばいいか?」

「はい。それもお願いします」

「ただ、俺が買う量を減らしたのは、道の金を払わせたいからじゃないぞ。香油が前ほど出なくなったからだ」


 そこは分けないといけない。道路維持費を払ったのは、この男ではない。


「はい。その経緯も分けて残します」


 シェナはリール商会の注文書と買い取り記録を手元へ寄せた。


 外では、男の荷車が、売るはずだった原料を載せたまま出ていった。


 * * *


 戻ってきたシェナは、リール商会の注文書と香油商人の買い取り記録をメルドの前に並べた。


「原料を持ち込んだ方は、道路維持費の対象ですか」

「いいえ。持ち込んだのは香油ではなく原料です。道路維持費は納めていません。それでも、以前より買い取られる量が減り、受け取る金も減っています」

「販売店だけでは足りませんね」


 荷台に残っていた原料が浮かんだ。店の帳簿だけを見ていたら、あの分はどこにも出てこない。


「はい。仕入れ先まで見て、初めて分かりました」

「では、次は売る方も見てください」

「売る方もですか」

「ええ。販売店の外まで変わったなら、その先も見ます。次の対象を決めるのは、それからです」

「分かりました。もう一つあります」


 シェナは、湊との会話を残した別紙を出した。


『うんこ、猫、アニメ。うんこには博物館があり、昔は遠くから買いに来る人もいたらしい』


 紙を追っていたメルドの指が止まった。


「買ったものを、どうやって運んでいたかは聞きましたか」

「そこまでは聞いていません」

「わかりました。買うために遠くから人が動いていたことは、そのまま残してください。それと、『アニメ』という言葉は?」

「私も知りません」

アニマ()に近いですね」


 アニマ。


 そう言われれば、音は近い。それなら昨日どうしても理解できなかった「うんこが人気」という話も、うんこそのもののことではないのかもしれない。


 だとしても、無理なものには変わらない。


「では、うんこそのものが人気だったわけではないのでしょうか」

「その可能性はあります。『アニメ』がアニマを宿した品なら、『うんこ』もそのアニマの姿や性質を指していたのかもしれません」

「この推測も書き添えますか?」

「いいえ。湊さんが言った言葉は、そのまま残してください。こちらの推測は別にしておきましょう」


 シェナは「アニメ」の横を空けたまま、紙を閉じた。


 机に残った買い取り記録の最後には、受け取らずに返した分が別に記されていた。

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