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MISSION3(中):他の人に見られたくないんです……♡

 

 

「えっと、Lさんがルイスさんで、Cさんがコンラッドさん……? で、いいんですよね?」

 

「"さん"は要らないんだよなぁ」

 

「そうそう。僕ら、君たちの偽装恋人のふりした護衛騎士の役なんだから、ちゃんと呼び捨てにしてくれないとおかしいでしょ?」

 

 お調子者で口の悪いのLさんが、わたしの仮パートナーの『切ない片想い騎士』の役で……!?

 いつもにこにこ穏やかだけど何考えてるのか分かんないCさんが、忠義の枠をはみ出してるのに気付いていない『お嬢様至上主義の護衛騎士』という、F様の臨時パートナー。

 

 ややこしい。

 ややこしすぎるよ今回のミッション!

 

「ちょぉっと待ってくださいね、いまイメトレするので!」

 

「……お前、通達から今日まで何をしてたのよ」

 

 呆れ切ったF様に、告げられるものだろうか?

 この期間にわたしがしていたことが、ただただ別チームの上司を壁にしての限界オタク語りだけだったことを……。

 

「それはですねぇ……。ベータさんにきいてください♡」

 

「はあ……!?」

 

 丸投げすると、F様は心底『意味がわからない』という顔で眉を寄せた。

 話を逸らしついでに、イメトレを手伝ってもらえたら一石五鳥くらいになるじゃないかと思いついたので、切り出してみることにした。

 

「うーん……むずかしいなぁ。Fさまも、フラウさまやってくださいよお……」

 

「どうしてわたくしが準備不足の愚図のために前倒しで演技しなきゃならないのよ!」

 

 予想通りに突っぱねられたけど、ここで思わぬ援護射撃が入った。

 

「まあまあ、F。落ち着いて」

 

「そうだよ。オレら全員を助けると思ってさ?」

 

 CさんとLさんが、上手い具合にF様を宥めながら自尊心を刺激して――

 

「…………わたくし、生憎と人助けなんかに興味ないのよね……。まあいいわ。わたくしの仕事にケチがつくだなんて有り得てはいけないもの」

 

 あくまでもツンの姿勢は崩さずに、自分のプライドのためという理由で時間外の特別公演に乗ってくれるF様が好きすぎて脳がとろける。

 

「ふえ……ツンデレ完璧主義お嬢様……すてきしゅぎる……♡」

 

「あーあー。また飛んじゃって……」

 

 Lさんの呆れ声が聞こえるけど、推しの供給にバグらないオタクなんているわけがないんだから、仕方ないのですよ。

 

「ミリアム。今夜は楽しみね? わたくしたち、やっと全てを捨てて二人きりになれるのよ……」

 

「っ、フラウさま……♡ 本当にわたしと逃げて下さるんですか……?」

 

 流れなんてお構いなしに、やると決めたら迷わないF様の即興演技に、わたしは全力でミリアムとして言葉を返す。

 やっぱり頭で考えるよりも、"フラウ様"を前にすれば、自然と役に入り込める気がする。

 

「フフッ……! 僕たちも乗っておく?」

 

「いいね。もうこのまま流れで会場入りしちゃってもいいんじゃねえの? 《アルファ、どう?》」

 

《よっしゃ行ってこい! なるようになんだろ》

 

 いつの間にかこのまま現場入りする流れになっていたけど、予定よりも数十分早いくらいだから、まあ誤差の範疇なのかな。

 

 

「お手をどうぞ、ミリアムお嬢様。今宵の『フローライトの夜会』、エスコート役を賜り光栄です」

 

「ルイス……ありがとう」

 

 うん、普通に呼び捨ても出来るし、お嬢様として騎士には敬語も外せる。

 やればできる子(YDK)とは言わないけど、わたしって本番に強いタイプなのかも。

 それかF様がらみの時だけ本領を発揮する愛のパワー、とか?

 

「さぁ、フラウ様も。会場までは……どうか私の手に守られていてください……」

 

「ええ。最後のエスコート……よろしく頼むわね、コンラッド」

 

 羽でも生えていそうなほどの軽やかさでふわりと手を取るフラウ様は、しっかりと儚げな雰囲気をまとっていて。

 なんでも完璧にこなせないと気が済まないF様の矜持に震えるほど感動する、けど……。

 

(やっば……! LCコンビもわりと色仕掛け任務やるって聞いてたけど、タラシ演技上手くない!?)

 

 普段はおちゃらけているようにしか見えなかった先輩たちも、本当にオールマイティな実力者なんだと改めて実感したわたしだった。

 

 

 

 あらゆる角度からの供給過多に脳がバグりそうになりながら、すでに浮ついた足取りで怪しげな宴の場に潜り込む。

 

 フローライトの夜会について、あらためて説明されたことを思い返してみる。


 『招待制の秘密クラブ』みたいなもので、よこしまな気持ちを抱えた貴族たちの裏の遊び場……ねぇ。

 

(よこしまって、不倫目的とか色んな詐欺とか、こないだのバイヤーみたいなのもいるっぽいんだよね……。うげぇ……人攫いとか潰すしかないけど、こんなとこに来るほうも大概腐ってるじゃんね!)

 

 昔は貴族のタウンハウスだったお屋敷で、主催者も不明のまま定期的に開催される半匿名の参加者が集う、怪しげな集会……。

 聞いてるだけならちょっとワクワクするけど、今のわたしはそういう悪の芽を摘み取るのがお仕事なわけでして。

 

 遠慮なく正義の味方ぶって悪党の収穫をしていきましょう!

 

 

 誰が仕入れてきたのかは忘れたけど、正規の紹介状があったから会場入りにはなんの問題もなかったけれど。

 四人も連れ立っていることと、F様とわたしが双子コーデのように衣装を揃えていることで、思惑通りに好奇の視線が集まっているのが分かる。

 

 ちなみにわたしのドレスは金糸で百合の刺繍が入ったノースリーブ型で、F様のものよりは露出度が高いけど、どう見てもF様のほうが断然セクシーだった。

 

《めっちゃ見られてますねぇ〜》

 

 大人しくエスコートを受けながら、表面上は穏やかに微笑み合って、影の通信でやり取りをする。

 今はまだ現場組だけで繋いでいるけど、変更や通達があればチームに関係なく誰からでも連絡が入るかもしれない状況に、なんとなくそわそわしていた。

 

《まずは中央に出て、軽食を選んでいるふりでもしましょう》

 

 F様がそう告げると、すぐにCさんが動いた。

 

「お嬢様、今朝から食事を抜いておられたでしょう。このあと……大事な時に倒れてしまわれないように、軽食だけでも召し上がられませんか……?」

 

「そう、ね……。ミリアムの顔を見れて、やっとなにか喉を通りそうだわ……」

 

 あまりにも湿度の高い主従の距離感に、カモフラージュだと分かっていてもドキドキしてしまう。

 四人でオードブルやデザートが並べられたテーブルのエリアに移動しながら、色んなところから聞き耳を立てているひとたちのために、わたしたちはとっておきの『ややこしいストーリー』を演じなきゃいけなかった。

 

「フラウさま……わ、わたしも。昨日からずっと緊張して……」

 

《間近で見ると本当にすごいな! 笑いそうなんだけど……》

 

《堪えなさい。遊びじゃないのよ》

 

 Lさんが甘い微笑のままでそんなことを言うと、即座にF様の冷たいお声が飛んでくる。

 いつも通りといえばそうなんだけど、任務中にF様にツッコまれるのはわたしだけのはずだったのにと、モヤモヤした気持ちが湧いてきてしまった。

 

《あの、Lさん。Fさまに叱られる役、横取りするのやめてもらえませんか……?》

 

 至って真面目に伝えると、Lさんは「んっ……!」と拳を口元に当てて、咳き込むようなそぶりで笑いを堪えていた。

 

「コンラッド」

 

 F様にいたっては、完全にスルーでCさんに目線で指示を出していた。

 お嬢様に恋する護衛騎士になりきっているCさんは、いくつかの軽食を手早くお皿に盛りつけると、全てをごく少量ずつ口に運んでから新しいフォークを添えてF様の方へと差し出した。

 

「はい。…………大丈夫です」

《うーん、本当に何も入ってないや。意外だねぇ》

 

 本当は全員が影として毒や薬にもある程度慣らされているから毒味は必要なくて、あくまでも『恋仲のフリをしたお嬢様と護衛騎士』という設定をアピールするためのパフォーマンスでしかないんだけど、完成度が高すぎて見入ってしまった。

 

「ありがとう。ミリアムも、一緒に頂きましょう?」

 

「はいっ♡」

 

 優しく声掛けをされて、Lさんの手から離れてF様の腕にしがみ付く。

 F様は、Cさんにお皿を持たせたままフォークを手に取ると、ご自身とわたしの口とに交互に食べ物を放り込んでいった。

 

「えへ♡ 美味しいですねぇ……。フラウさまが食べさせて下さるから、余計にそう感じるのかも……?」

 

「うふふ。可愛いわ、ミリアム……。あなたが美味しそうに食べる姿、とっても好きよ♡」

 

《Fさまぁ? ほとんどわたしの口に突っ込んできますね……?》

 

《わたくしも食べているように見えれば十分でしょう? この皿の中身はお前が処理するのよ。なにか文句でもある?》

 

《ありません! もっとくださいっ♡》

 

 通信でいつもの温度の会話をしながら、表向きには極上の『百合の逃避行』のストーリーが進んでいく。

 

「夜会は適当なところで切り上げて、馬車でお召し替えですね? そのあとは……」

 

「ええ。もう屋敷には帰らないわ。……貴方にも苦労をかけてごめんなさいね、コンラッド……」

 

 声をひそめている雰囲気で交わされるのは、聞こえていてもいなくてもどっちでもいいシナリオ。

 

「たしか、この夜会の……『定期的に行方不明者が出る』っていうウワサを利用するんでしたよね……?」

 

「はい。お嬢様方は、今宵この会場で忽然と姿を消してしまわれた……という筋書きになりますね……。はぁ……」

 

「ルイス……?」

 

 物憂げにため息を吐くLさんに女性客からの視線も集まっているけど、わたしたちが釣り上げたいのは多分『女性』の中にはいないと思う。

 

「どうしてもお連れ頂けませんか……? お二人の視界に入らず、護衛に徹します……!」

 

 食い下がるLさんの演技力がカンストしてるなぁと感心していたら、後方彼氏ヅラで周囲の観察をしていたCさんの通信が入った。

 

《いいね、釣れてそうだよ。扉前の男が、こっち見ながら仮面の給仕になにか耳打ちしてる。こっちに来るんじゃない?》

 

《よっしゃ!》

《いえ〜い! やりましたね♡》

 

 Lさんと浮かれていると、F様が渋い顔でジロリとわたしたちを睨んだ。

 これは演技というより本当にちょっと怒っている気がする。

 

「…………その話は、もう終わったでしょう? わたくしとミリアムを隣町に降ろしたら、貴方たちも逃げるのよ……!」

《いちいち騒ぐんじゃないわよ! まだそいつが本命と決まったわけでもないんだから》

 

 今のはセットでのお叱りだから、結局わたしよりもLさんのほうがご褒美の回数が多いんだけれど。

 この先はわたしとF様がふたりで攫われるターンになるはずだから、トータルとしては絶対にわたしに軍配が上がるんだもんね!

 

 

 

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