(5)
「レオンはルイスの屋敷には面白いおもちゃがあるって行くのをいつも楽しみにしているのよ。この前なんて、家に帰ってから『どうしてうちにはないの?』って文句を言われたんだから」
「気に入ってくれて嬉しいわ」
そんなに気に入ってくれていたなんて、プレゼントした甲斐があった。
「気に入ったどころか、夢中よ。それに、レオンだけじゃないの。庭の遊具だって知り合いの子供達からすごく羨ましがられているし、付き合いのある夫人たちからも、どこに発注したのかって何度か聞かれたわ」
「そんなに?」
イザベルは驚いた。庭の遊具も気に入って遊んでくれていることは知っていたが、そんなに評判になっていたとは。確かに、以前魔法の研究施設があった地域に作った一般向けの公園はいつも子供達で大賑わいだと聞いた。
「今日頂いた玩具だって、遊び道具として面白いだけじゃないでしょう? 考える力がついたり、文字や言葉を覚えるのに使えるわ。親としては、是非とも買ってあげたくなると思うの」
「なるほど……」
自分が考えたおもちゃを売る。
このおもちゃ作りは純粋にルイスのためにやったことなので、正直全くそんなことをするつもりはなかった。しかし、ジェシカが言うことも理解できた。
イザベルがルイスのために作っている限りは、これらのおもちゃは精々ルイスのお友達の周辺にしか使われない。しかし、他の子供達だって遊びたいはずだ。
(そんな大したことをしているつもりはなかったんだけど──)
けれど、自分の前世の知識がこの世界の子供たちを笑顔にできるのなら、とても素敵なことではないだろうか。
「私、やってみたいわ。でも、侯爵夫人がそんなことしたら、評判が悪くならないかしら? 周囲の方がどう思うか──」
女性の社会進出が進んでいた前世と違い、この世界で貴婦人が自分で商売を始めるなど聞いたことがない。スランの貴族当主の妻が仕事をするとすれば、それは屋敷を取り仕切ることくらいだ。
「あら。まあ、ふふふっ」
ジェシカは目を丸くしてから、さもおかしそうに笑う。
「評判だなんて、イザベル様から今更そんなお言葉を聞くなんて思っていなかったわ。ふふっ……ごめんなさい」
イザベルはジェシカが笑っている亥理由を理解して苦笑いする。
(たしかに、今更過ぎるわね)
記憶を取り戻す前のイサベルは我がままで高飛車、公爵令嬢であることを鼻にかけ、身分を笠に平気で人を傷つける女だった。つまり、心配するまでもなく既に社交界での評判は最悪だ。
「アレックス様なら、今更評判なんて気にしないと思うわ」
「そうかしら?」
「そうよ。相談くらいしてみたら?」
「そうよね。私、相談してみるわ」
アレックスのことを昔からよく知るジェシカがそう言ってくれると、なんだかそんな気がしてくる。イザベルは、勇気をもって今日帰ったら相談してみようと心に決めたのだった。
その日の夜。イザベルはルイスとアレックスは三人一緒に食卓を囲んでいた。
「今日はね、レオンとミゲルにおもちゃをプレゼントしたの。ふたりともすごく喜んでたよ」
「そうか。喜んでくれてよかったな」
「うん!」
食卓を囲みながら、ルイスは昼間のことをアレックスに話して聞かせる。アレックスは終始口元に微笑みを浮かべ、興味深げにルイスの話を聞いていた。
「ミゲルからは、パズルがもっと欲しいって言われた」
「よっぽど気に入ったんだな」
アレックスはくすくすと笑う。
(うん、どこからどう見ても理想的な親子!)
イザベルは楽しげに話すふたりの様子を感慨深く眺める。
(今のところ、ルイスを立派な大人に育てよう作戦は順調ね。ただ、心配なのは学校に入ってからよね)
イザベルが知るこの世界の原作ゲーム──スランと乙女では、ヒロインである少女がルイス達の通う学校に転入してくるところから話が始まる。
ヒロインとルイスを出会わせたくないので、ルイスには舞台となる学校とは別の学校に行ってほしいと思っている。しかし、これだけ仲の良いミゲルとレオンが同じ学校に通うとなると、ルイスもその学校がいいと言い出すだろう。




