(4)
(アレックス様とは、ルイスが闇落ちしないように仲良し夫婦のふりをしているだけなんだから!)
ルイスが立派な大人になれば、もうイザベルがこの屋敷に留まる理由はないし、アレックスが残りの余生を誰が別の女性と歩んだとしても文句を言える立場でもない。
そもそも、アレックスはイザベルを半ば強引に押し付けられる形で娶っているのだから、いざ離婚となったら万々歳だろう。
──チクン、と胸が痛む。
(あれ?)
イザベルは自分の変化に戸惑う。
(もしかして私、ここを出ていきたくないのかしら?)
それは、ルイスと離れたくないからだろうか。
それとも、ここの屋敷が居心地がよくて離れがたいから?
もしくは──。
普段は生真面目な顔をしているのに、ふとした時に見せる子供のようなアレックスの笑顔が頭に浮かぶ。
今度は、胸がトクンと跳ねた。
「お母さま!」
ふいに名前を呼ばれ、イザベルはハッとする。気づけば、ルイスがイザベルを見上げていた。
「なあに?」
「このパズルとカード、あとふたつ作れる?」
ルイスが手に持っているのは、イザベルのお手製カルタだ。
「もちろんそれは可能だけど……どうしたの?」
「今日あそんだとき、レオンとミゲルがじぶんのおうちにもほしいって言ってたの」
「なるほど」
たしかに二人とも夢中で遊んでいたので、屋敷に戻っても遊べたらいいと思ってくれたのかもしれない。
「じゃあ、あとふたつ作ってふたりにプレゼントしましょうか」
「うん。ポーちゃんといっしょだね」
ルイスはお気に入りのクマの人形をぎゅっと握りしめる。以前、お揃いのクマの人形をレオンとミゲルにプレゼントしたので『一緒』と言ったのだろう。
「ふたりともよろこんでくれるね」
「そうね」
「ぼくにもあたらしいおもちゃ作ってくれる?」
「もちろんよ。新しいカードを作る?」
「うん、作る!」
ルイスは嬉しそうに頷いた。
数日後、イザベルはルイスを連れて、王宮に向かった。ミゲルに招待されたのだ。
「ねえ、ミゲル、レオン。これあげる」
ルイスが取り出したのはもちろん、イザベルと一緒に作った新しいパズルやカードだ。
「ありがとう。さすが、私の友だ」
ミゲルは嬉しそうにはにかむ。本当は大喜びしたいくせにああやって落ち着いた態度を見せようと必死に頑張るところがとっても可愛い。
一方のレオンは、受け取ったパズルとカルタを持ってジェシカのほうに駆け寄った。
「お母さま! 貰ったよ。屋敷に戻ったらやってもいい?」
「ええ、いいわよ。よかったわね。ルイスにちゃんとお礼は言った?」
「言いました」
「そう、いい子ね。イザベル様にもお礼を伝えるのよ」
「イザベル様、ありがとうございます」
レオンは礼儀正しく頭を下げてお礼を言う。
(かっわいー!)
子供が精いっぱい大人っぽく見せている姿はたまらなく可愛い。
イザベルは胸の内で悶絶しながらも「どういたしまして。たくさん使ってね」と笑顔で答える。レオンははにかみつつも頷いた。
(はあ、三人とも本当に天使……。天使に囲まれながら生活できるなんて、なんて幸せ)
イザベルは幸せに浸りつつ、紅茶を一口飲む。
「ねえ、イサベル様」
「はい」
「これを売ってみたらどうかしら?」
「え?」
ジェシカが手にしているのは、今さっきルイスがレオンにプレゼントしたパズルとカードだった。
「売る?」
思いもよらない提案に、イサベルは戸惑った。
「どうして?」
「どうしてって……イザベル様、本当に気づいていないの?」
ジェシカが大真面目な顔をして身を乗り出す。




