↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線の商人  作者: カミツキ
三つの道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/82

第16話 商会前の車輪跡

 商館の前で、荷車の後輪が泥の中へ半分ほど沈んでいた。


 朝から降り続いた雨で道には水が浮き、馬が前へ進もうとするたび、後輪の周りから黒い泥が押し出される。その後ろには別の荷車も止まっており、先の一台が動かなければ商館の入口まで進めない。


「ちくしょう、ここまでは普通に来られたんだ。あと少しってところで、急に沈みやがった」


 荷運びの男から受け取った納品書の日付は今日で、予定の荷は目の前まで来ていた。


「先に荷を降ろします。商館から人を出しますので、軽くしてから車輪を上げてください。ここで余計にかかった時間は、今日の運び賃に加えてください」

「いいのか?」

「ええ、こちらへ届ける途中で増えた時間です。追加分は商会で負担します」


 コレットも商館から出てきて、荷台の箱を抱える。店の者たちで荷を減らすと、軽くなった荷車はようやく泥を抜けた。深く削れた車輪跡へ、濁った水が流れ込んでいく。


 後ろで待っていた荷車は手前に止め、店の者がそこまで荷を取りに行った。その間、取引台では石鹸を受け取りに来た客が待っていた。



 今日だけなら払える。でも、次の雨も同じなら?



 外へ出ると、朝に沈んだ後輪の跡だけでなく、商館の入口へ向かって何本もの車輪跡が重なっていた。浅かった跡へ次の車輪が入り、そこに雨水が残って、さらに深く削られていた。


 * * *


 リールが車輪跡を見に外へ出たあと、コレットは取引台に戻った。荷車の対応で待たせていた客がまだ残っていた。


「お待たせしちゃってごめんなさいねぇ。石鹸、二つで合ってます?」

「二つで合ってるよ。大変だったね。荷車、動いたの?」

「なんとかぁ。あとちょっとだったのに、ちょうど店の前で沈んじゃったんですよぉ」


 代金を受け取り、注文帳へ数を書き入れる。これでやっと一人帰せる。


「ありがとうございましたぁ。次も同じ数なら、前の日までに言ってくれたら用意しておきますねぇ」

「そうするよ。またね、コレットちゃん」

「はぁい。またお願いしまぁす」


 扉が閉まり、コレットは取引台に残った納品書を引き寄せる。


「……ッチ、店の前まで来てんのに荷物が入らないって、何なんだよまったく。こっちは仕事止められてんだけど」


 * * *


 午後になって雨が弱まると、リールは工房から来た湊を商館の前へ連れ出した。朝に後輪が沈んだ跡には、まだ濁った水が残っている。


「湊。あなたのいた場所でも、雨が降るたびにこうなった?」

「いえ。街の道で、車輪が泥に沈んで動けなくなることはほとんどなかったです」

「道が固かったから?」

「それもあると思います。でも、水もこんなふうには残っていませんでした。雨が降っても、道の端へ流れていって……そういえば、俺、固い道のことしか考えてませんでした」

「違うの?」

「俺がいたところでは、雨の水が道からなくなるのが普通だったんです。だから、どうやってなくしていたのかまで考えたことがなくて」

「ふーん、作り方は?」

「分かりません。工事しているところを見たことはありますけど、俺が作ったわけじゃないので」

「なら、それでいいわ」

「いいんですか?」

「どうしたいかは分かったでしょう。どう作るかは、作れる人に聞けばいいのよ」


 リールはコレットに、オルメイを呼ぶよう頼んだ。


「道を固めるんじゃなくて、水が残らないようにする……」

「その二つが同じなのかどうかも、まだ分からないわ。先にオルメイへ聞きましょう」


 * * *


 夕方、道具袋を持ってきたオルメイは、商館の前で立ち止まるなり、泥のついたリールの靴と車輪跡を見比べた。


「なんだ、今度は道か。お前のところはセッケン屋じゃなかったのか」

「荷物が店に入らないの。今日はそちらを直したいわ」

「呼ばれるたび、仕事がでかくなってる気がするな」


 そう言いながら、小さな鍬(くわ)を取り出した。表面の泥をどけても、その下の土まで水を含んでおり、押すとすぐに形が崩れる。


「道を固めれば、沈まなくなりますか」

「湊、おめぇさっき何て言った」

「え?」

「雨の水が残ってなかったんだろ。なら、先にそっちだ」


 オルメイは車輪跡から道の端へ浅く土を削った。溜まっていた水が細い溝へ流れ始めると、その周りの土まで掘り返し、鍛冶場の水場で使っているやり方を説明した。下へ水を逃がし、その上を荷車の重さに耐えられるよう作り直す。何を敷くかは、一度作って車輪を通してみなければ分からないという。


「すみません。俺、道路の作り方まで分からなくて」

「ハッ、知ってたら俺を呼ぶ必要ねえだろ」

「いや、そうなんですけど」

「雨のあとに水が残ってなかった。それを知ってたんだろ」

「はい」

「じゃあ十分だ。作る方までお前がやったら、俺の仕事がなくなっちまうだろ」


 リールがオルメイに聞いた。


「それで、どこまでなら試せる?」

「朝に沈んだところから入口までだな。まずそこだけ作る。荷を積んだ荷車を通して、そっから先を考える」

「分かったわ。湊、これで沈まなくなったら、どこまで広げたい?」

「全部じゃなくていいです。でも、荷車がよく通るところには広げたいです」

「なら、その先は一台通してから考えましょう。オルメイ、人と材料はこちらで用意するわ。まず商会の前だけ直しましょう」

「なるほどな。よし、それなら明日からやれる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。