第18話:窓拭きと「星の瞬き」
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第18話は、日常の家事シリーズ「窓拭き編」をお届けしました。
フェイトが窓を磨けば、それは単なる掃除に留まりません。次元の壁すら透過させるその手腕によって、地底深くの離宮にありえないはずの「星空」が到来します。
あまりに綺麗になりすぎた結果、庭の雑草がとんでもないものに進化してしまう、規格外な日常をお楽しみください!
屋根裏のメンテナンスを終えたフェイトは、リビングの中央で足を止め、腕を組んで一点を凝視していた。その視線の先にあるのは、壁一面を占める巨大な窓だ。
この窓は、フェイトがこの離宮を構築した際、ダンジョン最深部の分厚い岩盤を【概念分解】し、透過性の高いクリスタル構造へと【再構築】して嵌め込んだ自慢の品である。だが、最近はどうもその透明度が落ちているように感じられた。
「……エルシア、窓拭きをやるぞ。深層の塵はただの埃じゃない。魔力の澱みがこびりつくと、空間そのものが曇って見えるようになるんだ」
「窓、ですか……。ですがフェイト様、ここは地中深くのダンジョン最深部。窓の向こうは本来、真っ暗な岩壁か、さもなくば不気味な『虚無の回廊』のはずでは? 景色なんてありましたっけ?」
エルシアの至極真っ当な問いに対し、フェイトは「磨けば見えるようになるさ」とだけ答え、準備に取り掛かった。
彼が取り出したのは、先日の掃除で得た「神獣の産毛」を特殊な魔力糸で編み上げた特製のスクイジー。そして、バケツの中には、屋根裏で仕留めた「時空喰らい」のエッセンスを基材に、裏庭にそびえる世界樹の朝露を混ぜ合わせた、超高純度の特製洗浄液がなみなみと注がれている。
フェイトは脚立に登ると、迷いのない手つきで洗浄液を窓に塗り広げた。
シュワシュワと微かな音が響く。それは、窓の表面にこびりついていた「暗黒物質」や、時空の歪みが引き起こす「空間の酸化」が、フェイトの洗剤によって一瞬で中和・分解されていく音だった。
「よし、仕上げだ」
キュッ、キュッ、と軽快で小気味よい音がリビングに響き渡る。
フェイトがスクイジーを一撫でするたびに、窓ガラスにへばりついていた「濁り」という概念が剥がれ落ち、光の粉となって霧散していく。そして、磨き上げられたガラスの向こう側から、あり得ないはずの光景が姿を現した。
「……なっ!? フェイト様、見てください! 窓の向こうに……星が!」
エルシアが息を呑んだ。
そこには、本来なら地上から、それも空気の澄み切った高地でしか見ることができないはずの「満天の星空」が広がっていた。フェイトが空間の透明度を極限まで……それこそ次元の壁すら透過させてしまうほどに磨き上げたせいで、窓は星界と直結するレンズへと変貌していたのだ。
宇宙の深淵に輝く星々の一つ一つが、手を伸ばせば掴めそうなほど鮮明に、宝石のような輝きを放っている。
「ふぅ、これでようやくスッキリしたな。ついでに窓枠には『自動防汚概念』を付与しておいた。これでしばらくはピカピカのままだ」
だが、フェイトの「完璧な仕事」は、単に景色を良くするだけでは終わらなかった。
あまりに透明度が高まりすぎた窓は、宇宙から降り注ぐ微細な星々の魔力を一点に収束し、パラボラアンテナのように離宮の庭へと反射させてしまったのである。
庭の隅で、フェイトが「適当な薬味にでも」と植えていた古代の薬草たちが、その強烈な聖光を浴びて一斉に激しく脈動し始めた。
「あー……。エルシア、ちょっと失敗した。光が一点に集中しすぎて、ただのポーション草が『神薬』に進化しちゃったみたいだ。放っておくと庭が光りすぎて眠れないし、後で全部間引いて、今日のサラダのトッピングにでもするか」
「……。窓を磨いたら、副産物でエリクサーが大量収穫された。……はい、もう理解しようとするのをやめました。お野菜ですね、わかりました。ドレッシングは何がいいですか?」
エルシアはそっと遠くを見つめ、自身の常識が砕け散る音を、心地よい環境音として受け入れることにした。
ダンジョン最深部。そこには、世界中の錬金術師が命を懸けて求める「神の雫」を、サラダボウルいっぱいに詰め込んでむしゃむしゃと食べる、あまりにも規格外な日常が広がっていた。
第18話をお読みいただきありがとうございました!
「窓を拭いたら、反射した光で庭がエリクサーまみれになる」。そんな滅茶苦茶な理論も、フェイトの手にかかれば「ちょっとした失敗」で済まされてしまいます。
サラダ感覚で神薬を食べるという、世界中の英雄が泣いて羨むような贅沢すぎる夕食が始まろうとしています。
聖女エルシアの適応能力も、いよいよ限界突破の兆しが見えてきましたね。
「エリクサーサラダを食べてみたい!」「窓からの景色を見てみたい!」と思った方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】の評価で応援をお願いします!




