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第23話:磨きすぎた床の「代償」

お読みいただきありがとうございます!

第23話は、フェイトのこだわりが裏目に出てしまう(?)日常回です。

「掃除の行き着く先」を追求した結果、床がとんでもない状態に。

究極の清潔を目指したはずが、物理法則すらも「掃除」してしまったことで巻き起こる、離宮のパニックをお楽しみください。

庭の植物たちが侵入者を「完璧に洗浄」している間、フェイトはリビングの床に膝をつき、真剣な眼差しでフローリングを磨き上げていた。

 この床材は、かつて神代の巨人が神殿の柱として使っていた希少な「極光石」を、フェイトが厚さ数ミリ単位で均一に【分解】し、居住性を高めるために温かみのある木目状の質感を付与して【再構築】した特製品である。


「よし、このあたりも少し曇ってきたな。エルシア、バケツに『聖なる雫』と『万能溶剤』を三対一で混ぜたものを持ってきてくれ。ついでに仕上げ用の魔力中和布も頼む」


「はい、フェイト様。……それにしても、床の輝きがすでに鏡のようになっていますが、まだ磨かれるのですか? 自分の顔がはっきりと映りすぎて、少し気恥ずかしいくらいなのですが」


「鏡じゃダメなんだ、エルシア。理想は『存在しないかのように透き通っている』こと。足元に意識がいかないほど清潔であってこそ、真の安らぎが生まれるからな。汚れも、摩擦も、光の乱反射も、すべてはノイズなんだ」


 フェイトは雑巾を手に取ると、独自の『螺旋円運動』による拭き掃除を開始した。彼が雑巾をひと滑りさせるたびに、床の表面に残留していたわずかな摩擦係数が消失していく。さらにフェイトは、拭き掃除と同時に【空間平坦化】の概念を付与していった。分子レベルの凸凹という概念そのものを「不純物」として掃除によって消し去ったのだ。


 数分後。そこには、光を反射するどころか、光そのものを吸い込んで別の次元へ受け流すような、究極の「無」の床が完成していた。あまりの透明感に、一見すると床が抜けて奈落が広がっているようにも見えるが、その実、硬度はダイヤモンドを凌駕している。


「ふぅ、これでようやく足元が片付いた。……おっと」


 立ち上がろうとしたフェイトの足が、つるりと滑った。あまりに摩擦を排除しすぎたせいで、彼の履いていたスリッパが床との接触を拒絶したのである。フェイトは咄嗟に【質量固定】の魔術を自分にかけて転倒を免れたが、そこへちょうどお茶を運んできたエルシアがリビングへ足を踏み入れた。


「あ、フェイト様、お茶が入……わわわっ!?」


 エルシアの足が「無」の床に触れた瞬間、彼女の体はまるで永久凍土の上のプロスケーターのように、凄まじい速度でリビングの奥へと滑っていった。


「危ない! エルシア、動くな! 下手に抵抗すると加速するぞ!」


「止まりませ、止まりませんー! 床に……床に掴まるところがありません! 景色が流れていきます!」


 摩擦ゼロ、汚れゼロ、そして「抵抗」という概念すら掃除された床の上では、慣性の法則だけが絶対的な支配者だった。エルシアは優雅なティーセットを抱えたまま、リビングを右へ左へと高速で往復し続ける。壁にぶつかりそうになっても、フェイトが窓に付与した「自動防汚概念」が異物の接触を撥ね退けるため、彼女はピンボールの玉のように跳ね返り、再び加速して滑り出す。


「ごめん、エルシア。少し磨きすぎて、摩擦係数を『不燃ゴミ』として捨てすぎたみたいだ。今すぐ『歩行用概念』を部分的に上書きするから、そのままの姿勢を保ってくれ!」


 フェイトは慌てて指を鳴らし、床の特定の範囲にだけ「適度なザラつき」という概念を再構築した。ようやく静止したエルシアは、目を回しながらも、不思議と一滴もこぼれなかった紅茶を見て、安堵の溜息を漏らす。


「……フェイト様。掃除は素晴らしいですが、床が『物理法則から卒業』してしまうのは、生活する身としては少しだけ困ります。歩くたびに時空の果てまで滑っていきそうです……」


「……深く反省してる。明日はもう少し、地面に足がつく程度の『汚れ(摩擦)』を残す加減を練習するよ」


 究極の清潔を求めるあまり、重力以外のすべてを掃除してしまったフェイト。離宮の平和を守るためには、時には「汚れているという概念」すらも大切にしなければならないのだと、彼は身をもって学んだのであった。

第23話をお読みいただきありがとうございました!

「摩擦」すらも不純物として捨て去ってしまうフェイト。彼の辞書に「加減」という文字はないのかもしれません。

優雅にお茶を運びながら高速移動するエルシアの姿は、もはや一つの芸術のようでしたが、本人はたまったものではなかったでしょう。


「掃除しすぎも考えもの」という教訓を得たフェイト。

しかし、彼の「磨きたい」という本能が次にどこへ向かうのか。

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