第22話:掃除する生態系
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第22話は、フェイトの徹底した「掃除愛」が、ついに庭の生態系にまで波及します。
かつてないほど「清潔」に特化した庭。そこへ、離宮の噂を聞きつけた不審な影たちが忍び寄ります。
フェイトが手を下すまでもなく、庭そのものが「異物」に対してどのような反応を示すのか。静かな離宮で巻き起こる、シュールで一方的な「清掃劇」をどうぞお楽しみください。
黄金の肥料によって進化した庭の植物たちは、もはや単なる「植物」という枠組みを逸脱していた。
フェイトの「綺麗にしたい」という意思が、特使たちの強烈な執着心を媒介にして、植物の生存本能と混ざり合った結果、彼らは「汚物を見つけると排除せずにはいられない」という、熱狂的な掃除屋としての性質を獲得してしまったのだ。
「シュッ、シュッ」
庭の端では、細長い葉をホウキのように変形させた『スイーパー・ウィロー(清掃柳)』が、風で舞い込んだ一粒の砂埃すら許さず、超高速で地表を掃き清めている。また、地面を這う蔦たちは、入り口のタイルに付着した僅かな泥汚れを見つけるや否や、自身の分泌液を「アルカリ洗剤」に変化させて一気に溶かし去っていた。
「……フェイト様。あの、あそこで雑草を食べている花は一体……?」
エルシアが指さした先では、巨大な食虫植物のような形をした『デリート・フラワー』が、庭の美観を損ねる不揃いな草をパクパクと飲み込んでいた。
「ああ、あれか。あいつは『不要物』と『必要物』を分別して、いらないものだけを魔力に変えて土に還す役割だ。おかげで俺が草むしりをする手間が省けたよ」
フェイトは感心したように頷きながら、ジョウロで水を撒いている。その水もまた、フェイトが【再構築】した「汚れを寄せ付けない聖水」だ。
だが、この「掃除する生態系」の噂は、思わぬ形で外部へと漏れ出していた。
フェイトが窓を磨きすぎたせいで放たれた神聖な光、そして庭から溢れ出す濃厚な魔力。これらに引き寄せられたのは、なにも善意の訪問者ばかりではない。
「……いたぞ。間違いない、この階層のどこかに『究極の宝物庫』があるという噂は本当だったんだ」
庭を囲む「透明な障壁(フェイトが窓掃除のついでに張り替えた空間境界)」の外側に、数人の影が潜んでいた。彼らは近隣諸国から派遣された「隠密調査員」――いわゆる、国家公認の盗賊たちである。
「見てみろ、あの植物。一つ一つが伝説級の素材だ。それに、あの家の中に漂う魔力の密度……あそこにあるものを奪えば、一国を買い取ることだってできるぞ」
彼らはフェイトが「ただの掃除好きの男」であることなど知る由もない。ただ、目の前に広がる神々しい光景を「強奪すべき財宝」としか認識していなかった。
「よし、突入する。……おい、なんだこの蔦は?」
一人の調査員が境界を越え、一歩庭に足を踏み入れた瞬間だった。
地面を這っていた『クリーニング・アイビー』が、獲物を見つけた蛇のように鎌首をもたげた。
「ぎゃあああ!? なんだ、服が……服が溶けていく!?」
「侵入者」という名の「不法投棄ゴミ」と判断された彼らに、庭の植物たちは一斉に襲いかかった。だがそれは攻撃ではない。彼らにとってはあくまで「徹底的な洗浄」だったのである。
「……エルシア、なんか外が騒がしいな。また特使の忘れ物か?」
「いえ、フェイト様。……どうやら庭の皆さんが、新しい『大きなゴミ』を分別してくださっているようです」
エルシアは、蔦に絡め取られ、全身をピカピカに「洗浄(無力化)」されていく隠密たちの姿を眺めながら、静かに紅茶を啜るのだった。
第22話をお読みいただきありがとうございました!
「侵入者」を「汚れ」として認識し、容赦なく洗浄を開始する庭の植物たち。フェイトの教育(?)が行き届きすぎて、もはや離宮そのものが巨大な全自動掃除機のような状態になっていますね。
戦うことすらなく、ピカピカに磨き上げられて無力化されていく調査員たちには、少しだけ同情の余地があるかもしれません。
家主が望む「究極の清潔」に終わりはありません。
次は一体どんな「汚れ」がこの離宮を訪れるのでしょうか。
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