第23話 減った注文
道路維持費を始めて数日が経った午後、リールの前で、客が石鹸と香油を一つずつ取引台へ置いた。
コレットが二つの商品代を伝え、香油に加わる道路維持費まで合わせたところで、客は持ってきた硬貨を数えた。
「では、今日は石鹸だけにします。持ってきた分だと、両方は足りないので」
「はぁい。じゃあ今日は、石鹸だけお包みしますねぇ」
香油は棚へ戻され、コレットは注文からその一つを外した。
これだけなら、わざわざ売れ方を見直すほどのことではない。香油を毎回買う客ばかりではなく、家に残っているなら次へ回すこともある。
ただ、道路維持費が始まってから使っている注文帳には、同じように香油を外した取引がほかにもあった。
リールは今日の注文を記したところから前へ戻り、道路維持費を始める前までを見比べた。以前は香油も一緒に買っていた客が、今は別の商品だけを持ち帰る取引が増えている。
その売れ方なら、棚の残り方も変わっているはずだった。
香油を置いている棚には、前回仕入れた分がまだ残っていた。道路維持費が始まる前と同じ数を次も入れれば、今ある分を売り切る前に新しい荷が届く。
取引台の端には、次の仕入れ先へ出す注文書がある。香油の欄は、前回と同じ数のままだ。
客が買う数が減れば、こちらも買う数を減らす。
当たり前だ。
「次の香油は減らして」
コレットが注文書を引き寄せた。
「前と同じ数じゃ多いわけ?」
「ええ。今の売れ方なら残るわ。棚と注文帳を見て、次に必要な量に減らしてちょうだい」
「分かったよ。石鹸の方は?」
「そっちは変えなくていいわ」
コレットは石鹸の欄を残したまま香油の数だけを書き直し、注文書を取引台の端へ置いた。
* * *
その頃、シェナと湊はオルメイの工房で、選び終えた石を作業場の脇へ運んでいた。工房の前を、酒樽を積んだ荷車が通っていった。
「もう謝肉祭の準備なんですね」
「謝肉祭?」
「湊さんの故郷でも、こういうお祭りは人気だったんですか?」
「聞いたことないです。祭りはありましたけど。人気だったのは……うんことか?」
シェナの手が止まった。
何でそこで、うんこ。
いや、待って。
もしかして今の質問、故郷のことを聞き出そうとしているように聞こえた? それで、わざと変な答えを返したのだろうか。
人間には、どうしたって無理なものがある。糞便なんて、その筆頭じゃないの? だから、国が魔法で消しているんじゃない。
そもそも、廃棄物が人気だなんて話は聞いたことがない。
シェナは湊の顔を見る。……普通だ。
「なんか、うんこの博物館みたいなのもありましたし。昔は遠くから買いに来る人もいたらしいですよ」
本当なの?
遠くから買いに来るなら、値段まで付いて相場があったのだろうか。そこは気になったが、これ以上聞けば今度こそ探っているみたいになる。
「あと、猫も人気でしたよ」
「猫は、分かります」
「アニメとかも」
聞いていない、それなのに増えていく。
本当に、これを監察局へ持って帰るの?
シェナは作業記録とは別の紙へ、湊が挙げた言葉をそのまま書き留めた。
* * *
午後、リールが商館でメルドとシェナを迎えると、コレットは道路維持費を分けている袋と帳簿を取引台へ出した。
シェナは売れた香油の記録と袋に残っている金を照らし合わせ、注文帳をめくった。
「道路維持費の帳簿は合っています。ただ、始める前と比べると香油の販売数は減っています」
リールは取引台の端に置いていた注文書を二人の前へ出した。
「だから、次の仕入れも減らしました」
メルドは書き直された香油の欄へ目を落とした
「道路維持費そのものは、決めたとおり集まっています」
集まっている。
それはそうだ。香油を買った客からは、決めた分だけ取れている。
でも、その横で香油そのものが棚に残り始めている。
「集まってはいます。でも、こちらが買う数はもう変わっています」
「そこまで含めて確認します」
「その間も、香油への道路維持費は続けるのですか?」
「続けます。香油をこのまま対象にするか、別の商品まで広げるかは、もう少し記録を見てから判断します」
減ったことは、止める理由にはならないらしい。
だったら、こちらも仕入れを元へ戻す理由はない。
「分かりました。なら、集まった額だけではなく、販売数も同じ期間で見てください。こちらはそれに合わせて仕入れを変えます」
「そうします。シェナ、次からも両方を確認してください」
「はい」
リールは注文書をコレットへ戻した。
「これは今日出して。香油は書き直した数のままでいいわ」
「あぁ、分かった。すぐ届けてもらう」
コレットは注文書を折り、ほかの取引先へ出す書類と一緒に商館の者へ渡した。




