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MISSION3(前):他の人に見られたくないんです……♡

 

 

「……それで。お前はいつまでここに居座るつもりなんだ?」

 

「え〜? さあ……?」

 

 影のツートップの片割れ、『チームベータ』の頭であるベータさんに張り付いて推し語りをするのが最近のわたしのお気に入りなので。

 今日も今日とて、影魔法の改編に精を出すF様の邪魔をしないように、ヒマな時間をつぶしに来ていたのだった。

 

「私としては、今すぐにでも巣に帰ってほしいと思っているわけなんだが。それかアルファの所にでも帰れ」

 

「ヤですよぉ。アルおじだと余計な口ばっかり挟んで、ベータさんみたいに黙っておはなし聞いてくれないんですもん!」

 

 その点ベータさんは、定期的に相槌がわりのクソデカため息とか、合いの手みたいな『帰れ』しか言わないから、ものすごくパッションがぶつけやすい。

 

「……適当に聞き流しているだけだとは思わないのか?」

 

「いいんですぅそれで! 壁打ちしてるだけなんで♡」

 

「クソ……アルファめ。自分で拾った犬を野放しにしやがって……」

 

 几帳面なオールバックのおかげでよく見える額に青スジを浮かべて、ベータさんが低い声で唸る。

 神経質な生真面目属性に見えて、結局は周りと同レベルに口が悪いところが、人によってはめちゃくちゃギャップ萌えなんだと思う。

 

「ふへへ♡ ベータさんまでわたしのこと犬扱いするぅ! 全然タイプ違うけど、たまにFさまと似たとこあって、余計に好きなんですよねぇ〜」

 

 ついおじさんにまでF様成分を見いだして悶えていると、ベータさんはデフォルト装備の眉間のシワをさらに深くして冷たく言い放った。

 

「私情は要らん。そんなに暇なら次の仕事のことでも考えていろ」

 

 その言葉に、わたしはこの前のブリーフィングのことを思い出す。

 

「あぁ、そういえば週末かぁ……。珍しいですよね、チームアルファとベータの合同任務って!」

 

 やたらと人が多くて、見たことない人もいたからちょっとびっくりしたんだよね。

 聞いてみたら、精鋭チーム以外にもペアで単独任務してる中堅クラスからも何組か選抜してたらしいけど、わたしたちが仕込まれてすぐに精鋭チームに入れられてたってことのほうが驚きだったかも。

 

「それだけ人手が要る大層なヤマなんだ。噂に聞くお前らの働きには私も期待している」

 

「はえぇ〜。そんなミッションで百合営業させるの、正気を疑いますけどねぇ?」

 

 今回のガサ入れ先は、確か人身売買の黒幕や販売ルートと監禁場所の特定だって言ってたから、ペア売りじゃなくても成立すると思うんだけど……。

 

「ゆり……? なんだそれは。お前とFに課せられているのは、特殊諜報任務だろうが。営業なんぞ影の職務にあってたまるか」

 

「なるほど! わたしにとっては『公開百合劇場』だけど、はたから見るとアレって本当に真っ当な裏稼業の潜入ミッションなんですね!?」

 

「そうか。これが聞きしに勝る『話が通じない異界の者』疑惑の真髄か……」

 

 真剣な顔でブツブツ考察してるベータさんは面白いけど、もしかしてわたしって転生者バレしてたりするのかな。

 

「あのぉ。その"異界の者"って、誰が……」

 

――ピィィィィ……!

 

「わっ! Fさまだ!? ごめんなさい、わたしもう行きますねっ」

 

 誰がそんなことを言っていたのかと尋ねようとした瞬間に、わたしにしか聞こえないバディ用の影の呼び笛(魔力波の調整をした特注品)の音が響いて、慌てて立ち上がる。

 

「笛か……? わざわざ本部内で呼び笛を使うな! とっとと行け。そして二度と来るな」

 

「また来まぁす♡」

 

 駆け出した背後から特大の舌打ちが聞こえたけれど。

 なんだかんだ言いながら物理で追い出したりしないから、厄介オタクに付け入られちゃうんだよ、ベータさんっ。

 

 気怠いちょいワルオヤジ(死語)みたいなアルファおじさんのほうがきっとモテるんだろうけど、わたしは断然ベータさんのほうが壁として有用すぎて好き。

 

 そんなことを考えながら音のした方角へ飛んでいくと、たどり着いたのはなぜかアルおじのところで。

 白けた顔をしたF様と、そういえば通信で呼ばれてたかもしれないけど無視していたかもしれないアルおじが満面の笑みでキレていた。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 あっという間に訪れた週末。

 大掛かりな潜入捜査のために集まった影たちは、ブリーフィングで見た時よりも増えていた。

 

 アルおじチームからいつもの三ペアとボスの七人。

 ベータさんのチームが四ペアとボスで九人。

 選抜された中堅ペアが三組と、片割れだけ選ばれた個人が三人で九人。

 

 総勢二十五人も集まった大所帯で、いつでも能天気が売りのわたしも、さすがにちょっと緊張してきたかもしれない。

 

(っていうか、影ってこんなにいたんだ……。これでまだ全員じゃないんだもんね……?)

 

 なんとなくドキドキしながら部屋中の顔ぶれを眺め回していると、F様がひそめた声で話しかけてきた。

 

「……やけに大人しいわね。逆に不気味よ」

 

「えっ、Fさま……! いやぁ……なんか、さすがに圧倒されたというか。こんな総力戦みたいな任務だと思ってなくて……」

 

 素直に白状すると、F様は怪訝そうな顔でわたしを凝視した。

 吸い込まれそうな青い瞳は、冷たいというよりも本気で困惑しているみたいだった。

 

「お前まさか緊張してるの……? 人並みの感性があったなんて……」

 

「Fさまって、わたしのことなんだと思ってます?」

 

「躾のなっていない気持ちの悪い駄犬ね」

 

 間髪入れずに返されるのがソレで、F様のあまりの通常運転っぷりにわたしの緊張もほどけていく。

 調子が戻ってくると、余計なことを言ってF様のリアクションを拝みたくなってしまうのが、前世からの想いを拗らせた限界オタクの習性というものでして。

 

(んん……違うか。これはオタクという総称よりもわたしの悪いクセ、かな……?)

 

「有能でお茶目な相方、とかじゃないんですか?」

 

 へらりと笑ってみせると、F様は想定通りの渋面になって上半身だけを逸らしてわたしから距離を取った。

 

「……耳が腐りそうな戯言を言ってないで、真面目に流れの確認を聞きなさいよ。今回ばかりはお前がふざけて無茶をしていい場面じゃないのよ……!」

 

「はわ……」

 

 せっかくフラットな心持ちになったのに、F様の嘲りのない純粋な忠告にまた心拍数が早くなってしまう。

 

(ガチなんだ……。今回は、本気と書いてマジと読むやつなんだ! ええぇ……どうしよう…………ミスしたら誰か死んじゃったり、そうじゃなくてもみんなに迷惑かけちゃうやつ……!?)

 

 

 ……。

 

 

「なんて思っていた時期が、わたしにもありました!」

 

「いきなりなんなのよ!? うるっさいわね!」

 

「えへ、ごめんなさぁい♡」

 

 準備が進んで、潜入衣装に身を包んだF様を見たら、不安な気持ちなんて一瞬で消し飛んじゃったよね。

 最高が過ぎてミッション開始前から死人が出そうなディテールを心から称賛させて頂きましょう……!

 

「今回のヤバヤバポイントそのいち……♡」

 

「やだ……また始まったわ。気持ちが悪い……」

 

「くくっ……! 俺、この狂った衣装講評聞くためだけに、備品管理部から事務処理への移動断ったからね?」

 

「頭のおかしい者しかいないの……?」

 

 F様と、実働部隊じゃない裏方のBEビーイーさんがなにか話してるけど、今はそれどころじゃないので。

 

「Fさまの、元の輝きのままのハニーブロンドとサファイアの瞳がまず至宝。異論は認めない。なぜこうなったのかというと、ターゲットにされているのが金髪や青い瞳という高貴な色味を持つ若い女性がほとんどだという調査結果から!」

 

「ぶふっ! なあ、いつも思うんだけど、あれって誰と喋ってんの? Fは知ってる?」

 

「知らないわよ! わたくしに振らないで頂戴!」

 

 ちなみにわたしも今回は金髪なんだけど、どうしても瞳の色が変えられないからいつもどおり目はそのままだったりする。

 聖女としての固有魔力のせいか、もしかしたらわたしって特殊な血筋なのかもしれないけど、あまり興味はない。

 

「はあ……♡ ヤバヤバポイント、そのに……。色彩がそのままだから身バレリスク回避のためにおっとり系の垂れ目メイクが施されたFさまが新境地すぎて心停止しそう……♡」

 

 しかも垂れ目メイクで一見ふんわりセクシーお嬢様なのに、よく見ると気の強さが全く隠せてないF様イズムが最高に愛おしいんですよ。

 死ねますね? これは死人が出ますよね?

 

「あれって何語? 理解できる?」

 

「犬の言語なんて理解できるはずがないでしょう」

 

 もしかしていま呼ばれたかな。

 気のせいかな、まだF様は備品部さんとしゃべってるもんね?

 

「好き好きポイント、そのさんっ!」

 

「おい、なんか変わったぞ。指摘しなくていいのか?」

 

「…………わたくしに話しかけるのをおやめなさい。そんなにアレが見たいのなら黙って一人で聞いていればいいでしょう!」

 

「清楚な白でまとめられた上に、フラワーシフォンレースで覆われたハイネックと袖がエッッッッ……すぎて直視できないようなずっと見つめていたいような絶妙な気分にさせるドレスが本当にむり。むりとつら……」

 

 ドレスそのもののデザインも、白と言いながら繊細な薔薇の刺繍が光沢のある銀糸でこれでもかと散りばめられていて、豪華でありながらどこまでも上品で。

 純白だとデビュタントの令嬢のイメージが強いけど、バッチリ大人の色気と気品を醸し出している。

 

「即死ポイント、そのよん……♡」

 

「死んでるじゃん!」

 

「右側だけ編み込んで左は流した前髪のセクシーとキュートの美味しいとこどり感と、ドレスコードの『匿名性を保つための顔を覆うもの』に選ばれたベール付きのミニハット……!」

 

 完全なる美を隠してしまうのはもったいない気もするけど、見えそうで見えないもどかしさと、チラ見えするすべてが予想以上の麗しさで逆に昇天するというギミックがむしろ神がかっていると言わざるを得ない。

 

「天才ポイント、」

 

「M」

 

「っ、はい!?」

 

「黙りなさい。召集よ」

 

 まだまだ語りたかったのに、時間切れになっちゃった。

 物足りない気持ちが顔に出ていたのか、「お前が長々と語るせいで、それも含めた準備時間にされているのよ!? それすら超過するだなんて気が触れているんじゃなくて!?」とまた移動中にひたすらお説教をされましたありがとうございます。

 

 

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