第31話:目覚めし「清掃の鼓動」
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第31話は、離宮の屋根という極限の高所を舞台にした修行編です。
「掃除とは己の魂を磨くこと」というフェイトの過酷な、しかし真理を突いた教えが、ついにあの傲慢な元勇者の殻を打ち破ります。
かつて剣で敵をねじ伏せることしか知らなかった男が、宇宙の塵を拭き取る中で見出した「調和」の境地とは。
清々しくもどこかシュールな、勇者覚醒の瞬間をぜひお楽しみください!
離宮の屋根の上、地上数百メートルの高さで、ヴォルグは命綱一本……ではなく、フェイトが編み上げた「超吸着魔法の糸」一本で逆さ吊りになっていた。
彼の眼下には、雲海を突き抜けて輝く離宮の尖塔。そして目前には、大気圏外から降り注ぎ、結界の表面にうっすらと膜を張った「宇宙の塵」が、星の輝きを遮るようにこびりついている。
「ヴォルグ、意識を研ぎ澄ませ。それはただの塵じゃない。数億年の時を経て宇宙を漂ってきた、星の死骸という名の『究極の不純物』だ。それを慈しみを持って取り除くことで、君の魂は銀河の清浄さと同調する」
地上から拡声魔法で飛んでくるフェイトの指示は、もはや哲学の領域に達していた。
ヴォルグは最初こそ「死ぬ! 落ちる! 勇者が屋根掃除で死んでたまるか!」と叫んでいたが、数時間が経過した今、彼の瞳には奇妙な静寂が宿っていた。
(……見えてきた。塵の一粒一粒が、どのような重力バランスでここに留まっているのかが。俺は今まで、力でねじ伏せることしか知らなかった。だが、掃除は違う。調和だ。受け流し、あるべき場所へ還すことなんだ……!)
ヴォルグの持つ「概念重圧スポンジ」が、ふっと羽のように軽くなった。
彼が指先を滑らせると、頑固な宇宙の塵が、まるで主を見つけた忠犬のように吸い込まれ、一瞬にして消え去っていく。それと同時に、ヴォルグの体から、以前のギラついた黄金色とは異なる、透き通った真珠のような魔力が溢れ出した。
「なっ……ヴォルグが『清掃の極致』に入っただと……!?」
地上で見守っていたミレーヌが、バケツを落として驚愕する。
彼女の目にも、ヴォルグが屋根の上で流れるような演武のごとき動きで、完璧な拭き掃除を遂行しているのが見えた。無駄な力みは一切なく、その動作は風そのもののようだった。
「……合格だ」
フェイトは満足げに腕を組んだ。
屋根から降りてきたヴォルグは、もはや以前の傲慢な男ではなかった。その立ち姿は凛としており、肌からは微かな石鹸の香りが漂っている。彼は無言でフェイトの前に跪き、泥に汚れた自分の指先を恥じるように地面へと向けた。
「フェイト……。俺は今まで、世界を救うと言いながら、自分の心の煤すら見ていなかった。……このバケツ、まだ水が濁っている。もう一度、基礎からやり直させてくれ」
「いい心がけだ、ヴォルグ。……だがその前に、ミレーヌが調整をサボったせいで洗濯機が爆発しかけている。君のその新しい魔力特性なら、『超高圧脱水』を素手で制御できるはずだ。行ってこい」
「了解した。……師匠!」
「勇者」を捨て、「清掃員」としての誇りに目覚め始めたヴォルグ。
フェイトの離宮は、ついに世界最強の「衛生管理部隊」を育成する機関へと変貌を遂げようとしていた。しかし、その劇的な変化が、外部の勢力に「離宮の主が強力な私兵を組織している」という、特大の誤解を与えることになるとは、まだ誰も気づいていなかったのである。
第31話をお読みいただきありがとうございました!
ついにヴォルグが「清掃の極致」へと覚醒しました。勇者の才能がまさかの方向に全振りされ、真珠のような透明感あふれる魔力を放ちながらバケツを抱える姿は、ある意味で魔王を倒した時より神々しいかもしれません。
フェイトの指導もいよいよ熱を帯び、離宮の清掃レベルはもはや銀河規模の衛生管理へと進化しつつありますね。
さて、この異常なほど「ピカピカな集団」の噂を聞きつけ、王国が再び動き出します。
次は、変貌した勇者たちを「奪還」しに来た王国軍が、エプロン姿で宇宙の真理を語るヴォルグを見て絶句する「王国軍困惑編」を予定しています。
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