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MISSION2(前):ふぇぇ……酔っちゃいましたぁ♡

 

 

「――っつうワケで、決行日は二日後だ。お前らまた()()()()感じで頼むなぁ?」

 

 ボスであるアルおじに呼ばれたのは、わたしたちを含めて三組のペア。

 いつも通り変わり映えのしない『チームアルファ』の面々だった。

 

 そしてわたしとF様のコンビに与えられたのは、これまたいつも通りの『色仕掛けの囮役』ミッションだった。

 

「やったあ♡ またFさまと百合営業だぁ〜♡」

 

 実際のところ、組織の中では見張り役が一番ラクで"当たり"扱いされてるけど。

 わたしにとっては『F様との百合トラップ』が、任務でありながらも最大限の生きる糧なので!

 

 お仕事が無いほうが栄養不足になっちゃうよね、なんて浮かれていたら、すぐ隣から小さく舌打ちする音が聞こえた。

 

「ちょっとアルファ! どうしていつもわたくしたちにばかり影らしくない任務をやらせるのよ……!」

 

「あ? なんだ、不満かぁ? 適材適所ってやつだ、文句は受け付けてねえよ」

 

 F様にとっては特別手当も潜入用のおめかしもどうでもいいことらしく、ハニトラ指名の度にアルファおじさんに突っかかっている。

 闇に堕ちても折れることのないフレイヤ様のプライドが見られるこの時間が、実は結構……いや、かなり好きです。

 

(アルおじのスルースキルに勝てるわけないのに、それでも噛みつかずにいられないんだろうなぁ……♡ ああっ、いつまでも高層ビルみたいなプライドを保っていて欲しいっ……!)

 

「適材適所と言うなら、わたくしの適性があんなものだけに特化しているわけがないじゃないの……! とんだ節穴だわ!」

 

「うるせうるせ。任務の難易度がクソほど下がって楽勝になる手札なんだから、切らねえ手はないっての」

 

 元はといえば、特大のやらかしで死にかけて、苦し紛れに百合カップルを演じたのがきっかけなんだけど。

 

(今となっては最強のカードになってるんだもんなぁ。世の中なにが起こるかホントに分かんないよね……)

 

 

「そうですよFさまぁ。確かに、全ての面において特級クラスの実力をお持ちなのは分かってますけど、Fさまのその美貌と営業時のメロさを活かさないなんて、全世界の損失ですよ!」

 

 悔しさを憎しみに変換していそうな100億点満点の歪んだお顔を愛でながら、F様にこの世の真理を説く。

 フラウ様状態の甘い囁きだけで、きっと世界の寿命が100年は延びているはず。

 

「何言ってんのか分かんねえけど、まあ多分そういうこった! 諦めな」

 

 アルおじが調子良く乗っかってきたところで、まだ室内に残っていたLCコンビのLさんがふいに会話に参加してきた。

 

「そうだよF。君らのお陰で、オレらも大助かりだよ! 給料三割くらい横流ししてもいいくらいには感謝してるんだぜ?」

 

「要らないわよそんなはした金。……どうせ使うところもないし」

 

「えっ、じゃあLさん! その分わたしにもらえます? こないだの任務でFさまが着てた衣装、買い取りたいんですよねぇ……」

 

 F様ってば、死罪を止められなかった実家への腹いせに、フレイヤ様時代の私物をごっそり盗み出して売り払ってるから、意味もなくお金持ちなんだよね……。

 よそに売るくらいならわたしにもいくつか売ってくれればよかったのに。

 

「あはは! そこまで突き抜けてるといっそ清々しいよね、M。いいよ。オレも使い道ないし、あとでほんとに謝礼持ってくわ」

 

「やったー! あとは備品部のひとにちょろっとオマケしてもらえば、ついでにあのFさまがコーデしてくれた白いドレスも買い取りできるかも……♡」

 

 並べて飾ればいつでもあの日を思い出せるってね!

 

「心底きもちがわるいわ……。ねぇアルファ、今回の任務が終わったら、コイツとのペアを解消してくれない?」

 

 永久凍土の眼差しを向けて、F様がわたしから二歩ほど離れてボスにそんな頼み事をする。

 効率重視のアルおじがそんな提案を聞き入れるわけがないのは分かっているから心配はないんだけれど、いまだに蛇蝎のようにキラわれてるんだなぁと思うとほんのちょっぴり悲しくなる。

 

「さってと! んじゃ、新米の様子でも見てくっかな〜」

 

「ちょっと!? 無視するんじゃないわよ低脳無精髭男ッ……!」

 

 案の定、アルおじは聞こえなかったふりをして、ヒョイと飛び上がるとそのまま天井を影魔法ですり抜けて逃走した。

 生前(?)からは考えられないようなF様のスレた罵倒だけが虚しく響く。

 

「Fさま……」

 

「……っ、なによ駄犬」

 

「暗部に染まって、いい感じにお口が悪くなってきちゃいましたね……。って、そうじゃなくて」

 

 貴族的な回りくどくて美しい語彙で罵るフレイヤ様も大好きだったけど、ストレートな汚い言葉でキレ散らかすF様もとっても素敵で。

 もしかするともう、何をしていても推せるのかもしれないけど、明らかに間違えた認識をお持ちの時にはきちんと正して差し上げないといけないよね。

 

「早くしなさいよ。あと五秒で帰るわ」

 

(あっすき! とか言ってる場合じゃない、五秒はさすがに草……!)

 

「えっと。アルおじはあんなだけど、低脳じゃないですよ? それに、一応わたしたちの命の恩人でもありますし……」

 

 そっと進言すると、F様はただでさえ赤くなっていた顔をさらに染め上げてお怒りマックスになってしまった。

 

「お黙りなさいな! お前にだけは正論を説かれたくないのよ……! 次の現場まで話しかけないで頂戴っ」

 

 声高に叫ぶと、アルおじと同じように天井に溶け込んでこの場を離脱するF様。

 

「え゙っ……!? そんなあぁ……!」

 

「Mってさ、それってわざと怒らせてんの?」

 

 呆然と見送るしか出来なかったわたしに、Lさんが茶々を入れてきたけど、身に覚えのない質問だったので無視をした。

 

 

 期間限定な絶交宣言(?)をされて、初めこそドン底まで落ちたような気持ちで過ごしていたけれど。

 なんだかんだで淋しがりなところのあるF様は、「わたくしから話しかけるのは問題ないのよ」と言って、わりといつも通りに構ってくれた。

 

(そんなチョロいところも推しポイント高すぎですぅぅぅぅ……!!)

 

 

 ◆    ◆    ◆

 

 F様のチョロ可愛さと傲慢マイルールの尊さに悶絶しながら時は流れて。

 

 今日の百合営業コンセプトは――

 

 露骨にお忍び感のある"町娘風の貴族令嬢スタイル"なF様と、貴族家に仕える"メイドの私服スタイル"なわたしとで、やたらと金回りの良さそうな小洒落た酒場で待ち合わせデートですっ!

 

(適当な席でFさまを待ってればいいんだよね……? 確かアルおじ、どうせ摘発でうやむやになるから普通にお酒飲んでても良いって言ってたよね♡)

 

 コロンと小気味いいドアベルの音が鳴ると、店内の半数以上がわたしを振り返る。

 涼しい顔で空いた丸テーブルの一つに陣取ると、店員より先に近くの男が声をかけてきた。

 

「可愛いねえ嬢ちゃん。どうだ、一杯奢ってやろうか?」

 

「えっと……ごめんなさい。わっ、わたし、人を待ってるので……」

 

 ターゲットがどの男かは分からないけど、モブさんチョロすぎないかなと心配になりながら、今日のわたしは控えめなお忍びメイドを演じる。

 ただ、この手の絡み方してくるタイプって、軽く断った程度じゃ一歩も引かないのも織り込み済みなんだよね。

 

「なんだ待ち合わせかあ! まっ、いいじゃねーか。ツレが来るまでヒマだろぉ? 一杯くらい先に飲んでたってバチなんか当たりゃしねえって」

 

「そ……そうですか……? なら、お言葉に甘えて……。本当に来てくださるのかも分からないし……くすん……」

 

 そんなふうに『ワケアリな恋人を待つ』雰囲気を醸し出してみると、あわよくば狙いの男性客の視線があちこちから集まってくるのを肌に感じる。

 そもそも最初にざっと見た感じでも女性客が少なかったから、このあとF様が合流すれば、標的が誰か分からなくても裏のあるオトコは全員順番に絡んできそうだなぁ。

 

《Fさまぁ……。まだですかぁ? 網かけたんで、早く来てくださいよぉぉ……》

 

 影の通信で呼びかけてみるけど、応答はなし。

 だけどわたしは知っているので。

 

「っ……約束の時間、過ぎてるのに……。もう知らないっ……!」

 

「おっ! 良い飲みっぷりじゃねーか!」

 

「……っぷは。同じのください……」

 

 F様はわたしが必要以上に不真面目な行いをすると、すぐに風紀委員モードになるってことを!

 

「ミリアム……!」

 

 想定よりも強いお酒を構わず一気に飲み干して、グラスを『たん!』とテーブルに置いた瞬間。

 ドアベルが荒ぶって、勢いよく開いた扉からとびきりの美女が飛び込んでくる。

 

「フラウさまぁぁあっ♡」

 

 すかさず立ち上がって胸元に飛び込むと、気品を隠しきれない町娘風のご令嬢"フラウ様"は、優しく受け止めて抱きしめ返してくれた。

 

「ミリアム……待たせてごめんなさいね。護衛がうまく撒けなくて……(一気にあおるなんてバカな真似するんじゃないわよ! 酔っ払いと仕事なんて御免なんだから……!)」

 

「そんなこと言って、本当は婚約者の方と会っていたんじゃないんですか……? 最近ずっと、あまり時間が取れないって……(ザルなんで大丈夫ですよぉ〜。あ゙っ痛い! それホントに痛いです!)」

 

 いくら変装しているとはいえ、ハイスペック悪役令嬢と乙女ゲームのヒロインなんていう顔が良すぎる二人がイチャコラ睦み合っていたら、足元なんて見てる人はほとんどいないだろう。

 それをいいことに、F様はわたしのつま先を遠慮なしにグリグリと踏み潰しながら切なげな顔で囁いた。

 

「ミリアムったら、ヤキモチは可愛いけれど……疑わないで? わたくしはあなたのために忙しくしていたのよ……?」

 

「……わたしばっかり嫉妬させられて…………フラウさまはいつもそう! 今日はわたしだって、やっ……ヤキモチやかせちゃうんですから……!」

 

 そんな風に台本通りに叫んで、F様の腕の中から逃げ出して。

 

「ちょっとミリアムっ……!?」

 

「ふん、だ。少しはわたしの気持ちも分かるようになってくれればいいんですよぉ……! マスター、強いのください!」

 

 スルリと座席の合間を抜けて、カウンターの空いた座席に滑り込む。

 ニヤニヤとした笑みで数人の男が集まってきたけど、この中に標的はいるのかなぁ。

 

「強いの、ね。そこそこで飲みやすいのにしときなよ」

 

「…………お気遣いどうも」

 

 イマイチ表情の読めない店主らしき優男が、親切そうなことを言って何かのカクテルを作り始めた。

 ツンと澄まして待っていると、さっそく隣の席にいかにもゴロツキじみたおじさんが座った。

 

「お嬢さんたち、そういう感じなの? あっ、でもいま破局しちゃったのかなぁ〜?」

 

「……破局じゃないです! まぁ、あのかた次第、ですけれど……」

 

 チラリと後ろを流し見て、演技には見えない氷のようなF様の表情を確認する。

 このあと"フラウ様"が怒って、少し離れた席からミリアム(わたし)を煽るターンなんだけど、まだ座らないのかな。

 

「そう……。ミリアムは、わざとわたくしに当てつけてそういうことをするのね?」

 

(おっ、きたきた! 本当ならシュンとした感じでF様側でも引っ掛ける予定なのに、やっぱり『ツン』しか出来ないかぁ〜)

 

 打ち合わせ通りにわたしを監視しやすい席に座るF様だけど……。

 位置取りは完璧なのに、獲物を釣るというよりも人を寄せ付けないオーラを放ちながら、刺すような視線をこちらに向けていらっしゃる。

 

「フラウさま…………止めないんだ……」

 

「大丈夫さ、ずっと君のこと気にしてるじゃないか」

 

 わたしにだけ聞こえるような小声で囁いて、マスターがカクテルを差し出してくる。

 いちいちイケメンムーブをかまされても、なんだか余計に胡散臭いんですけど。

 

 

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