第11話 空きはありません
テオを見送ったあとも、工房の入口には昨日名前を聞いた者たちが並んでいた。空いている仕事は一人分しかない。
リールが順に話を聞くあいだ、湊の手元には求職票が重なっていった。
水仕事なら、洗濯場の女が一番慣れている。けれど、二つ目の鐘までには帰らなければならない。家具工房の男の腕も、今の工房では使いどころがない。
朝から夕方まで残れて、寝床も必要なのは荷運び場の男だった。
リールは男へ契約書を差し出す。
洗濯場の女が言った。
「水仕事なら、私の方が慣れています」
「ええ。水仕事なら任せられるわ。ただ、今は夕方まで残れる人が必要なの」
「なら、昼までの仕事だったら?」
「そうね。それなら話は別よ」
リールは入口に『空きはありません』と掲げる。
家具工房にいた男が尋ねた。
「また誰か辞めたら、募集するんですか」
「募集するかどうかは、仕事の量を見て決めます」
「じゃあ、今日は帰るしかないか」
家具工房の男が入口へ向かったところへ、木札の箱を抱えたオルメイが来た。
「オルメイさん、この人、家具工房で木を切っていたそうです」
湊が男を示すと、オルメイは箱を作業台へ置いた。
「同じ大きさに切れるのか」
「見本があれば」
「口だけじゃ分からんな。一度切らせりゃ腕は見られるが、そのために人を探して回る暇がねえ」
その後ろから、木札の発行記録を受け取りに来たメルドとシェナが工房へ入ってきた。
「仕事を探している人と、人を探している店が、同じ場所で分かればいいんじゃないですか。店を一軒ずつ回らなくても――」
湊が言い切る前に、メルドが口を挟んだ。
「紹介するなら、商業ギルドを通してください」
「えっと、今のは俺が言ったんですけど」
「商会で扱うなら同じです」
リールの手元には、採用しなかった者たちの求職票が残っていた。
「条件だけ集めて、商業ギルドへ渡すのは?」
「それなら構いません。紹介先を決めて、紹介状を出すのは商業ギルドです」
「では、このまま提出します」
「契約は店と本人が直接結ぶこと。それから、紹介料は取らないでください」
「分かりました」
オルメイは二人のやり取りを待たず、家具工房にいた男へ試し切り用の木片を渡した。
「今日じゃ駄目なのか」
「さっき聞いただろ。紹介状が先だ」
湊がリールへ尋ねた。
「紹介料も取らないのに、ここで紙を集めるんですか」
「湊、私がやることは全部お金を取ると思ってない?」
「……リールさんなので」
「失礼ね」
「仕事の条件と、働ける条件が同じ場所にあれば、探し回る手間が減るでしょう」
「でも、リールさんには一銭も入らない」
「今はね」
男は試し切り用の木片を抱えて工房を出ていった。リールも、手元に残った求職票を商館へ持ち帰った。
* * *
その日の午後、湊がオルメイとガランから求人票を持ち帰った。
オルメイの条件なら、家具工房の男が合う。ガランの仕事は夕方までで、洗濯場の女には遅い。工房では合わなかった人が、別の店なら合う。
リールは求人票と求職票を商業ギルドへ送る。
翌朝、商業ギルドから届いた紹介状には、家具工房の男の名前があった。洗濯場の女には、まだ時間の合う仕事がない。リールは求職票を手元へ残した。
家具工房の男が、試し切り用の木片を抱えて紹介状を受け取りに来た。
「オルメイさんのところへ持っていけばいいんだな」
「ええ」
男は紹介状を受け取ると、木片を抱えたまま商館を出ていった。
夕方、戻ってきた紹介状には、明日も同じ時刻に来るよう書き足されていた。リールは男の求職票を束から抜く。
「オルメイさんのところへ持っていけばいいんだな」
「ええ」
男は紹介状を木片と一緒に抱え、商館を出ていった。
翌朝、染物屋が午前中だけ水を運べる者を求める求人票を持ってきたが、賃金欄だけが空いていた。
「ここ、金額を書いてから持ってきてください」
「ここで人を選んでもらえるんじゃないのか」
リールは商業ギルドの印が押された紹介状を示す。
「選ぶのは商業ギルドです。条件がそろえば、こちらからまとめて届けます」
「自分で持っていっても?」
「もちろんです。その方が早ければ、そうしてください」
染物屋は求人票を持ち帰ったが、昼前には賃金を書き足して戻ってきた。
* * *
数日後、メルドとシェナが商館へ来ると、取引台には商業ギルドから戻った紹介状が積まれ、その前で荷運びの男が順番を待っていた。
シェナが男に尋ねた。
「紹介状を受け取る場所は、商業ギルドにしなかったのですか」
男は腰に下げた仕事札を指で持ち上げた。
「夕方の鐘までは荷場なんです。商業ギルドじゃ間に合わないけど、ここなら帰りに寄れるんで」
メルドがリールへ尋ねた。
「紹介状の受取先は、商会で決めているのですか」
「本人が選んでいます」
話しているあいだにも、次の店主が求人票を取引台へ置いた。
「明日の午前は、求人の受付から紹介状の受け渡しまで、すべて商業ギルドで行います。商館は関与しないでください」
「承知しました」
リールは受付帳を閉じる。
紹介状には商業ギルドの印しかなかった。それでも、紹介状を待つ者は三つ葉の刻まれた取引台から離れなかった。




