第19話 材料費も?
リールはオルメイへ渡すため、昨日の地図から一つの区間を別紙へ写していた。その紙をコレットへ渡そうとしたところで、メルドとシェナが入ってきた。
「昨日の写しなら、もう一枚必要ですか?」
「いいえ。昨日お伝えした内容を変えに来ました」
メルドは机に残っている地図より先に、リールが書きかけていた紙を見る。
「もう次の場所をオルメイさんへ見てもらうところでしたか」
「ええ。昨日お見せした候補です。まだ工事を頼む段階ではありません」
「間に合ってよかったです。工事の前に知らせていただくだけでは、結局、どこを先に直すか決めるのはリールさんのままです」
メルドは昨日持ち帰った地図の写しを机へ置いた。湊が引いた線と同じ道が写されている。
「昨日の候補そのものを問題にしているわけではありません。ただ、その次も商会の記録から決めるなら、商会の前を通らない荷は最初から判断に入りません」
「うちで見えた荷しか記録していないことは、昨日もお伝えしました」
「ええ。だから、記録を見せていただくだけでは足りないと判断しました」
商会の前へ来ない荷まで追いかければ、そのためだけに人を雇うことになる。道路を直す前に、別の費用が増える。
「それで、今後はどうするのですか」
「公共の道については、どこを直すか、どの区間を先にするかをこちらで管理します。商会から候補を出していただくことは構いませんが、順番はそこで決まりません」
「昨日は、計画と記録を確認するだけでしたよね」
「ええ。ですから、変えに来ました」
「商会前の区間も含めてですか?」
「含めます。すでに直した道を使えなくする話ではありません。誰が通れるかという条件も、昨日確認した状態から変えません」
リールは地図の横に置いた紙へ目を戻した。次の場所を自分で決められないなら、この紙をオルメイへ渡す理由もなくなる。
「昨日お話しした区間も、こちらでは決められないということですね」
「候補としては受け取ります。必要性はこちらでも確認します」
「昨日の店には、まだ工事を約束していません。作れるかどうかを見てから返事をするところでした」
「それなら、こちらへ切り替えてください。店から出ている要望そのものは、候補として確認します」
シェナは、昨日の店と倉庫から出ていた要望を別の紙へ書き移した。
「商会からの依頼ではなく、道を使う側から出た要望として残します」
「では、費用を出すと言っていた店にも、商会から工事を約束することはできませんね」
シェナが答えた。
「お願いします。費用を出せる店から順に公共の道が直る形にもしたくありません」
湊が口を挟んだ。
「でも、その店は自分のところまで直してほしくて、お金を出すって言ってたんですよね」
「ええ。ただ、そのお金だけで順番を決めないという話よ」
リールが返すと、メルドも続けた。
「店からの要望を無視するわけではありません。ですが、ほかに先に直すべき場所があれば、そちらを優先します」
「管理を移すことには異議ありません。では、次に路面が割れた場合の修繕も、そちらで?」
「そのための管理です」
シェナがメルドの返答を受け、続けた。
「整備する場所だけをこちらで決めて、壊れたあとの対応を商会へ戻すと、管理が分かれてしまいます。職人を呼ぶか、いつ直すかも含めてこちらで扱います」
「材料費も、そちらで負担されるのですか?」
「当然です」
整備する場所だけではない。壊れれば直し、そのたびに職人を呼び、材料も買う。それを今後ずっと、そちらで持つということになる。
そこまで承知で言っているのか。それとも、まだ気づいていないのか。
「そういえば、俺のいたところでは、道を通るたびに誰かへ払うことはなかったです」
「……そうですか」
メルドが答える。
「では、承知しました。昨日の区間をオルメイに見てもらう話は止めます。次にどこを直すか決まったら、そちらから知らせてください」
「昨日の店と倉庫には、商会から事情を伝えます。こちらへ相談に来た相手を、何も知らないまま待たせるわけにはいきません」
「お願いします」
「商会で集めている荷の記録は、今後も見せていただけますか」
「記録そのものは続けます。商売にも使うものなので、必要な分は写しを取ってください」
リールはオルメイへ渡すはずだった紙を脇へよけた。シェナは昨日の地図の写しへ、次の候補だった区間を書き加えた。
「これで、昨日来た店の人にも、リールさんからは約束できなくなるんですよね」
メルドが答える。
「ええ。要望は候補として残しますが、ほかの道と比べて順番を決めます」
「リールさんには決めてもらえない。こっちに頼んでも、順番を待つんですね」
「公共の道です。一人の希望や、出せる金額だけで先にはできません」
やっぱり。
さっきの返事は聞き流したものではなかった。
メルドが拾ったのは、『通るたびには払わない』という部分だ。それでも道は維持されていた。その先で何を考えているのかまでは、まだ読めない。
「それは分かります。でも、その人が自分で早くする方法もないんですか」
机の端には、昨日の店から聞いた場所を書いた紙が残っていた。管理を渡したところで、紙に書かれた泥道まで直るわけではない。
湊が尋ねる。
「じゃあ、どっちにも頼まなくていい方法ってないんですか」




